レースの実際
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/08 22:03 UTC 版)
天候 オーバルでは雨天時には危険な為レースが行われない。そのため雨が降っている場合、練習や予選は中止(スターティンググリッドは前レースの着順になる)、決勝レースは順延になる。コース上をより速く乾かすために、すべてのトラックにジェットドライヤー車が配備され、一部のトラックには路面にレイングルーブという雨を乾きやすくする溝が施されている ピット オーバルのピットは一般的にフロントストレート側、ハーフマイルオーバルではフロント/バックストレートに分けて設けられている。コース上の全車が一斉にピットインすることもあるため、マシン一台あたりに一つのピットが与えられる。またガレージとは接続されておらず、各チームは必要な機材と部品を持ち込んでピットを設営することになる。 スタートとリスタート オーバルでのレースでは必ずローリングスタートが採用され、リスタートも同様である。どちらもペースカーが数周先導した後に行われる。NASCARではスタート・リスタートともに2列で行われる。インディカー・シリーズでは原則としてスタートは2列、リスタートは低速オーバルで2列、高速オーバルで1列で行われる。ただしインディ500は特例として、スタートは3列、リスタートは1列で行われる。また、スタート・リスタートの戦略的な利用価値を高めるために、「ペースカーがコース上からはけてから自身のマシンがコントロールラインを超えるまでの間、加速はしてもよいが自分の前の列にいるマシンをオーバーテイクしてはいけない。」というルールがNASCAR、インディカー・シリーズに共通して設けられている。 走行ライン 一般に、バンクが高いトラックは外側と内側いずれのラインを走行してもタイムの差は小さい。逆にロードコースライクなトラックはラインが内側に限定される。これはストックカーとインディカーに共通して言えることである。一方両カテゴリーには、単独走行でレースが進むようなトラックのストレートの走り方に違いがある。オーバルではウォール付近の空気が薄くなる現象が起こる。よって、前面投影面積が広いストックカーは空気抵抗の少ないウォールにできる限り近づいて走行する。対してダウンフォースが必要になるインディカーはターンを出た後空気が濃いコース中央寄りに戻る走り方をする。トライオーバル、Dシェイプオーバル、クアッドオーバルが作られた目的は、フロントストレートでマシンが壁に寄ると観客席から見えづらいという問題を解決するためである。燃料が少ないときの走り方は「燃費走行」と呼ばれ、終始イン側を走る。 ドラフティング(スリップストリーム) オーバルトラックにはロードコースの低速コーナーやシケインのような大きく減速する、またはラップタイムに大きく影響する箇所がない。さらにレースはワンメイクかそれに極めて近い車両で競われる。そのためオーバーテイクするためにはドラフティングが重要な技術となる。特にNASCARでは10台以上が隊列をなしたり、バンプドラフト(2台の車両の前後が接触するほど近づいて走行する技術)を使って速度を稼ぐ技術が要求される。 タービュランス(乱気流) ドラフティングの有効範囲の後ろには乱気流が生じる。複数台のマシンが近距離で走行することがあるオーバルでのレースでは、それぞれが発生させた乱気流がさらに互いに干渉し合い、後方には乱れが非常に大きい気流が形成される。これを受けるマシンは挙動が不安定になり、突然スピンする場面も見られる。トラクションの多くをダウンフォースによって得ているインディカーでは、前に1台しか走っていない状態でもスピンをはじめることがある。 スポッター 高速走行中のマシンからは周囲の状況が判断し辛い。そこで、ピットとは別にトラック全体を俯瞰できる場所(グランドスタンドの上など)にチームクルーを配置し、ドライバーに無線で情報を伝える。この専門のクルーをスポッター (Spotter) と呼ぶ。スポッターは周囲のマシンの位置やレースの全体状況を報告し、作戦面のアドバイスも送る。コーション発生やスタート・リスタートのタイミングを教えるのも重要な仕事である。 クラッシュ オーバルトラックのランオフエリアはコース内側にしかなく、外側はウォールで囲まれている。そのためアンダーステアが出たり、接触や乱気流、タイヤバーストによって車両がバランスを崩すとウォールに衝突し損傷を受けリタイアする、というかたちのクラッシュが多く見られる。何台もの車両が互いに接近して高速で走行する場面では、スタート/リスタート後に10台規模の多重クラッシュが発生することもある。これはNASCARでは「ビッグ・ワン」と呼ばれレース演出の一部になっている。 コーション戦略 前述の通りオーバルトラックでのレースではクラッシュがよく発生する。そのためNASCARやインディカーでは、クラッシュ後のフルコースコーションを利用したレース戦略が考えられる。ピットに入るかステイアウト(コース)に残るか、燃料補給のみかタイヤ交換も行うか、タイヤは4本全て換えるか左右どちらか2本だけか、などをマシンの状態、コースの特性、例年のレース展開などから判断する。ドライバーやチームにとっては、フルコースコーション中にピットに入ることで、順位を大きく落とさずコースに戻れること。観客にとっては各車のタイム差がリセットされ、展開に変化が出ることがメリットになる。 観戦 オーバルトラックの観客席はフロントストレート側につくられるが、そこからバックストレートまでの距離がそれほど遠くなく、ミルウォーキーやインディアナポリスのような老舗のトラックを除けばバックストレートにもバンクが付いている。そのため観客はレース中好みのドライバーとそのドライバーが乗るマシンを目で追って応援出来る。反面、エンジン音や車両が走るときに起こす風でキャッチフェンスが揺れる音のせいで、決勝レース中は騒音は非常に大きい。 安全対策 クラッシュの項にもあるが、オーバルはロードコースに比べてクラッシュの発生率が格段に高い。そしてその中では死亡事故も多く発生している。とりわけデイル・アーンハートSrやダン・ウェルドンの死亡事故はレギュレーションにも特に大きな影響を与えている。SAFERバリアやキャッチフェンスに代表されるコース側の安全対策の他、NASCARは安全性を高めたカー・オブ・トゥモローを導入、インディカーは爆発性が低く発火を目視できるE98バイオマスエタノール燃料を使用するなどマシン側にも厳しい安全対策が施されている。
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