非常用電源の設計
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 15:20 UTC 版)
「福島第一原子力発電所1号機の建設」の記事における「非常用電源の設計」の解説
『朝日新聞』はGEが1号機の建設をターンキーにて請け負った際、米本国でハリケーンによる暴風で倒木などが舞い上がり、建屋に突き刺さることを懸念して地下に配置した設計をそのまま導入したという説明を取り上げたことがある。立地調査には述べられていないが、『東北の土木史』への佐伯正治の寄稿に見られるように、当地においても突風の発生し易い季節などがあることは東京電力も知っていた。佐伯によると春先には山から海に向かって吹く風が強く、突風も頻発すると述べており、調査所時代に50m/secの突風で電柱が折れたこともあった。また、1928年に大野駅-夜ノ森駅間で突風により国鉄常磐線で車両転覆事故があった事実も参照していた。一方で1966年5月に田中直治郎が社外への説明の際示した計画案(英語図面)では、FL.EL.10.20m上の高さ(1階)にDIESEL GENERATORと6900V SWGRが収納されていた。その後決定案では非常用ディーゼル発電機は地下1階に設置となった。 建設時、1号機の非常用電源は下記より形成されていた。 非常用ディーゼル発電機:2台。内1台は2号機と共用 所内直流電源設備 無停電(バイタル)交流電源設備 ディーゼル発電機 1号専用ディーゼル発電機は容量2750kVA(2200kW)。ディーゼルエンジンは1600HPを2台備え、「エンジン-発電機-エンジン」の櫛形配置となっている。燃料は軽油である。1号専用発電機の容量は1号機の非常用炉心冷却系等、工学的安全施設の運転を賄うことが出来るように選定されている。 2号機との共用ディーゼル発電機は容量8125kVA(6500kW)で、9000HP(『日刊工業新聞』では9300HP)のエンジンにより駆動する。1号専用機より容量が大きいのは共用先の2号機の工学的安全施設の必要容量から決定されているためである。『電気計算』によれば、燃料は軽油とのみあるが、納入を報じた『日刊工業新聞』ではより具体的にA重油と明記されている。 1・2号機との共用発電機は納入時世界最大の中速ディーセル機関であったため、上記のように『日刊工業新聞』にて紹介された。納入された機関と同じシリーズの40X形は1966年に初号機を完成した当時としては新しい型式で、1号機に納入されるまでに工業、都市電源装置用途で40台以上の受注実績を積み重ねており、これをベースに原子力発電所用に所与の改良を加えたものであった。 仕様(特記無き場合上記『日刊工業新聞』記事より) 形式:18V40X形 サイクル:4サイクル シリンダー配置:V型 シリンダー径:400mm ストローク:520mm シリンダ当たり出力:530PS/cyl(40X形の仕様) シリンダー数:18 Pme kg/cm2:16.6 Cm m/s:7.4 回転数:毎分429回転 出力:9300馬力(1時間10%過負荷) 電気出力:6500kW 使用燃料:A重油 原子力用として特に考慮した仕様瞬時起動を実施可能なように設計(通産省の実施した検査では8.7秒の成績) 緊急運転による温度負荷に耐えるよう燃焼室の構造を改良 地震等納入時に想定した災害に耐えるよう本体、付属機器、配管を設計 冷却方式:水冷(このため海水ポンプを岸壁に設置) 非常用ディーゼル発電機は外部電源喪失信号或いは冷却材喪失信号を受信した際に自動起動し、タイマーによって6.9kV所内高圧母線に投入される。2台の非常用ディーゼル発電機の母線は互いに独立しており、信頼度向上が意図されている。 橋本弘等によるとECCSポンプ(ここでは炉心スプレイ、高圧注水(HPCI)等の各系)の内、HPCI以外のポンプは非常用ディーゼル発電機を電源とし、発電機負荷の約半分を占める。従ってこれらのポンプの容量を減らすことが出来ればディーゼル発電機の容量も減らすことが出来るため、これらのポンプはディーゼル発電機側の立場からは、設計上常に所要動力が最少となることを要求されているという。なお、佐藤一也によると、原子炉等プラント本体は上述のように海外からの技術導入に頼ったが、非常用ディーゼルについては仕様を満たすため国産の方が対応しやすいという考え方があったという。その後、18V40Xは本発電所6号機分まで採用され続けた。 所内直流電源設備 直流電源系は更に下記の2系統から成る。 125V系統:蓄電池(2500AH×2)および480V非常用パワーセンタに接続した充電器3台よりフローティング充電されている。遮断器操作、電動弁操作、信号灯、計測等の制御用負荷および非常用油ポンプ、非常用密封油ポンプ等の非常用動力負荷の駆動に使用される。2組の蓄電池は回路的に独立しており信頼度向上を意図している。 ±24V系統:中性子モニタ用(135AH×4)。および充電器4台より構成。 無停電(バイタル)交流電源系 MGを交流発電機に接続し、プロセス計算機、原子炉制御、タービン発電機計装等の原子炉保護系の負荷に接続されている。母線は独立した2系統により接続され、これらが停電した場合は直ちにスクラムがかけられる。
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