ハイブリッド動力化試験
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「JR北海道キハ160形気動車」の記事における「ハイブリッド動力化試験」の解説
ITT改造後のキハ160-1(2010年9月11日 / 苗穂工場) ITTの床下(2010年9月11日)中央左から、ディーゼルエンジン、アクティブシフト変速機、発電機兼アシストモーター 気動車の動力効率向上と環境性能の充足とを両立し、これらの低廉なコストでの実用化を企図して開発されたハイブリッド駆動システムを試験搭載するための改造で、苗穂工場で2007年に施工された。電動機(モータ)とディーゼルエンジンを搭載し、各々の動力源が駆動軸に直接動力を伝達可能なパラレル方式ハイブリッド駆動の一種で、JR北海道ではモータ・アシスト式 (MA) ハイブリッドと称する。 本方式の動力伝達機構として、アクティブシフト変速機 (Active Shift Transmission, AST) が先行して開発された。これは2組の副軸(カウンターシャフト)を搭載するデュアルクラッチ式の4段自動変速機で、JR北海道と日立ニコトランスミッションとの共同開発によるものである。副軸の1組(2速・4速側)には電動機の入力軸が接続し、エンジンと電動機とは各副軸の噛み合いクラッチを介して個別に動力の断続ができる。 電動機は動力源以外に発電・変速制御の機能を併有し、電力変換のための主変換装置(インバータ / コンバータ)・電力を蓄積供給するバッテリーが接続される。本形式のシステムでは電動機に定格出力 123 kW の交流電動機1基を用い、バッテリーは容量 7.5 kWh のリチウムイオン二次電池を搭載する。 AST は運転状況に応じて電動機・エンジン・出力軸の接続を切り替え、発車時には電動機のみで起動し、惰行運転・減速の際には電動機を発電機として動作させて発生電力をバッテリーに充電する。エンジンの起動は惰行運転時の発電・一定速度到達後の加速時に限られ、効率の高い回転域のみを使用することで騒音や排出ガスの低減に寄与している。各装置は専用の制御装置 (Hybrid Transmission Control Unit, H-TCU) によって制御され、運転室からのマスコンやブレーキハンドルの操作に応じて、エンジンの始動と停止、エンジンや電動機とのクラッチ断続、逆転機の断続などを統合的に自動制御する。伝動系の統合制御が可能になることから、液体式駆動装置で必須であった液体変速機を省略でき、冷却系潤滑系の簡素化や伝動効率の改善が可能である。 改造工事では動力系の大規模な換装が行われ、床下では当初装備のエンジンと液体変速機を撤去し、総排気量 13.0 L のコモンレール式ディーゼルエンジン (330 ps / 2,100 rpm) と AST(形式:THAN-44-200) ・主変換装置・電動機が各1基搭載された。バッテリー・リアクトルなどの一部電装系は室内 1 - 2 位側の旧ロングシート部に搭載され、機器収納部の上部は荷物置き場に変更された。座席は従来のものをすべて撤去し、転用品の座席をクロスシートとして設置している。エンジン・変速機の換装と電装系機器群の追加に伴い、自重は 34.2 t に増大している。 外部塗色は基調色を白色とし、正面窓周囲・車体裾部全周・車体側面中央部に青色を、正面中位の前照灯周囲・側面ロゴ頭文字部に萌黄色を配する。側面には本車の開発コードを図案化した " Inno Tech Train " のロゴマークが配された。 駆動システムの動作は下記の4形態を基本とする。 モータ走行(モード A) 発車時の伝動形態で、AST は電動機と出力軸とを接続し、電動機のみで車両を起動する。エンジン動力は切り離され、起動には関与しない。車両の速度が所定に達するまで本モードで加速する。移行速度は 45 km/h (エンジン停止時) 20 km/h (エンジン動作時)である。 モータアシスト走行(モード B) 力行継続時の伝動形態で、モード A の移行速度に達するとエンジンが始動し、AST はエンジン動力と出力軸とを接続する。電動機からの動力接続も保持され、車両はエンジンと電動機との動力を併用して加速を続行する。 惰行発電(モード C) 力行により所定の速度に達して以降の伝動形態で、AST は出力軸への動力伝達を切り離し、エンジンと電動機とを接続する。逆転機は伝動しない中立位置となる。電動機は、エンジンを動力とする発電機として動作し、発生した電力をバッテリーに充電する。 回生ブレーキ(モード D) 下り勾配や停車のための減速時に用いる伝動形態で、AST はエンジン動力を切り離し、出力軸と電動機とを接続する。逆転機は前進位置に接続される。輪軸からのバックトルクが 最終減速機 → プロペラシャフト → 逆転機 → AST の経路で伝達され、電動機は発電機として動作し回生ブレーキを構成する。発生した電力はバッテリーに充電され、エネルギーを回収する。 長時間の停車や電動機のみでの走行中にバッテリーの電圧が降下した場合、エンジンが自動的に始動し、充電を開始する。 この方式は鉄道車両としては世界初で、エンジンを発電のみに用い電動機のみで駆動するシリーズ方式ハイブリッド駆動との比較では、バッテリーやインバータ装置の小型化が容易で導入費用の低廉化が可能であり、既存気動車の動力系換装も容易に行える利点があるとされる。
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