イエダニ 被害と対策

イエダニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 05:53 UTC 版)

被害と対策

上記のようにネズミの寄生虫ではあるが、その生息域が人家であり、古くからなじみの深い衛生害虫であった[12]。家の中のダニといえば本種である、という状況があり[13]日本では第二次大戦まではネズミの棲む家が多く、ダニに刺されて痒いと言えば本種によるものであった由。その後の衛生環境の改善で数は減ったが、これは主に人家の構造が変わり、特に屋根裏が少なくなり、家にネズミが住み着くことが少なくなったこと、それも下水に棲むドブネズミの増加に対して家に住み込むクマネズミが減ったことが原因と考えられる[13]。しかし都市の繁華街などでネズミが再び増加し、本種の被害も発生している。

吸血するのは第1若虫と成虫(雌雄とも)であり、普通はネズミに付き、吸血しない時期にはその巣中に潜む。しかしネズミの巣内で個体数が増加すると巣を離れるものが現れ、ヒトを刺すようになる。ネズミが死んだ際にもダニが這い出し、被害が集中して出る。また、ネズミの子が巣立った後にも被害が出やすく、これは年間に5-6回になるのに対して、上記の鳥寄生性のダニの害は雛の巣立ち後に出やすく、4-7月(特に5-6月)と9月に集中し、冬期にはあまり出ず、冬に害をなすのは主として本種である[14]

刺されると激しい痒みを伴う小発赤、発疹を生じる。へそ周辺の腹部、脇の下、陰部などに被害が起きやすく、また小児や女性では症状が激しく、また襲われやすい。実験動物のマウスなどが害を受けることもある。ちなみに汗で湿っていて柔らかい肌の部分を好み、往々に陰部であったりすることから『エロダニ』の異名で呼ばれた[15]

症状はアレルギー反応により、従って噛まれた経験によっても変化する。同じ家族の中でも反応の程度は大きく違うことは珍しくなく、しかし大抵は1週間程度で症状は治まる。ちなみに上述の鳥由来のダニに噛まれた場合もその症状はよく似ており、そこから区別することは出来ない[15]

それ以外の被害、例えば病原体を媒介する、といったことは現実には起きていないが、実験的には発疹熱リケッチアを媒介する能力があることは確かめられている。他に再帰熱やペストの病原体を保有することもあるという[10]

駆除法としては、まずネズミの駆除が重要で、ネズミの巣を探して焼却し、周辺にダニがいるはずなので乳剤や粉剤を散布する。ネズミが死んだ場合もダニが周辺に這い出すので死体を除去すると同時に周辺に殺虫剤を散布する必要がある。しかし巣にしても死体にしても目の届かないところに多く、発見は難しい。燻煙などの方法でフェニトロチオン、ペルメトリオン、ダイアジノンフェンチオンなどを散布するのが有効となる。

なお、下記のように家に住み込む鳥に寄生するダニが本種と同様の害を出す場合があり、その場合には当然ながら鳥の巣に対処しなければ意味がなく、このような本種への対処法をしても被害がなくならないことがあり得る[14][16]


  1. ^ 江原(1990)p.198
  2. ^ 以下、佐藤編(2003),p.191
  3. ^ a b 佐藤編(2003),p.191
  4. ^ 江原(1990),p.198
  5. ^ 江原(1990),p.199
  6. ^ 嘉納、篠永(1997)p.185
  7. ^ 以下、主として佐藤編(2003),p.192
  8. ^ 岡田他(1988),p.397
  9. ^ 佐々学、私共のダニ類研究の回顧 日本ダニ学会誌 第1回日本ダニ学会大会講演要旨(補足) 1993年 2巻 2号 p.99-109, doi:10.2300/acari.2.99
  10. ^ a b 青木(1963),p.47
  11. ^ 以下、佐藤編(2003),p.194-197
  12. ^ 以下、主として佐藤編(2003),p.192-123
  13. ^ a b 島野、高久編(2016),p.5
  14. ^ a b 島野、高久編(2016),p.105
  15. ^ a b 江原(1990),p.200
  16. ^ これに関わって青木(1963),p.49-59ではこれら3種の見分け方が指南されているが、これがまた採集してプレパラートを作成し、顕微鏡観察で胸板と鋏角を見ろ、というもので、これを覚えておけば『専門家に尋ねなくったって』識別可能であり、『物知り顔をして』みんなに威張ることも出来るとのこと。しかしそれが出来るならもはや素人とは言えないのではないかという気もする。
  17. ^ 青木(1968),p.46
  18. ^ 島野(2015),p.198


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