「メイド萌え」の成立
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 04:25 UTC 版)
上記の背景の中から、メイドを好奇心の主題に据えた作品として、メイドの住まう館もの、メイドものというジャンルでパソコン(PC-98x1)用のアダルトゲームとして1993年に『禁断の血族』、1996年にKENJI氏の呼びかけで『殻の中の小鳥』およびその続編『雛鳥の囀』(メーカー:BLACK PACKAGE、のちSTUDiO B-ROOM )が発売されたことにより、のちにメイド萌えと呼ばれることになる嗜好への流れが生み出された。『雛鳥の囀』は19世紀の英国を舞台に身請けしたメイドを調教して取引先の客人に宛がうという設定の育成ゲームである(ただし、時代・風俗考証については稚拙なものであった)。ヒロイン全員がメイドとして登場する最初の作品とされ、以後アダルトゲーム各社の「メイドもの」作品がこれに続く形で登場した。 アダルトゲームにおけるメイドブームの成立初期にメイドを扱ったゲームとしては、他にも1998年に発売された『MAID iN HEAVEN』(メーカー:ストーンヘッズ/PIL)などがあり、当作品の挿入歌であるコミックソング(電波ソングという説もある)、「メイドさんパラパラ」「メイドさんロックンロール」(歌:南ピル子)などの極端な歌詞によっても、のちのゲーム/アニメ/マンガなどのオタク的文脈における「メイド」の方向性が強調・確定されることとなった。 ともあれ、このような流れが一般化してゆく過程において、オタク系文化におけるメイドブームは成人向けゲームにその端を発したものであることが存外に強く作用し、メイド萌えというジャンルには、その当初より安易なセックスアピールが暗黙的に付随するものとして、誤った知識や属性をセットとしてメジャー化させてしまう結果をもたらしてしまった点は否定できない(特に凌辱ものでは、メイドを「性奴隷(セックス・スレイヴ)」や「金持ちの私娼」の様な、誤った形で描く。前出の『殻の中の小鳥』や『MAID iN HEAVEN』も、これらに類する歪んだ視点で描かれている)。 このように、オタク文化的分野におけるメイドブームとは、その発端においては極端にデフォルメされた、確信犯的にギャグ要素・ネタ的要素の強いものであった。 その反動というわけでもないのであろうが、2002年に連載が開始され、2005年にはアニメ化された漫画『エマ』(作者:森薫)は、メイドブームの隆盛を受けて成立した作品といえるが、当作品はいわゆるオタク的文脈によって解釈される「(現代の)メイドもの」とは一線を画した時代考証(※)によって、ヴィクトリア朝末期のロンドンを中心とした当時のイギリスの風俗を精緻に描き、高い評価を得た。 このメイドブームの隆盛から「本来のメイドを描いた作品」が登場するまでの5年余りという時間差は、メイドという記号を拝借し盛り上げた日本におけるサブカルチャーの中で都合よくデフォルメしたメイド像と、家庭内労働者・使用人としての本来のメイド像とのギャップに対する無関心を象徴する例の1つと言える。 すなわち、現在日本の各種メディアによって受け容れられているメイドとは、本来のメイドとはかけ離れ、コスチュームの一部のみを借用し全く異なる意味や属性を付与されて成立した「似て非なるもの」ともいえる。 さらに、コスプレの一環として当時すでにブームとして成立しつつあった「メイド服」を応用したデザインを制服の一部に取り入れた1997年のアダルトゲーム『Pia♥キャロットへようこそ!!2』(カクテル・ソフト/F&C)によって、のちのコスプレ喫茶の流行へと連なる作品が成立する。 この作品はメイドではなくウェイトレスを作品の主題としており、また正確には喫茶店ではなく架空のファミリーレストランを舞台としているが、メイド服を応用してデザインされた「メイドタイプ」を始め、流行のデザインを取り入れた数種類の制服をユーザーが選択できるシステムを採用しており、のちに営業を開始した初のコスプレ喫茶は当作品をモチーフとして一定の成功を収めたことから、これに続く形でコスプレ喫茶の一形態としてメイド喫茶が登場し、以後定着することとなる。すなわち、現在のメイド喫茶のルーツとは、アダルトゲームをモチーフとしたコスプレ喫茶の一形態だと言える。 また、1997年の『To Heart』 (Leaf) に登場するアンドロイド(ガイノイド)「HMX-12“マルチ”」はメイドロボを自称し(ただしマルチ自身が作品中でメイドとしての役割を果たすことはなく、「メイド服」を着用することもない。)、アダルトゲームにおいて後に続く各種の「メイドロボ」の元祖とする主張が多いが、その説には異論も多い。ただし彼女の登場まで暗めの作風が多かったメイド系の作品が、彼女の登場以後一気に明るいコメディな作風のものが中心になった感はあり、後続のメイド物に多大な影響を与えたともいえる。 これらの背景から、1990年代後半から急速に進んだ、東京・秋葉原及び池袋、名古屋・大須、大阪・日本橋におけるアニメ関連商品などを専門に扱う店舗(すなわち、ゲームやアニメのオタク層などを主とする客層とする店舗)の急速な増加といった動きを、成人向けゲームに端を発するメイドブームが誤った形でリード・後押ししてしまったと指摘する見方もある。
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