8割おじさん
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 22:53 UTC 版)
流行拡大を防ぐには人との接触を8割削減することが必要である、と3月の初めから提唱し、インターネット上で「8割おじさん」と名乗るようになった。名付け親は押谷である。科学雑誌『サイエンス』のウェブサイトに掲載されたニュース記事では、「80% uncle」と紹介された。 接触減の割合をめぐってせめぎ合いがあった。とりわけ、4月7日、新型インフルエンザ等緊急事態の要件に該当するか諮問を受け、第2回基本的対処方針等諮問委員会が開催されたが、審議当日の早朝、西浦は会長の尾身茂と委員の押谷からそれぞれ電話で連絡を受け、押谷は「どこまで頑張れるかわからないけれども、8割おじさんの願いが叶うように精一杯やってみよう」と述べたという。また、西浦らは基本再生産数を「2.5」とする前提で資料を作成していたが、審議の場に提出された資料では値が「2.0」に書き換えられていたという。提出された資料の値に疑問を感じた尾身から、西浦に「これで大丈夫なのか?」と確認の電話があったことで、西浦に無断で資料の値が書き換えられたことが発覚したという。同日夜、安倍晋三内閣総理大臣は、緊急事態宣言発出後の記者会見で「専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます」と発言した。 4月15日の記者意見交換会で、対策を全く取らない場合、日本国内では約85万人が人工呼吸器や集中治療室での治療を要する重篤患者となり、重篤患者の49%が死亡したとする中国のデータなどに基づけば、うち約42万人が死亡するとの試算を公表した上で、人と人の接触を8割減らせば、約1か月で流行を抑え込めるとした。ただし、菅義偉内閣官房長官は翌16日、西浦の試算は「厚労省の公式見解ではない」としている。 ニューズウィーク日本版6月9日号に「「8割おじさん」の数理モデルとその根拠」を特別寄稿し、のちに同ウェブサイト版でも公開された。また、中央公論7月号のインタビュー記事で「オリンピックが延期されることになった3月24日あたりから、小池百合子都知事がイベント自粛の要請など、どんどん手を打ってくれて、それに従って実効再生産数が落ちていきます。さらに、国の緊急事態宣言が出た後は、都市も地方も含めて皆さんが協力的に接触を削減してくれた成果もはっきり出ました」と振り返った。 人類生態学者の中澤港神戸大学教授は、8割減の合理性について西浦の理論的背景に触れつつ高く評価した。 物理学者の中野貴志大阪大学核物理研究センター長とウイルス学者の宮沢孝幸京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授は、6月12日の第2回大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議にオブザーバーとして出席し、府の感染のピークは3月28日頃だとして4月7日に発令された緊急事態宣言に伴う休業要請などの効果は薄かったと指摘した。これに対して会議の座長で感染制御学が専門の朝野和典大阪大学医学系研究科教授は異論を唱え「今日の議論だけで自粛、休業が無意味だったとの結論にはしていただきたくない」と述べた。 医師でもある前新潟県知事の米山隆一は、西浦のロジックを「手遅れになるから(勝算はないが)今手を打たなければならない」というものだとして旧日本軍に喩え、西浦を「令和の牟田口廉也」と繰り返し厳しく批判した。 社会工学者の藤井聡京都大学大学院工学研究科教授は、西浦作成のグラフを引用し、西浦・尾身らによる「GW空けの緊急事態延長」支持は「大罪」であると主張した。これに対して、感染症専門医の岩田健太郎神戸大学大学院医学系研究科感染治療学分野教授は、「藤井聡氏公開質問状への見解」を発表し、西浦が日本の感染対策にもたらした貢献はものすごく大きいとしたうえで、藤井の議論の誤りを指摘した。この指摘に対して藤井は、岩田の指摘は自身の主張の誤解に基づくものであるとした上で、緊急事態宣言の効果はあくまで小さく、むしろそれに先立つ出入国の制限(いわゆる「水際対策」)が感染拡大の阻止に大きな役割を果たした等の主張を行い、一律的な自粛措置に対する疑念を改めて提示した。 西浦に向けられた批判は一部過熱化し、西浦は自身に「首を刈ってやる」といった手紙が届くなど、「脅迫があり、公安(警察)に守ってもらった」と明かした。
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