イエダニ イエダニの概要

イエダニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 05:53 UTC 版)

イエダニ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱 Arachnida
: ダニ目 Acari
亜目 : トゲダニ亜目 Mesostigmata
: オオサシダニ科 Macronyssidae
: Ornithonyssus
: イエダニ O. bacoti
学名
Ornithonyssus bacoti (Hirst)
英名
Tropical rat mite

特徴

雌成虫でも体長1 mm程度のダニ[2]。雌成虫の体は楕円形で扁平、柔らかくて体長は0.7–1.0 mm、幅は0.3 mmで白から淡褐色をしているが、吸血すると腹部が丸く膨らんで体長1–1.3 mmになり、赤黒い色になる。背面前方を覆う背板は前が幅広く、後方が細くなる長卵円形で長さ/幅の比は約2.7で、18対36本のやや長い毛が生えている。腹面前方にある胸板は横に長い長方形をしており、毛が3対生えている。その後方にある生殖腹板は細長くて後方に狭まり、多少とがった毛が1対ある。腹面後方にある肛板は後方に狭まる洋梨型で、3本の毛がある。それらのキチン板以外の体表は表裏共に剛毛が密生し、背側には80対以上もある。鋏角は細長く、末端は鋏状で歯がない。

分布

全世界に広く分布するが、日本では移入種であり、大正時代(1912年から1926年)に入ったものと言われる[3]。本種の主たる宿主であるクマネズミインドか南西アジアであったと推定されており、インドの文化が東西に伝搬するのに合わせてその分布を広げたと考えられ、ヨーロッパ全域に拡がったのは13世紀とされる。他方でドブネズミ中央アジアが原産とされ、ヨーロッパ全体に行き渡ったのは17世紀とされる。いずれにせよ、本種もこれらのネズミと共に分布を広げたと考えられる[4]

日本での本種による被害は1926年頃から出始め、これは一説によると1923年の関東大震災の際に救援物資として国外から運び込まれた毛布などと共に持ち込まれたネズミがもたらしたという。日本全国に拡がったのは第二次世界大戦前であった[5]

生態など

イエダニは吸血性であり、生涯それ以外の餌は摂らない。本来の宿主はクマネズミであるが、ヒトからも頻繁に血を吸う[3]。またドブネズミも宿主となる[6]

生活史としては、卵、幼虫、第1若虫、第2若虫、成虫の5段階がある[7]。幼虫は歩脚が3対しかない。若虫は成虫と同じく4対の脚を持つが、生殖器が未発達で雌雄の区別がつかない。吸血は雌雄とも行うが、雌成虫はネズミから吸血した後に宿主を離れ、ネズミの巣の中で数日の間に20個ほどの卵を産む。雌は繰り返し吸血しては産卵することを繰り返し[8]、1頭の雌個体は生涯に100個ほど産卵する。卵は1–2日で孵化し、幼虫が生まれる。幼虫は吸血をせず、約1日で脱皮して第1若虫となる。これは1回吸血して脱皮し、第2若虫となる。第2若虫は吸血せずに脱皮して成虫となる。卵から成虫までの期間は11–16日程度。成虫は1–2日で交尾を終える。繁殖は夏季に多い。なお、宿主を探すのは二酸化炭素に誘引されることによる[9]

なお、第1若虫と成虫は吸血せずとも1か月ほど生き延びることが出来る[10]

類似するもの

同様に人家内でヒトを刺すダニは他にもある[11]。特に同属でムクドリなどにつくトリサシダニ O. sylvarumニワトリにつくワクモ Dermanyssus gallinaeスズメツバメにつくスズメサシダニ D. hirundins などもよくヒトを刺し、外見もよく似ており、被害の状況も似ている。本種との違いはトリサシダニの場合、同属なので極めてよく似ていて区別が難しい。本種よりやや小型なこと、背板がやや細長いこと、背板の毛が本種が18対に対してこの種が17対であること、それ以外の背面の毛がまばらであること、胸板の毛が本種は3対であるのに対して2対であることなどで区別できる。後の2種は別属なのでもう少し様々な違いはあるが、外見的にはとてもよく似ている。胸板の毛に関してはこの2種も2対である。


  1. ^ 江原(1990)p.198
  2. ^ 以下、佐藤編(2003),p.191
  3. ^ a b 佐藤編(2003),p.191
  4. ^ 江原(1990),p.198
  5. ^ 江原(1990),p.199
  6. ^ 嘉納、篠永(1997)p.185
  7. ^ 以下、主として佐藤編(2003),p.192
  8. ^ 岡田他(1988),p.397
  9. ^ 佐々学、私共のダニ類研究の回顧 日本ダニ学会誌 第1回日本ダニ学会大会講演要旨(補足) 1993年 2巻 2号 p.99-109, doi:10.2300/acari.2.99
  10. ^ a b 青木(1963),p.47
  11. ^ 以下、佐藤編(2003),p.194-197
  12. ^ 以下、主として佐藤編(2003),p.192-123
  13. ^ a b 島野、高久編(2016),p.5
  14. ^ a b 島野、高久編(2016),p.105
  15. ^ a b 江原(1990),p.200
  16. ^ これに関わって青木(1963),p.49-59ではこれら3種の見分け方が指南されているが、これがまた採集してプレパラートを作成し、顕微鏡観察で胸板と鋏角を見ろ、というもので、これを覚えておけば『専門家に尋ねなくったって』識別可能であり、『物知り顔をして』みんなに威張ることも出来るとのこと。しかしそれが出来るならもはや素人とは言えないのではないかという気もする。
  17. ^ 青木(1968),p.46
  18. ^ 島野(2015),p.198


「イエダニ」の続きの解説一覧




イエダニと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「イエダニ」の関連用語

イエダニのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



イエダニのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのイエダニ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS