ちん【▽枕】
まくら【枕】
読み方:まくら
1 寝るときに頭をのせる寝具。「―が変わると眠れない」「氷―」「ひざ―」
3 寝ること。宿ること。「旅―」
4 長い物を横たえるとき、下に置いてその支えとするもの。「―木」
6 話の前置き。落語などで、本題に入る前の短い話。「時局風刺を―に振る」
7 地歌・箏曲(そうきょく)で、手事(てごと)の導入部分。また、義太夫節で、一段の導入部分。
[下接語] 垜(あずち)枕・石枕・初(うい)枕・歌枕・腕枕・帯枕・籠(かご)枕・楫(かじ)枕・仮枕・北枕・木枕・伽羅(きゃら)の枕・空気枕・括(くく)り枕・草枕・香枕・氷枕・小枕・袖(そで)枕・高枕・蛸(たこ)の枕・旅枕・手(た)枕・手(て)枕・長枕・波枕・新(にい)枕・箱枕・箸(はし)枕・初(はつ)枕・膝(ひざ)枕・肘(ひじ)枕・船底枕・坊主枕・水枕・夢枕
まくら 【枕】
枕
- 詐欺賭博師が故意に負ること。或は宿屋荒しのこと。「かんたんし」と同じ。
- 夕方のこと。或いは詐欺賭博師が故意に負けること。或いは宿屋あらしのこと。「かんたん師」参照。又落語家の間では、落語の冒頭をいう。この間落語家は女子供が多いか、又は地方人が多いかなどの客層を探り、又は客席が浮いているか、沈んでいるか等の雰囲気によって演ずる噺を決める。
分類 落語家
枕
枕
- 詐欺賭博(鹿追)ノ手段トシテ初回ノ勝負ニ於テ、被害者タルベキ相手方ノタメ、殊更ニ勝ヲ得セシムルヲ云フ。〔第三類 犯罪行為〕
- 〔賭〕詐欺賭博師が最初故意に負けることを云ふ。
- イカサマ賭博師が最初わざと負けて見ること。
分類 賭、賭博
枕
枕
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/06/20 07:56 UTC 版)
枕(まくら)は、就寝時に頭部を載せて支持するための寝具である[1][2]。一般には、数センチから十数センチ程度の厚みをもつ小型の寝具で、頭部から首にかけてを支える。柔らかい布袋に綿、羽毛、ポリエステル、ウレタン、蕎麦殻、籾殻、小型の合成樹脂パイプなどを詰めたもののほか、木材・竹・陶磁器・石など硬質の素材で作られたものもある。
枕は、単に頭を置くための道具ではなく、マットレスや敷き布団と後頭部から首にかけてのすき間を埋め、立っているときに近い自然な姿勢を保つ役割をもつとされる[3]。また、冬季には首まわりから冷気が寝具内に入り込むのを防ぎ、寝床内の温熱環境を保つ役割もある。
枕は古くから、木枕、草枕、陶枕、箱枕、括り枕など多様な形態をとってきた[4][5]。日本では古墳時代の葬送用の枕状遺物が知られ、生活具としては『万葉集』にも草枕や木枕が詠まれている[4]。また、枕魂、夢、死、禁忌に関わる民俗的観念とも結びつき、語としては落語の導入部、和歌の枕詞など、寝具以外の意味にも広がった[5][6]。
名称と語義
「まくら」の名称は古くから用いられ、『古事記』や『万葉集』には「麻久良」の表記がみえる[5]。語源については、纏座(まきくら)、頭座(あたまくら)、目座(まくら)、魂倉(たまくら)、真座(まくら)など複数の説がある[5][4][7]。このうち魂倉説は、睡眠時に魂が身体を離れて枕に宿るとする民俗的観念と結びつけて説明されることがある[5]。ただし、語源については諸説があり、確定したものではない。
漢字の「枕」は、音をチン・シン、訓を「まくら」「ねむる」とし、白川静『字通』では、人が枕して臥す形に関わる字と説明される[8]。同書では、訓義として「まくら、まくらする」「ねむる、ふす、安んずる」「のぞむ」「よこたえる、さまたげる、くびにあてる」などを挙げている[8]。また、古辞書では『和名類聚抄』に「万久良」の訓がみえ、『類聚名義抄』や『字鏡集』にも「マクラ」をはじめとする訓が掲げられている[8]。
「枕」は寝具としての意味から転じて、寝ている頭の方、寝ること、物の下に置く台、話や芸能の導入部などを指す語としても用いられる[9][10]。これらの派生的用法については、後述する。
歴史
古代の枕とヘッドレスト
現代の袋状の柔らかい枕だけでなく、古代には木・石・陶器など硬質の素材で作られた頭部支持具も用いられた。古代エジプトでは、袋状の柔らかい枕というよりも、木や石などで作られたヘッドレストが用いられた。メトロポリタン美術館の所蔵品解説では、古代エジプトのヘッドレストについて、睡眠時に首を支えるものであり、平たい底部と湾曲した上部を基本的な構成としていたと説明されている。このような硬質の頭部支持具は、現代の柔らかい枕とは形態が異なるが、頭部や首を一定の高さに支える道具として存在してきた[11]。
中国の枕と陶枕
中国では、陶磁器製の枕である陶枕のほか、玉枕、木枕、竹枕、籐枕、皮革製の枕、布製の括り枕、箱形の内部で香を焚く香枕など、さまざまな枕が用いられた[5]。漢代の古墓からは玉製の枕が出土した例があり、唐代には三彩陶枕、宋代には定窯陶枕などが作られた[5]。
中国の陶枕は、陶磁器製の寝具・頭部支持具であると同時に、中国陶磁の一分野としても位置づけられる[12][13]。唐時代には三彩陶枕が作られており、文化遺産オンラインには中国・唐時代8世紀の三彩陶枕が掲載されている[14]。また、上海博物館には北宋時代の定窯白釉透彫殿宇人物枕が所蔵されており、陶磁器製の枕が精巧な工芸品としても作られていたことを示している[15]。
宋代以降の陶枕には、磁州窯系の作例も多い[16]。ロイヤルオンタリオ博物館には、河北省磁県に関係する北宋・金代、12世紀前半の磁州窯系陶枕が所蔵されており、板状に成形した陶器に白化粧や釉を施した作例として確認できる[17]。また、ウォルターズ美術館は、宋代には宮廷から一般家庭まで日用品として陶磁器製品が用いられ、陶枕は髪形を保つ役割もあったと説明している[18]。
中国の枕は、夢や吉凶に関する俗信とも結びついた。悪夢を避けるため、虎頭枕や豹頭枕など奇獣の形に作り、悪夢を食わせる厭勝の具とする例もあり、これがいわゆる「獏の枕」の由来とされる[5]。また、枕は夢の世界に入る道具としても物語に現れ、『枕中記』における邯鄲の夢の説話は、その代表的な例である[5]。
日本の枕
日本では、古墳時代の古墳から、被葬者の頭部を支えるために用いられた枕状の遺物が出土している。大阪府立近つ飛鳥博物館は、古墳時代の枕について、現在のような寝具としての枕とは異なり、これまでに確認されているものは主に死者のための枕であったと説明している[19]。古墳時代には、木製、石製、土製、土器を転用した枕、石棺底を加工した造り付けの枕などが作られた[19]。これらは、棺内に死者を安置するための道具であるとともに、古墳時代の葬送儀礼を考えるうえでの考古資料である。
古墳時代から飛鳥時代にかけて、枕状の遺物は各地で確認されているが、とくに古墳時代中期の常総地域では、常総型石枕と、その装飾品である石製立花が盛行した[19]。近つ飛鳥博物館は、石枕や石製立花などに残る痕跡から、古代の葬送儀礼である殯との関連が指摘されていると説明している[19]。また、同館の特別展では、木製枕、石枕、埴製枕、石棺に造り付けられた枕、玉枕や琥珀製枕の復元品などが紹介されており、素材や形態の多様性が示されている[19]。
埴製の枕の例として、藤田美術館が所蔵する重要文化財「埴製枕」がある。同館によれば、この埴製枕は奈良県天理市の燈籠山古墳から出土した古墳時代4世紀の資料で、被葬者の頭を支えるために作られた[20]。同資料では、裏面が船底形にカーブしており、割竹形の棺に納められていたと考えられること、朱で塗られ、鋸歯文や直弧文が刻まれていることが説明されている[20]。藤田美術館は、埴製の枕は出土例が少なく希少であるとしている[20]。
生活具としての枕については、『万葉集』に草枕や木枕が詠まれており、古代から木や草を素材とする枕が用いられていたことがうかがえる[4]。奥州平泉の中尊寺には、藤原一門に関わる錦包みの枕が伝わる[4]。木枕は杉、朴、黄楊、沈などで作られ、草枕は茅、菅、篠、薦、稲などを素材とした[4]。
日本の歴史的な枕は、大きく木枕系と薦枕系に整理されることがある[5]。木枕系には木枕、石枕、陶枕、籐枕などの硬質の枕が含まれ、中世までは木枕が多く使われた[5]。木枕には、角材や丸太を切っただけの素朴なものから、頭を載せる部分をくぼませたもの、外側を錦で包んだもの、蒔絵を施したものまであった[5]。また、寺社への参籠や雇人用には、一本の長い丸太を複数人で共用する枕も用いられた[5]。
薦枕系は、篠、菅、稲、蔓などを束ねたり、薦に編んで巻いたりしたものに由来する[5]。やがて、外側を絹などで作り、中に綿などを詰める形式が現れ、近世には俵形で両側に房を付けた括り枕が広く用いられるようになった[5]。括り枕は、錦、ビロード、木綿などの側地に、蕎麦殻などを詰めて作られた[5]。
江戸時代になると、木枕系と薦枕系の要素をあわせた箱枕が普及した[5]。箱枕は、木製の箱や台の上に小さな括り枕を載せ、首のつけ根にあてて用いる枕である[5][4]。形が矢場の土手である垜(あずち)に似ることから、垜枕(あずちまくら)とも呼ばれた[5]。
箱枕は、男女とも髷を結うようになった近世の髪形と深く関係していた[5]。江戸時代には、男性の髷や女性の日本髪が発達し、兵庫髷、島田髷、勝山髷などが広まった。ことに元禄期以降、女性の鬢や髱が大きくなると、髪形を崩さないために箱枕の需要が高まった[4]。また、底の平らな安土枕に対して、船底枕のように揺れ動く形のものは、寝返りを打ちやすい枕として用いられた[4]。関ケ原町歴史民俗資料館は、こうした枕が嫁入り道具の一つとして数えられたこともあると説明している[2]。
引き出し付きの箱枕は、小物や小銭を収める収納具としても用いられた[4]。箱枕の括り枕には、絽や木綿の側地に蕎麦殻、籾殻、小豆などを入れ、髪油で布が汚れないように上に紙を置いて取り替えることもあった[4]。宿屋や遊里など多くの人が出入りする場所では、多数の枕を収める枕箱、すなわち入れ子枕も用いられた[4]。
このほか、近世には髪に香をたきこめるための香枕も用いられた。香枕は、枕の内部に香炉を置き、香をたく仕掛けを備えたもので、多くは表面に蒔絵を施した[21]。また、源氏香形の透かしをもつ木枕に引き出しを付け、その中に香炉を納める形式もあり、公家用から武家の嫁入り用となり、のちには遊里でも用いられた[5]。
枕はかなり早くから商品化したとされ、室町時代の『七十一番職人歌合』には、枕売りが籐枕を売る姿が描かれている[5]。江戸時代には、日向の籐の籠履枕、京都の籐枕、革枕、畳枕、獏形枕、黒塗枕なども名産とされた[5]。
近代以降は、髷を前提とする高い箱枕の必要性が薄れ、綿・羽毛・蕎麦殻・籾殻などを詰めた袋状の枕が広く用いられるようになった。明治以後、欧米文化の流入とともに、パンヤ、羽毛、ゴム、スポンジなどを用いた枕や、旅行用の空気枕、病気の際に用いる氷枕なども作られるようになった[4]。現代では、合成繊維、低反発ウレタン、合成樹脂パイプ、ラテックスフォームなど、多様な素材の枕が市販されている。
構造と種類
枕は、素材や詰めものだけでなく、用途、支持する身体部位、形状、構造、高さ調節の有無、手入れの方法などによって分類できる。特許庁の意匠分類では、一般的就寝のために使用し、頭部を支持する道具を「まくら」とし、まくら用芯材で、カバーを付ければ枕となるものもここに分類している[1]。同分類では、空気枕、枕用芯材、指圧まくら、支持台付きのものなども「まくら」の例として扱われる一方、首まくら、腰まくら、足まくら、抱きまくらは「座布団及びクッション」の分類に含められている[1]。
一方、一般社団法人日本寝具寝装品協会の「まくら品質表示規定」では、まくらを「睡眠の際に使用し、頭部又は体の一部を支えるもの」と定義し、支える部位によって、頭部用まくら、肩用まくら、腰用まくら、足用まくら、抱きまくらに分類している[22]。
用途による分類
用途や支持する身体部位による分類としては、頭部用まくら、肩用まくら、腰用まくら、足用まくら、抱きまくらがある[22]。頭部用まくらは、就寝時に頭部から首にかけてを支える一般的な枕である。肩用まくら、腰用まくら、足用まくらは、身体の一部を支え、寝姿勢や体位を補助する目的で用いられる。抱きまくらは、腕や脚で抱えるように使用する長形または大型の枕で、横向き寝の補助、姿勢保持、リラックスなどを目的として用いられる。
このほか、旅行用の携帯枕、乗り物で首を支えるネックピロー、机上での仮眠に用いる枕、授乳用枕、介護や体位変換に用いられる体位保持用の枕などもある。ただし、特許庁の意匠分類では、願書や図面の記載から医療専用として診療施設でのみ使用され、日常使いに向かないことが明らかなものや、矯正用・整体用・リハビリ用として専用的に使用されるものは、寝具としての「まくら」とは別の分類で扱われる[1]。
構造による分類
現代の枕には、側地に詰めものを入れる充填式のもの、一体成形されたもの、芯材をカバーで覆うもの、空気を入れて高さや硬さを調整するもの、複数の素材を組み合わせたもの、高さ調節機構を備えるものなどがある。
充填式の枕は、布製の袋状の側地や内袋に、羽毛、ポリエステル綿、蕎麦殻、籾殻、合成樹脂パイプ、小豆、粒状ビーズなどを入れたものである。詰めものの量、粒の大きさ、弾力、流動性によって、沈み込み、硬さ、通気性、音、重量、洗濯の可否などが変わる。
一体成形の枕は、ウレタンフォーム、ラテックス、熱可塑性エラストマーなどを一定の形状に成形したものである。波形、くぼみ付き、頸部支持型など、あらかじめ頭部や首の位置を想定した形状に作られることがある。芯材式の枕は、樹脂、フォーム、繊維構造体などの芯材を、カバーや側地で覆って用いるものである。特許庁の意匠分類では、まくら用芯材で、カバーを付ければ枕となるものも「まくら」に分類される[1]。
空気枕は、空気を入れて膨らませる構造の枕である。空気量によって高さや硬さを変えられるため、旅行用や携帯用として用いられることが多い。高さ調節式の枕には、詰めものを出し入れするもの、シート状の調節材を抜き差しするもの、複数の高さの面を使い分けるもの、空気量を調整するものなどがある。日本寝具寝装品協会の品質表示規定では、まくらの高さ調節機能の有無を表示項目の一つとしている[22]。
形状と素材
枕の形状には、長方形や角形の平型、中央にくぼみを設けたもの、首を支える部分を高くしたもの、波形のもの、円筒形や半円筒形のもの、U字形や馬蹄形のもの、長い抱き枕状のものなどがある。一般的な頭部用まくらでは、仰向け寝と横向き寝の両方に対応するため、中央部と左右部で高さや硬さを変えたものもある。
枕に用いられる素材は、天然素材、合成素材、硬質素材、流動性のある粒状素材などに分けられる。天然素材には、蕎麦殻、籾殻、小豆、パンヤ、羽毛、羽根、綿、羊毛、竹、木、籐などがある。合成素材には、ポリエステル綿、ウレタンフォーム、低反発ウレタン、高反発フォーム、合成樹脂パイプ、ビーズ、ラテックスフォーム、熱可塑性エラストマーなどがある。硬質素材としては、石、木、竹、陶磁器などが用いられてきた。
素材ごとの特徴は、支持性、弾力性、通気性、吸湿性、放湿性、保温性、重量、耐久性、洗濯の可否、におい、音、虫害やカビへの耐性などに現れる。硬質素材の枕は、現代の柔らかい寝具としての枕とは異なり、頭部または首を一定の高さに保つ支持具としての性格が強い。日本では古墳時代の石枕や埴製枕のように葬送用として用いられたものもあり[19][20]、江戸時代以前の箱枕のように髪形を保つために用いられたものもあった[23]。
身体支持と寝姿勢
就寝用の枕は、寝ている時の頭部を支えるだけでなく、首や肩と敷き寝具との関係を調整し、自然な寝姿勢を保つために用いられる。厚生労働省は、枕の役割について、マットレスや敷き布団と後頭部から首にかけてのすき間を埋め、立ち姿勢に近い自然な体勢を保つことにあると説明している[3]。
適切な枕の高さは、体格、首の形、肩幅、寝姿勢、敷き寝具の硬さなどによって異なる。柔らかい敷き寝具では体が沈み込みやすく、硬い敷き寝具では後頭部から首にかけてのすき間が大きくなりやすいため、枕の高さや硬さは敷き寝具との組み合わせによっても変わる。高すぎる枕は首が前屈した姿勢になりやすく、低すぎる枕は首や肩を十分に支えにくいことがある。
枕には、寝返りを妨げにくいことも求められる。厚生労働省は、寝返りについて、体圧の偏りを軽減し、寝床内の温湿度を調整する働きがあると説明している[3]。そのため、頭部だけでなく首や肩との関係を考慮した枕や、高さを調整できる枕、体型に合わせて調整する枕なども用いられている。
衛生と手入れ
枕は、睡眠中に頭部や首まわりから出る汗、皮脂、頭髪、ふけなどが付着しやすい寝具である。そのため、枕カバーやタオルなどを併用し、定期的に洗濯・交換することで、枕本体への汚れの付着を抑えやすくなる。枕カバーは、頭髪・皮脂・汗などが枕本体に直接付着することを防ぎ、洗濯によって衛生を保ちやすくするために用いられる[1]。
枕の手入れ方法は、側地や詰めものの素材によって異なる。ポリエステル綿、合成樹脂パイプ、粒状ビーズなどを用いた枕には洗濯可能なものもある一方、蕎麦殻、籾殻、羽毛、ウレタンフォーム、ラテックスフォームなどを用いた枕では、水洗い、乾燥、日光への曝露に注意を要するものがある。日本寝具寝装品協会の品質表示規定では、まくらがわの組成、詰めものの組成、サイズ、専用または推奨するまくらカバーの適用サイズ、取扱い表示などが表示項目に含まれている[22]。
枕本体を洗濯できない場合でも、枕カバーや外側のカバーを交換し、湿気をためないように乾燥させることが衛生管理につながる。素材によっては、洗濯や乾燥によって形状、弾力、詰めものの偏り、におい、カビ、虫害などに影響が出ることがあるため、製品ごとの取扱い表示に従う必要がある。
現代の利用
現代では、就寝時に頭部から首にかけてを支える一般的な枕のほか、抱き枕、首枕、腰枕、足枕、旅行用枕、授乳用枕、介護や看護で用いられる体位保持用の枕など、用途に応じた多様な枕が用いられている[1][24]。昼寝や仮眠の際に机上で使用する枕、乗り物で首を支えるネックピローなども、市販品として広く見られる。
素材面では、綿、羽毛、ポリエステル綿、蕎麦殻、籾殻、合成樹脂パイプ、小豆、ビーズ、ウレタンフォーム、ラテックスフォーム、空気を入れて膨らませる素材など、さまざまなものが用いられる。充填式の枕では中材の量や流動性、一体成形の枕では素材の弾性や形状、空気枕では空気量が使用感に影響する。
枕の高さや硬さは、体格、寝姿勢、敷き寝具の硬さ、寝返りのしやすさなどと関係する[3]。そのため、現代の枕には、詰めものを出し入れするもの、調節シートを抜き差しするもの、複数の高さの面を使い分けるもの、空気量を調整するものなど、高さ調節機能を備えたものもある[24]。
民俗・文化
枕は、日常の寝具であると同時に、民俗的には魂、夢、死、禁忌と関わる道具としても扱われてきた。語源説の一つである魂倉説も、頭を魂の宿る場所とみなし、枕を魂の寄り付く、または宿るものとする観念と結びついている[4][5]。このため、枕を踏んだり、蹴ったり、投げたりすることは忌まれ、枕を粗末に扱わない風習がみられた[4][5]。
死と枕
枕は死者の扱いとも関わってきた。北枕は、釈迦が頭を北にして入滅したことにならい、死者を安置する際の姿勢とされた[5]。そのため、日常生活では北枕を忌む俗信が広くみられた[4][5]。一方、古墳時代の埋葬では北枕の例が多いことも指摘されている[4]。
人が死ぬと、枕元に枕飯や枕団子を供える風習が広く行われた[5]。また、枕を足で蹴って外し、死者との最後の別れとする所もあった[5]。船が難破して遺体が上がらない場合、身代わりとして枕を墓に埋める例も報告されている[5]。
夢・縁起・俗信
枕は夢とも深く関わるものとされた。「夢枕に立つ」という表現にみられるように、枕は神霊や死者が現れ、意思を伝える場とも考えられた[5]。民俗上は、枕を通じて神の意志を聞く枕神の観念もあり、近世の巫女が枕に似た箱に肘をついて神託を語った例も指摘されている[5]。
悪夢を避け、吉夢を得るための習俗もみられた。悪夢を食うとされる想像上の動物である獏を枕に描いたり、節分や正月の夜に宝船の絵を枕の下に敷いて吉夢を見ようとしたりする習俗があった[4]。また、端午の節句に菖蒲の葉を枕の下に敷いて邪気を除く、菊の花を乾燥させて枕に入れると長命を保つとする俗信も中世以降に広まった[4]。夜中に人の枕の位置を変える「枕返し」の妖怪伝承も知られている[5][4]。
枕の高さに関する俗信や諺もある。江戸時代には「寿命三寸、楽四寸」という枕の高さに関する諺があり、低めの枕を健康によいものとする考え方がみられた[4]。ただし、現代の寝具としての適切な枕の高さは、体格、寝姿勢、敷き寝具の硬さなどによって異なる。
派生的用法
「枕」という語は、寝具から転じて、物事の冒頭、導入、前置き、支えとなるものなどを指す語としても用いられる[10][6]。たとえば、物を横たえる際に下に置く支えを「枕」と呼ぶ用法は、枕木などの語に残る。また、寝ることや旅先で宿ることを表す語として、旅枕、仮枕などの表現もある[9]。
芸能・音楽
落語では、本題に入る前に語られる小咄や雑談を「まくら」または「マクラ」という[6]。まくらは、客の気分をほぐし、これから演じる噺の雰囲気へ導く役割をもつ[6]。小咄は、短い笑話を指し、明治中期以後には長い一席の落語に対して、まくらに用いられる笑話や短い落語を指す語としても用いられた[25]。
音楽用語としては、義太夫節で各段の冒頭に置かれる格言的な導入句を「マクラ」という[6]。また、地歌・箏曲では、手事部において中心的な本手事に至る前の導入部をマクラといい、「序」とも呼ばれる[6][26]。ただし、すべての手事にマクラがあるわけではなく、独立性が弱い場合には「ツナギ」と呼ばれることもある[6]。
文学・語彙
和歌では、特定の語にかかる古代的な修辞として枕詞がある。枕詞は、多くは五音前後の句で、一定の語に習慣的にかかり、一首の声調や象徴性に作用する[27]。枕詞は、寝具としての枕そのものを指す語ではないが、「枕」が導入・前置・添えられるものを表す語として展開した例の一つといえる。
このほか、「枕」は、書名・地名・慣用句・複合語の中にも広く現れる。枕草子、歌枕、枕木、膝枕、腕枕、枕投げなどは、その代表的な例である。一方、現代語の比喩的・俗語的用法には、寝具としての枕と直接関係しないものもある。
脚注
出典
- 1 2 3 4 5 6 7 “意匠分類定義カード(C1)”. 特許庁. 2026年5月11日閲覧。
- 1 2 “枕”. 関ケ原町歴史民俗学習館. 関ケ原町. 2026年5月11日閲覧。
- 1 2 3 4 “よく眠るために必要な寝具の条件と寝相・寝返りとの関係”. e-ヘルスネット. 厚生労働省 (2023年7月6日). 2026年5月11日閲覧。
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- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 平凡社『世界大百科事典』.
- 1 2 3 4 5 6 7 平凡社『世界大百科事典(芸能・文章用語)』.
- ↑ 国史大辞典編集委員会 1993.
- 1 2 3 白川静『字通』.
- 1 2 小学館『日本国語大辞典』.
- 1 2 小学館『デジタル大辞泉』.
- ↑ “Headrest”. The Metropolitan Museum of Art. The Metropolitan Museum of Art. 2026年5月11日閲覧。
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- ↑ “Rectangular Pillow”. The Walters Art Museum. The Walters Art Museum. 2026年5月11日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 “令和5年度冬季特別展「まくら-古墳時代の石枕と葬送儀礼-」”. 大阪府立近つ飛鳥博物館. 大阪府立近つ飛鳥博物館 (2023年12月15日). 2026年5月11日閲覧。
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- 1 2 3 4 “まくら品質表示規定”. 一般社団法人日本寝具寝装品協会. 2026年5月15日閲覧。
- ↑ “箱枕”. 文化遺産オンライン. 文化庁. 2026年5月11日閲覧。
- 1 2 日本寝具寝装品協会 2019.
- ↑ 平凡社『世界大百科事典(小咄)』.
- ↑ 平凡社『世界大百科事典(手事)』.
- ↑ 平凡社『世界大百科事典(枕詞)』.
参考文献
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- 「枕」『デジタル大辞泉』小学館。2026年6月12日閲覧。
- 「枕」『日本大百科全書』小学館。2026年6月12日閲覧。
- 「枕」『世界大百科事典』平凡社。2026年6月12日閲覧。
- 「枕」『世界大百科事典』平凡社。2026年6月12日閲覧。
- 「小咄」『世界大百科事典』平凡社。2026年6月12日閲覧。
- 「手事」『世界大百科事典』平凡社。2026年6月12日閲覧。
- 「枕詞」『世界大百科事典』平凡社。2026年6月12日閲覧。
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- 「陶枕」『日本大百科全書』小学館。2026年6月12日閲覧。
- 「陶枕」『日本国語大辞典』小学館。2026年6月12日閲覧。
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- 「枕」『国史大辞典』吉川弘文館。2026年6月12日閲覧。
- “まくら品質表示規定”. 一般社団法人日本寝具寝装品協会. 2026年5月15日閲覧。
関連項目
寝具・身体支持具
歴史・民俗
言葉・派生語
外部リンク
枕
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/30 20:25 UTC 版)
「キャサリン (ゲーム)」の記事における「枕」の解説
悪夢の中でヴィンセントが常に持ち歩いている枕。いわゆる1UPアイテムで、入手するとヴィンセントの残機(リトライ可能回数)が増える。
※この「枕」の解説は、「キャサリン (ゲーム)」の解説の一部です。
「枕」を含む「キャサリン (ゲーム)」の記事については、「キャサリン (ゲーム)」の概要を参照ください。
枕
枕
「枕」の例文・使い方・用例・文例
- この枕は私には柔らかすぎる
- 夜な夜な枕を涙で濡らしました
- 私はゲルが詰まった枕を使っている。
- 枕元に移動式洗面台を置いておく
- フランジのついた枕カバー
- 私は枕の上によだれを出した。
- 北向きに枕を置いて寝る。
- 妹のお気に入りはやわらかい枕です。
- それは枕のように見えました。
- 私は布団を干し、たくさんのシーツや枕カバーを洗濯しました。
- 私をあなたのひざ枕で眠らせてください。
- その男の人はその新しい枕を買いました。
- 私は抱き枕が欲しい。
- 私はこの枕を返却しに来ました。
- 私はその枕を家に持って帰る。
- 私はその枕を持って帰る。
- 彼は赤色の枕で眠る。
- けいこは枕に顔をうずめて泣いた。
- 二つ折りにしたクッションを枕代わりに、僕はフローリングの上にカーペットを敷いただけの固い床へと横になる。
- 予備の枕をください。
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