コモンレール式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/06 02:54 UTC 版)
コモンレール(Common rail 〈英語版〉)システムは、従来のディーゼルエンジンにおける燃料噴射の仕組みとは全く異なり、ガソリンエンジンで培われた電磁式燃料噴射装置の技術を応用し、超高圧に耐えられるように変更したものである。コモンレールは「全気筒に共通なレール」と言う意味であるが、ここでのレールは「軌条」ではなく、中空の「管」状の金属製の丈夫な容器で、ガソリンエンジンの燃料噴射装置における「デリバリパイプ」の役割に近い。この中に燃料を圧送して高圧のまま一時的に蓄えるため、コモンレールは一種の蓄圧器とも言える。 噴射ポンプは無く、燃料の加圧は「サプライポンプ」が行い、噴射制御はECUによる「電磁式インジェクタ」が行う、分業方式の燃料噴射方式である。噴射制御は加圧とは別に各インジェクタで行われるため、ポンプは無理なカムリフトや噴射制御から解放された。最新の排出ガス規制に対応したディーゼルエンジン(クリーンディーゼル)において、噴射量・噴射タイミングともに精密に制御を行い、燃焼時の温度と圧力を自在に制御できる方式として主流になっている。 ディーゼルエンジンの歴史にコモンレールの名前が現れたのは、1910年代終盤のボッシュによるものが最初であるが、当時の開弁圧は90 bar程度と低く、インジェクタの開弁も圧縮空気によるもので、そのためのエアーコンプレッサーを必要とした。1,800 barを超える開弁圧と電子制御によるソレノイドやピエゾ素子を用いたインジェクタを備えた現在のコモンレールとは文字通り隔世の感があるが、基本原理は同じである。 近代的なコモンレールは、1960年代後半にスイスのロベルト・フーバー(英語版)がその原型を開発、スイス工科大学が中心となり研究が進んだ。環境対策としての現在のコモンレール方式を初めて実用化したのは日本のデンソーであり、伊藤昇平、宮木正彦を中心として、ECD-U2という名称で開発され、1995年末に日野・ライジングレンジャーに搭載された。 マニエッティ・マレリでは1990年より、フィアットリサーチセンター(伊語版)、エラシス(伊語版)と共にコモンレール方式の開発を続けていたが、フィアットの経営不振により該当技術と特許は1994年にボッシュに売却された。その後1997年にボッシュが実用化し、アルファロメオ・156 2.4 JTDに乗用車用として初搭載され、翌1998年にはメルセデス・ベンツが OM611 エンジン(独語版・英語版)をC200 CDI/C220 CDIとE200 CDI/E220 CDIに搭載した。 現在の電磁式インジェクタは開弁行為のみを受け持つため、従来の噴射方式と比べ噴射時期の自由度が大幅に向上し、また電子制御技術の向上によって1行程中にパイロット、プレ、メイン、アフター1、アフター2、ポストのような6分割噴射も可能となっており、燃料消費を抑えつつ、燃焼室内の急激な温度と圧力の上昇を防ぐことができるなど、NOxの発生を抑え、かつ、PMも少ない、完全燃焼のための理想的な噴射を実現する制御が可能となった。 ただし、超高圧噴射のため、サプライポンプ・インジェクター共、噴射ポンプ式以上の内部潤滑性能が要求されるが、脱硫の進んだ現在の軽油では(必要な潤滑性能を保つ為の添加剤は使用しているものの)度々潤滑不足が生じ、通常運転の範囲でも故障が生じるケースがある。特に灯油分の多い「寒冷地用軽油」を使用する機会の多い車両に多い。 近年の車種は排出ガス浄化のための酸化触媒やNOx吸蔵還元触媒、ディーゼル微粒子捕集フィルターを装備しており、定期的にこれらに蓄積したススを焼き払う必要があるが、専用の燃料添加弁を持たないシステムの場合は意図的にアフターファイアーを発生させ排気シャッターを絞る事で燃焼機構を作動させる(ポスト噴射と呼ばれ、これらの浄化装置を持つエンジンにおけるエンジンオイルの希釈の原因でもある)。これらの場合、硫黄分の多い従来の軽油や、灯油(炭素)分の多い不正軽油を使用すると短時間に故障を招く原因となる。 インジェクターには製造上避けられない個体差があるが、その内容は本体に印字されており、故障整備などでインジェクターを交換した場合、その特性をエンジン制御コンピューターに記憶させる必要がある。
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