震度と防災行動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 06:57 UTC 版)
行政機関は震度の情報を気象庁などから入手し、その情報を地震発生直後にとるべき行動の判断基準としている。おおむね震度4 - 5弱以上で警察庁や消防庁が(警察本部 - 警察署、都道府県消防防災部門 - 消防本部のラインで)、震度5弱以上で海上保安庁や防衛省がそれぞれ被害の調査を行うこととしている(最大震度を観測した地域の海上保安本部がヘリコプターを、航空自衛隊の飛行隊が戦闘機をスクランブルで、海上自衛隊が待機させていた哨戒機をそれぞれ発進させ、乗員が目視で調べる)。また、震度4以上で内閣府が地震被害の推計、東京23区で震度5強、それ以外の地域の震度6弱以上で、総理大臣官邸地下の「内閣危機管理センター」に要員が招集される。また各地方公共団体やその他の公的機関でも、多くが震度をもとに地震の際の初動を決めている(具体的な内容は「地域防災計画」で確認出来る)。 2007年10月から開始された気象庁の一般向け緊急地震速報(警報)は、推定される最大震度が5弱以上のときに、震度4以上が感じられる地域に向けて発表するという基準を設けている。また、高度利用者向けでは、観測で100ガル以上、推定マグニチュード3.5以上とともに推定最大震度3以上という基準がある。 一方で、特に市民の間での認識として、震度計の設置箇所の増加がもたらす震度の「重み」の変化を知る必要がある、と指摘されている。上記のように計測震度計の設置以前(1995年ごろまで)は観測点が日本全国約160か所の気象官署に限られていたが、現在は約25倍の4,400か所に増えた。震度計の密度が高くなったことで、震度計が無い地点でしか揺れを感じないような小さな地震の「観測漏れ」が少なくなり、大きな地震でもこれまで漏れていた大きな震度が観測できるようになった。これにより、以前は震度4だった地震が現在は震度5 - 6とされたり、震度1とされたり観測されなかったような地震でも震度3 - 4とされる場合があると考えられる。そのため現在は、以前よりも震度の「重み」が軽くなり、その分地震の報告数も格段に増え、各地震の震度も大きくなったことになる。このため、安易に「近年地震が増えている」と考えるのは誤りである(地震の時間変化を考えるならばマグニチュードを見るほうが定量的である)。 また、地動最大加速度を基に算出する現在の計測震度は極短周期成分が卓越した地震動で高く出やすく、マグニチュードが小さい地震は大きい地震より短周期が卓越する傾向があり、マグニチュードの小さい地震の方が発生頻度が高いため(グーテンベルグ・リヒター則)、計測震度導入によりそれほど規模の大きくない地震でも高震度が多く観測される一因ともなった。 現行の計測震度は体感に対応した0.1-1秒の極短周期成分が強調されたものであるが、建造物に被害が出やすいのは1-2秒の成分であり、高震度側では周期帯1-2秒における弾性速度応答に基づく震度を算出した方がより建造物被害との相関が高くなり、1996年以前の被害状況から判定した旧気象庁震度階との連続性も維持できるとする提案がある。 現行の計測震度が体感と対応した0.1-1秒の極短周期成分が強調される問題点として、兵庫県南部地震の強震記録から現在の方法で算出した計測震度は、神戸海洋気象台(6.43)、大阪ガス葺合供給所(6.49,水平成分)、JR鷹取駅(6.48,水平成分)と大差はないが、家屋倒壊率は神戸海洋気象台周辺3%、葺合周辺20%、鷹取駅周辺59%と著しい被害の差が見られた。これは1-2秒の周期成分の強度が神戸海洋気象台は鷹取駅の半分程度であったのに対応しており、気象庁という公的機関から配布された神戸海洋気象台の強震記録に基づいて例えば地震応答解析や振動実験を行って「阪神・淡路大震災の揺れに耐えた」から大丈夫とは言えず、「耐える」と言うには少なくとも葺合やJR鷹取の強震記録を使用する必要がある。同様に東北地方太平洋沖地震で震度7を観測した宮城県栗原市築館では、0.5秒以下の極短周期成分の地震動が卓越し地動最大加速度は大きかったが、建造物に被害をもたらす1-2秒の周期成分の強度が兵庫県南部地震のJR鷹取の1/4程度に過ぎず、計測震度計周辺の家屋倒壊率は0%であった。従って極短周期成分が卓越していた「東日本大震災の震度7や6強に耐えた」から大丈夫であるとは決して言えない。
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