地図混乱地域
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地図の訂正
合意の形成
地図混乱問題の解消には、地図の訂正が欠かせない。ただし、地域内の利害関係者[† 6]全員が現況を認めること、つまり実際にその土地に居住している人を所有権者とし、現況における境界線を採用することが、その前提条件となる[† 7]。そのためには、「利害関係者全員が合意する」いわゆる集団和解を採る方法が最善である。
和解に至らない場合は、「未同意者を相手に所有権確認の訴えや境界確定の訴えを提起する」、「不動産登記法に定める筆界特定制度を利用して、行政レベルで筆界を特定する」、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)に基づき、土地家屋調査士会が運営する境界問題相談センターを利用して、境界紛争を解決する」など、専門知識を持つ第三者の判断を仰ぐ選択肢も挙げられる[18]。
しかしこれらの方法だと、たとえ地図訂正が行われたとしても、その後に地域内の私道を自治体が管理する道路として寄付する際には、改めて未同意者に道路寄付承諾を得なければならない[19]。
いずれにせよ、一筆の土地に地権者が複数存在している当地域で、利害関係者全員が現況を認め、さらに関係土地所有者から境界確認の立会いを得ることは極めて困難であり、合意形成のための膨大な労力と時間が必要になる[† 8][20]。
調査図素図作成と各筆測量
地図を訂正するためには、現状を反映させる境界画定を行った上で、地図を作り替えなければならない。まず現地を調査するとともに、たたき台となる調査図素図(基礎図、集団和解図)[† 9]をつくる。その上で、合意の形成時に妨げとなった問題点を解決していくとともに、隣地との境界を確認して境界承諾書に押印を交わし、それらを正しく反映させた地図を作成していく流れになる。地目、面積や所有者を記載していく際には、細かく引かれた分筆線の記入漏れがないよう、一筆ごとに突き合わせて作成される[21]。そのため、たたき台とはいえ地図訂正の最終目標を示す図面ともなる[22]。
合意が形成された後は、各区画の地積を確定させるための各筆測量工程に入る。まず、法務局に測量基準点の設置を陳情した上で、図根三角点、図根多角点や細部図根点を設置し、これらを基に地域内の各区画を測量する。そして、所有者の立会いの下に土地の境界標識(コンクリート製の杭、金属標など)を設置する。もし、現存しない里道、水路や畦畔(けいはん、あぜ道)が地図上に描かれている場合は、それらの位置を正確に確認し、利害関係者に払い下げ承諾を求める[† 10]。これらの工程を通じて、地積測量図、道路台帳附図や不動産登記法に定める地図を作成し、地図訂正の申出と地積更正登記を行う[23]。
さらに、私道を自治体の道路として移管するには、利害関係者全員による私道の寄付承諾書、各筆界境界承諾書を得た上で、必要書類や各種図面を添付して、自治体に道路敷地寄付申請を行う[24]。
注釈
- ^ 登記記録に記録されている事項の全部または一部を証明した書面で、かつての登記簿謄本、抄本に対応するものをいう。
- ^ 全国に点在していた未開墾地13,000 km²が6年間で測量され、約4,000枚の地図が作られた。こうして約14万戸の自作農が生まれた(森下1997 p.24)。
- ^ 宅地内に造成された生活道路を市町村道として認定してもらえない限り、道路や付随する側溝、下水道などの敷設や復旧などにかかる費用は、すべて住民で負担しなければならない。
- ^ 地方税法第381条第7項に「市町村長は、登記簿に登記されるべき土地又は家屋が登記されていないため、又は地目その他登記されている事項が事実と相違するため課税上支障があると認める場合においては、当該土地又は家屋の所在地を管轄する登記所にそのすべき登記又は登記されている事項の修正その他の措置をとるべきことを申し出ることができる」旨が規定されている。法務局で修正措置がとられない際には、市町村による測量をもって地積を計算し(調査士会 p.187)、あるいは登記面積に路線価指数を乗じて算出し(森下2007 p.104)、占有者(実際にその土地に居住している人)に課税するケースが見られる。
- ^ 緯度や経度を基に、1951年以降に行われる各自治体の地籍調査から作成される正確な地図で、「14条地図」「14条1項地図」ともいう。もともと同法17条に規定されていたことから、かつては「17条地図」と呼称された。なお、調査開始から60年を経た、2010年(平成22年)3月末時点での地籍調査進捗率は49%に留まる。
- ^ 具体的には、登記上の所有権者、実際に使用している占有者、抵当権者、仮登記権利者が挙げられる。ほか、関係市町村による協力も必須である(森下2007 p.21)。
- ^ a b 民法162条2項に「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する」旨が規定されている。
- ^ 地図訂正により各々の資産としての土地の価値が増減することは避けられないため、現実に集団和解の成立は難しい。地域全体の地図訂正自体には理解を得られたとしても、具体的な押印の段階に入ると、不満や金銭要求、境界線をめぐるトラブルが頻発し、いわゆる「総論賛成、各論反対」という壁に突き当たるという。また、所有者の住所確認ができない、係争による相続登記が済んでいない、多額の抵当権が設定されているなど、いわゆる「事故物件」の存在も和解の大きな障害となり得る(森下2007 pp.22,27,104-105,162)。
- ^ 調査図素図は地籍調査作業規程準則第16条に定められるもので、地籍調査を実施する際の必須資料である。
- ^ 里道(赤線)や水路(青線)など、昔から農道や用水路として地域住民によって作られた公共物のうち、道路法や河川法など管理に関する法律の適用外にあるものを法定外公共物という。これらは地租改正に伴って国有地とされていたが、2005年(平成17年)3月末までに市区町村に譲与され、その行政財産として管理されている。この法定外公共物が何らかの理由で現存しないときに、行政財産としての用途を廃止する手続きを行うことで、その土地について市区町村から購入する(つまり、払い下げを受ける)ことができる。ただし、その際には自治会長(町内会長)、水利関係者、隣接地所有者および利害関係人などの同意が必要となる。
- ^ 地券の発行に伴って、付図として作成された地図を「地券地図」、「(地租改正)地引絵図」(じびきえず)という(森下1995 p.26)。
- ^ 字限図は所有者の自己申告で作成し、これを官吏が検査した。図面の作成目的が租税徴収であることが知られていたため、実際の面積より小さく測って記載されるなど、正確さに欠けるものであった。地籍調査をすると、実際と字限図の広さとでは、2割程度違う場合があるという(毎日新聞 1993年5月31日夕刊、平成14年度土地家屋調査士試験 第4問)。
- ^ 土地の重複や脱落を防ぐために、一筆の土地ごとに押さえながら調査したことに由来する。さらに、明治時代初期から作成された上述の地図を総称して「談合絵図」(だんごうえず)、「談子図」(だんごず)、「野取絵図」(のとりえず)などともいわれる(森下1995 p.60、平成14年度土地家屋調査士試験 第4問)。
- ^ 2005年10月時点における、法務局(登記所)備付地図の総枚数は約646万5千枚。うち、公図(地図に準ずるもの)は287万枚。さらに、その大半を占める約207万枚は、明治時代に作成された土地台帳付属地図である(清水他2006 p.23)。
- ^ 国土調査法に基づく「地籍図」、土地区画整理事業による「確定図」も、それぞれ同様に扱われる。
- ^ 川崎市の測量助成制度については2022年3月31日をもって廃止された[34]。
- ^ 1955年に施行された土地区画整理法により、旧認可の区画整理は1960年3月末までに完了すべき制限が付加されたことによる(調査士会 p.186)。
- ^ 不動産登記法第37条に「地目又は地積について変更があったときは、表題部所有者又は所有権の登記名義人は、その変更があった日から一月以内に、当該地目又は地積に関する変更の登記を申請しなければならない」旨が規定されている。つまり、土地の用途を変更したとき(山林や畑を造成して家を建てたときなど)は、1か月以内に「地目変更登記」を行わなければならない。
- ^ 「市による測量を受け、測量図を保有している上に、これに従った固定資産税が課税されているから、自分所有の土地は問題ないはず」と、多くの地権者は地図混乱の実態を認識していなかったという(調査士会 p.188)。
- ^ 農地法第4条・第5条により、4 haを超える農地を転用する場合は、農林水産大臣による農地転用許可が必要となる。そのためには、里道、水路や畦畔の境界画定、農地所有者ごとに造成後の区画に合わせた測量と分筆、農業委員会への宅地転用許可申請を、それぞれ行わなければならない。
出典
- ^ 森下1995 p.103
- ^ a b “地籍調査・登記所備付地図整備の促進策に関する提言” (PDF). 民主党. 2011年3月13日閲覧。[リンク切れ]
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- ^ 調査士会 p.188
- ^ a b “民主党「地図PT」が大津市住吉台の地図混乱地域を視察”. 民主党 (2009年4月27日). 2009年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年5月2日閲覧。
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- ^ a b “地籍調査資料” (PDF). 土地総合研究所. 2011年4月29日閲覧。
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- ^ “インサイド滋賀 所有権不明確「地図混乱地域」大津・住吉台 新地図へ住民・行政一体” (PDF). 読売新聞. (2009年11月30日) 2011年6月6日閲覧。
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分科員 川端達夫、法務省民事局長 房村精一
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- ^ 森下1995 pp.171-215 森下1997 pp.104-120 森下2007 pp.23,64,86
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- ^ “宮前区の蔵敷団地 「公図混乱」12日に和解成立”. 東京新聞. (1994年9月9日)
- ^ “公図混乱地域の川崎・蔵敷団地 境界争い解決へ”. 神奈川新聞. (1994年9月9日)
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- ^ “活動紹介” (PDF). 夢野西まちづくり協議会. 2011年5月2日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “戦前から混乱 区画整理すっきり 兵庫区湊川10丁目、菊水町10丁目 登記変更なく半世紀”. 神戸新聞. (1996年8月25日)
- ^ “でたらめ地番訴訟の住民勝訴 「やっと自分の土地に」井戸生活に耐え喜び”. 中国新聞. (1991年7月31日)
- ^ 森下1995 pp.90-98
- ^ 2019.2.5朝日。
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