与那国語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 15:17 UTC 版)
主な単語
(祖納の方言)
代名詞
語の後ろの記号は音調。=はA型、_はB型、]はC型を表す。音調が不明の部分は記していない。[注 6]
単数 | 訳 | 複数 | 訳 | ||
---|---|---|---|---|---|
一人称 | anu] | 私 | banu] | banunta] | 私たち(除外形) |
banta] | 私たち(包括形) | ||||
二人称 | nda= | あなた | ndi= | ndinta= | あなたたち |
近称 | ku= | これ | kuntati | これら | |
中称 | u= | それ | untati_ | それら | |
遠称 | kari= | あれ、彼/彼女 | kantati_ | あれら、彼ら | |
再帰1 | sa= | 自分 | si | 自分たち | |
再帰2 | du] | 自分 | |||
dunudu | |||||
場所近称 | kuma] | ここ | kumanta | ここら、ここらへん | |
場所中称 | uma] | そこ | umanta | そこら、そこらへん | |
場所遠称 | kama= | あそこ | kamanta | あそこら、あそこらへん | |
疑問有性 | ta= | 誰 | tanta | 誰ら | |
疑問無性 | nu] | 何 | |||
場所疑問 | nma] | どこ | |||
時間疑問 | ici] | いつ | |||
数量疑問 | iguci= | いくつ | |||
igurati= | いくら |
一部の代名詞は格によって不規則な語形を取る。一人称代名詞に対して主格=ŋa(が)、属格=nu(の)が付く場合と、場所代名詞に所格=ni(に)が付く場合、以下のように変則的な語形になる。場所代名詞に関しては、語末のaがiに交代することで所格の表現になる。
基本形 | 格 | 特殊語形 | 訳 | |
---|---|---|---|---|
一人称単数 | anu] | 主格・属格 | a=ŋa | 私が、私の |
一人称複数
(除外形) |
banu] | 主格・属格 | ba=ŋa
ba/banta] |
我々が
我々の |
banunta] | ||||
同(包括形) | banta] | |||
場所近称 | kuma] | 所格 | kumi] | ここに |
場所中称 | uma] | umi] | そこに | |
場所遠称 | kama= | kami= | あそこに | |
場所疑問 | nma] | nmi] | どこに |
格助詞
語 | 訳 | 例文 | 例文訳 |
---|---|---|---|
=ja | ~は | kari=ja ku-n | 彼は来る |
=du | ~ぞ | u=ŋa=du | これぞ(まさに) |
=ŋa | ~が | kari=ŋa ku-n | 彼が来る |
=nu | ~の | kari=nu suŋuti | 彼の本 |
=nki | ~へ
~に |
isu=nki hir-u-n
kari=nki tura-n |
磯へ行く
彼にあげる |
=ni | (場所)で、に
(時間)に |
isu=ni amb-u-n
isu=ni bu-n unu basu=ni |
磯で遊ぶ
磯にいる その時に |
=gara | ~から | isu=gara su-ta-n | 磯から来た |
=tu | ~と | kari=tu ku-n | 彼と来る |
=si | ~で | katana=si cu-n | 刀で切る |
|
~も |
|
彼も来る |
=ka | ~より | ku=ka maci | これよりよい |
=nta | ~たち、~とか | agami=nta | 子供たち |
=ndi | ~と | ku-n=di n-ta-n | 来ると言った |
=su | ~の(準体助詞) | n-ta-n=su=ja | 言ったのは |
=nni | ~のよう | u=nni=nu | このような |
「~の」に当たる助詞が=nuと=suに、「~と」に当たる助詞が=tuと=ndiに分かれていることに注意。=niと=nkiはどちらも受動文の動作主を表すのに使える。
与那国語では目的格を表す「を」は存在せず、目的語は常に無標になる。一方で主格を表す助詞は=ŋa、主題を表す場合は=jaを取る。主格の=ŋaは他動詞文ならば必ず使われるが、自動詞文の場合は揺れがある。また、他の琉球諸語では主格に「の」相当の属格助詞(与那国語=nu)を使う用法が見られるが、与那国語には存在しない。[38][注 7]
数詞・類別詞
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
与那国語の数詞 | tʔu | tʔa | mi | du | ici | mu | nana | da | kugunu | tu |
数える対象 | 人間 | 動物 | 無生物 | 平らな物 | 樹木 | 日にち | 回数 | 歩数 | 握り |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
与那国語の類別詞 | -taintu | -gara | -ci | -ira | -mutu | -ka/-ga | -muruci | -mata | -ka |
例えば「一つ、二つ、三つ、四つ」であれば"tʔuci, tʔaci, mici, duci"('とぅち、'たち、みち、どぅち)のようになる。
- ンサイワルカヤ (こんにちは)
- フガラサ、フガラッサ (ありがとう)
- ウンティ(サツマイモ)
- ンニ (船)
- ダマ(山)
- ウンナガ (海)
- カー (川)
- ミン (水)
- ツァー (草)
- ハナ (花)
- ンタ (土)
- ダー (家)
- チー (火)
- イチブグ (石)
- ティダン (太陽)
- 'クユ (月)
- フチ (星)
- 'トゥムティ (朝)
- ツマ (昼)
- ドゥサビ (夕方)
- ドゥル(夜)
- 'トゥムティヌイー (朝食)
- ツマドゥギ (昼食)
- ドゥイ (夕食)
- ドゥライ (集まり)
- ドゥー(湯)
- ドゥタ (ユタ)
- アナンプ (穴)
- ツー (糞)
- サナ (傘)
- タブグ (煙草)
- グサン (杖)
- ドゥユ (紐)
- アミティ (道)
- カン (神)
- アディ (味)
- アグイ、アグ (あくび)
- アシ (汗)
- アシブ (汗疹)
- イティ (息)
- ミンブル(頭)
- カラン (髪)
- ウムティ、チラ (顔)
- 'タイ (額)
- ミー (目)
- ミンタフ (耳)
- ハナブル (鼻)
- ンギ (髭)
- 'ティブニ (口)
- ハー (歯)
- 'ター (舌)
- カマティ (頬)
- ウトゥカ゜イ、カグディ (顎)
- ヌビ (首)
- カタブルチ (肩)
- カンナ (腕)
- バンタ (脇)
- ティー (手)
- チムク゜ティ、ンニ (胸)
- チー、チッティ (乳房)
- チヌサティ (乳首)
- バタ (腹)
- フス (へそ)
- クチブニ (背中)
- ンビ (尻)
- ンビルミ (肛門)
- マラ (男性器)
- ヒー、マリミ (女性器)
- ンブチ (膝)
- チニ (脛)
- チニクラ (ふくらはぎ)
- ハン (足)
- アドゥビラ (かかと)
- クー (肺)
- カンダイ (燻製)
- ミー、チチ (肉)
- サー (茶)
- サギ (酒)
- カイク゜(卵)
- アンダ (油)
- チンダ (ネギ)
- キンダグニ (人参)
- ウブニ (大根)
- ヒル (ニンニク)
- キヌナイ、ナイムヌ (果物)
- トゥムンブ (桃)
- イチムチ (動物)
- イヌ (犬)
- マユ (猫)
- ワー (豚)
- ミッタ、ミタ (鶏)
- ウチ (牛)
- ンマ (馬)
- ヒビダ (山羊)
- ウヤントゥ (鼠)
- ハトゥ (鳥)
- ハドゥヤ (雀)
- ガラチ (カラス)
- クディラ (鯨)
- ヒットゥ (イルカ)
- サバ (鮫)
- イユ (魚)
- マンビキ (シイラ)
- アティヌイユ (カジキ)
- カンナ (蟹)
- アガヤ (貝)
- ギラ (シャコガイ)
- トゥガラ (蛇)
- バガドゥ (蜥蜴)
- ダマミ (亀)
- カミ (海亀)
- アタビタ (蛙)
- ムチ (飛ぶ虫)
- ダグ (這う虫)
- イサトゥマイ (カマキリ)
- カランハヤ (カミキリムシ)
- トゥビンタヤ (蛍)
- ハビル (蝶)
- ハタ (蜂)
- アギダン (トンボ)
- サンサン (蝉)
- カダンク (蚊)
- サダン、ツァダン (ボウフラ)
- ハイ (蝿)
- アヤ (蟻)
- ンカディ (百足)
- ンダミ (カタツムリ)
- ディミミ (ミミズ)
- ミンブルブッタ(馬鹿・阿呆)
- カンナクラ (力持ち)
- バティ (罰)
- バッパイ (失敗、間違い)
- ガンドゥ (元気)
- トゥバルマ (恋人)
- トゥン (妻)
- ンクティ (赤ちゃん)
- アガミ (子供)
- ウヤハ (親子)
- ダニンドゥ (家族)
- アヌ (私、僕、俺)
- アティ (姉)
- スナティ (兄)
- ウトゥダ、ビギブナイ (兄弟、姉妹)
- アブタ (母親)
- イヤ (父親)
- アブ (祖母)
- アサ (祖父)
- ウミアブ (曽祖母)
- ウミアサ (曽祖父)
- スー (今日)
- アッタ (明日)
- ンヌ (昨日)
- クトゥチ (今年)
- ディン (来年)
- クドゥ (去年)
- ニディ (右)
- ンダイ (左)
- ウヤビ (上)
- タラ (下)
- マイサン (大きい)
- グマン (小さい)
- ウブサン (多い)
- サガン (少ない)
- ダンサン (悔しい、悲しい、残念)
- イナムヌ (悲しい、残念)
- シャナン (嬉しい)
- ダラン (柔らかい)
- カタン、クヮン (固い、硬い)
- キャン、キャーン (痒い)
- ダムン (痛い、痛む)
- バタク゜リサン (お腹が痛い)
- アサン (浅い)
- ドゥリードゥリー (ゆっくり)
- ハク゜ン (剥ぐ、剥く、配る)
- カタン、マンディルン (混ぜる)
- バチルン (忘れる)
- キャン (消す)
- キャキ゜ルン、キルン (蹴る)
- キットゥン (蹴る、つまずく)
- カユン (通う)
- カラグン (乾く)
- カラガン (乾かす)
- カブン (嗅ぐ)
- スルン (連れる、抱く)
- アチマルン、スリルン、ドゥルン (集まる)
- ドゥルン (許す)
- トゥン (倒す、解体する)
- ドゥムン (読む、数える)
- カンドゥン (被る)
- カラマルン (絡まる)
- カラン (辛い)
- クン (聞く)
- カリルン (聞こえる)
- カンガルン (考える)
- カンギルン (背負う)
- カルン (刈る)
与那国方言版「雨ニモマケズ」
「アミンキン マギラヌ」 (雨ニモマケズ)
アミンキー マギラヌンキ (雨ニモマケズ)
カディンキー マギラヌンキ (風ニモマケズ)
フユヌヒーサー ナチヌ アッツァンキ マギラヌンキ (雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ)
ガーリナ ドゥバダ ムティ (丈夫ナカラダヲモチ)
ドゥグ ムタヌンキ (慾ハナク)
イカナチン クンドゥンディラヌンキ (決シテ瞋ラズ)
イッチン トゥグトゥ バライ=ブイ (イツモシヅカニワラッテヰル)
チニ ヌーマイ ドゥチク゜トゥ (一日ニ玄米四合ト)
ンストゥ イビタティヌ ダサイバ ハイ (味噌ト少シノ野菜ヲタベ)
ヌンクン (アラユルコトヲ)
ドゥヤ サンミンキ イリラヌンキ (ジブンヲカンジョウニ入レズニ)
ンニ トゥミ 'ティー トゥミ バガイ=ブイ (ヨクミキキシワカリ)
ウニティ バチラヌンキ (ソシテワスレズ)
ヌヌ マチ=キヌ ムリクヌ カタスバヌヌ (野原ノ松ノ林ノ蔭ノ)
グマータティヌ カヤダティニ ブイティ (小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ)
アカ゜バラニ ダミ=ブル アガミカ゜ンナリタヤ (東ニ病気ノコドモアレバ)
イティティ ンニ=トゥラシ (行ッテ看病シテヤリ)
イリバラニ バリ=キー=ワル アブタカ゜ンナリタヤ (西ニツカレタ母アレバ)
イティティ ウヌ マイヌ タバ カタミ (行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ)
ハイバラニ ンニンダギヌ 'トゥカ゜ワタヤ (南ニ死ニサウナ人アレバ)
イティティ 'トゥーン シバキラヌンキ ンサンドンディ ンディ (行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ)
ニンバラニ ムンドゥ アラシグトゥカ゜ウグリ=ブイカ゜シヤ (北ニケンクヮヤソショウガアレバ)
バリンナ ウンニヌ クトゥ キンナンディ ンディ (ツマラナイカラヤメロトイヒ)
サリヌ バスヤ ヌダ ウトゥシ (ヒドリノトキハナミダヲナガシ)
ヒサル ナチヤ トゥンカ トゥンカ アイティ (サムサノナツハオロオロアルキ)
ブールニ キナラヌ=ムヌンディ ンダリ (ミンナニデクノボートヨバレ)
フミラリラヌタンティン (ホメラレモセズ)
クチサ ミヌンキー (クニモサレズ)
ウンニヌ ムヌンキドゥ (サウイフモノニ)
アヌヤ ナイブサル (ワタシハナリタイ)
注釈
- ^ 2009年2月19日発表。アイヌ語(15人)より話者数が多い
- ^ 例えば/aragu/「非常に、すごく」は平山・中本(1964)ではA型/高型とされているが、上野 2010の調査では/a[raː!gu/となっている([は上昇、!は半下降)。また/itʔin/「一番、最も、非常に」は前者の研究ではA型/高型だが後者の調査では/itʔin]/(C型/下降型)と併せて/[it!tʔin/という音調も報告している。
- ^ グループ・小グループ・クラスによる三段階の分析は、山田 2016, pp. 270–271。
- ^ ただし/ŋarun/(濡れる)は非意志的な動詞だが完了接辞に-a-を取り/ŋan/となり、/hirun/(行く)は意志的な動詞だが完了接辞に-ju-を取って/hjun/となる。
- ^ この行の活用形は、内間(1984)でのみ報告されている。
- ^ 以下の代名詞は山田, ペラール & 下地 2013, p. 297。
- ^ 当該論文では、自動詞文主語の動作主性が高いほど=ŋaを取りやすいという可能性が高いとしている。
出典
- ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Yonaguni”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History
- ^ 消滅の危機にある方言・言語,文化庁 Archived 2015年4月26日, at the Wayback Machine.
- ^ “八丈語? 世界2500言語、消滅危機 日本は8語対象、方言も独立言語 ユネスコ”. 朝日新聞 (2009年2月20日). 2014年3月29日閲覧。
- ^ a b 中本 1976, p. 189.
- ^ a b c d e f g h i 加治工 1984, pp. 332–355.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, p. 291.
- ^ 中本 1976, p. 197.
- ^ 加治工 1984, p. 346.
- ^ 中本 1976, pp. 188–189.
- ^ 中本 1976, pp. 199.
- ^ a b c d 中本 1976, pp. 207–209.
- ^ 中本 1976, p. 201.
- ^ Thorpe 1983, pp. 48–49
- ^ 中本 1976, pp. 196–200.
- ^ 中本 1976, pp. 202–203.
- ^ 加治工 1984, p. 262.
- ^ 加治工 1984, p. 310。鳩間島の例。
- ^ Thorpe 1983, p. 48
- ^ 上野 2010.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, pp. 293–294.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, p. 294.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, p. 293.
- ^ 中澤 2018, p. 133.
- ^ 上野 2010, p. 3.
- ^ a b c d e f g h 山田, ペラール & 下地 2013.
- ^ 山田 2016, p. 271.
- ^ a b c d e f g 山田 2018.
- ^ a b 内間 1984, pp. 526–537.
- ^ 山田 2016, p. 266.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, p. 302.
- ^ 山田 2016, pp. 285–286.
- ^ 内間 1984, 「形容詞活用の通時的考察」.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, p. 303.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, pp. 303–304.
- ^ 山田, ペラール & 下地 2013, p. 295.
- ^ 山田 2016b, pp. 148–156.
- ^ 狩俣 2015, p. 242.
- ^ 山田 2016, p. 174.
- ^ a b 山田, ペラール & 下地 2013, p. 296.
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