舌
『今昔物語集』巻13-11 熊野参詣に出かけた持経者一叡が、山中で終夜法華経読誦の声を聞く。夜が明けてから声の主を捜すと、苔むした白骨死体があり、舌だけが生きた人のごとく赤かった。その夜の夢に、「法華6万部読誦の願を満たすため」と、死者の霊が告げた〔*『古今著聞集』巻15「宿執」第23・通巻484話などに類話〕。
『猿の草子』(御伽草子) 比叡山根本中堂建立の折、地ならしをすると、紅蓮の如き舌が土の底にあって法華経を読誦していた。伝教大師が問うと、「生前6万部の『法華経』を読誦した」と舌が答えたので、中堂の心柱の礎をこの舌の上に築いた。
『撰集抄』巻2-6 奥州平泉に住む娘が、『法華経』を読みたくは思っても教えてくれる人がないことを、朝夕嘆いていた。ある時、天井から「経を前に置け。私が教えよう」との声があり、8日間で教授が完了した。娘が不思議に思い天井を見ると、苔むした髑髏で、舌だけは生きた人のごときものがあった。髑髏の舌は、「私は延暦寺の昔の住僧、慈恵大師の頭(かうべ)である」と言った。
『大智度論』巻9 阿弥陀仏経・般若波羅蜜経を読誦していた比丘が死に、弟子たちが遺骸を焼く。翌日になって、灰の中を見ると、舌が焼けずに残っていた。
『太平広記』巻109所収『旌異記』 南斉の武帝の世、土の中から両唇におおわれた鮮紅色の舌が掘り出された。生前に法華経を誦していた人の舌だというので、その舌を囲んで何人かの人々が法華経を唱えると、唇と舌とが動き出した。
『日本霊異記』下-1 山中に法華経を読む声が絶えず聞こえるので、永興禅師が見に行くと、かつて自分のもとを訪れた修行者の死骸があった。3年後、なおも経読誦の声がするので永興が再び行くと、ドクロの中に舌だけが朽ちずにあった〔*『今昔物語集』巻12-31に類話〕。
★2.獣や龍の舌を切り取って持ち、自分がその獣や龍を退治した証拠とする。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第13章 ペレウスが狩競争で倒した動物たちを、他の仲間が「これは自分の獲物だ」と言って、「ペレウスは何も取れなかったのだ」と笑う。しかしペレウスは、動物たちの舌を切り取って袋に入れておいたので、それがペレウスの獲物である証拠となった。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第13章・15章 龍と闘いこれを殺したトリスタンは、自らも龍の毒気のため意識を失う。その間に別の男が龍の首を切り取って奪い去り、自分が龍を退治したと主張する。しかしトリスタンが前もって龍の舌を切り取り所持していたので、それが証拠となり、真の英雄はトリスタンであることが明らかになる。
『二人兄弟』(グリム)KHM60 7首の龍を退治した主人公が、7枚の舌を切り取っておいてから、疲労のため眠りこむ。別の男が主人公を殺し(*後に薬草で生き返る)、手柄を横取りしようとする。しかし、舌の持ち主こそ龍を退治した本人である、と判定される。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第7話 チェンツォが7首の龍を切り殺す。百姓が龍の首を拾い集め、龍退治の功績を横取りして王女と結婚しようとする。しかしチェンツォは龍の舌を切り取って持っていたので、百姓の嘘がばれる→〔龍〕1a。
*日本には、虎や敵兵の耳を切り取って持ち、自分がその虎や敵兵を討った証拠とする物語がある→〔耳を切る〕2。
*犬の舌を切り取って、それを人間の舌だといつわる→〔にせもの〕5の『ドイツ伝説集』(グリム)538「ジークフリートとゲノフェーファ」・『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第18章。
『タイタス・アンドロニカス』(シェイクスピア)第2幕 悪人ディミートリアスとカイロンは、皇弟バシナーエスを殺し、その妻ラヴィニアを陵辱する。そして、誰から暴行を受けたかを語ることも書くこともできないように、ディミートリアスとカイロンは、ラヴィニアの舌を切り取り、両手を切り落とす〔*第4幕でラヴィニアは杖を口にくわえ、砂地に犯人の名前を書き記す〕。
『変身物語』(オヴィディウス)巻6 トラキア王テレウスはアテナイ王の娘プロクネを妻としたが、後、その妹ピロメラに恋情を抱き、彼女を羊小屋に閉じ込めて犯した。このことをピロメラが誰にも語らないようにと、テレウスは彼女の舌を切り取った〔*ピロメラは機を織り、白地に緋色の文字を織り込んでテレウスの罪を告発し、姉プロクネに示した〕。
★4.雀の舌を切る。
『舌切り雀』(昔話) 爺と婆と雀が一緒に暮らしていた。爺は山へ柴刈りに行き、婆は雀に「糊を煮ておいてくれ」と頼んで、川へ洗濯に行く。ところが雀は、糊が美味だったので全部なめてしまう。婆は怒って、雀の舌をはさみで切る。雀は泣いて逃げ去り、山から帰った爺が、雀を捜しに出かける(兵庫県美方郡)。
『南総里見八犬伝』第8輯巻之8第90回 辻君(つじぎみ)となった船虫は、客の懐中に金があると知ると、媾合の折に唇を交え、舌を噛み切って殺した(*媾合の折、陰茎を噛み切るヴァギナ・デンタータの物語と通ずるところがある→〔性器(女)〕6の『耳袋』巻之1「金精神の事」)。
『黄金伝説』15「初代隠修士聖パウロス」 初期キリスト教徒は迫害され、さまざまな拷問を受けた。ある若者はベッドに縛りつけられ、恥知らずな娼婦が彼をもてあそんだ。若者は心ならずも肉欲の昂奮をおぼえたので、歯で自分の舌を噛み切って、娼婦の顔に吐きつけた。
『往生要集』(源信)巻上・大文第1「厭離穢土」 殺・盗・淫・飲酒・妄語の罪を犯した者は、死後、大叫喚地獄に堕ちる。その別処・受無辺苦(じゅむへんく)では、獄卒が熱鉄の金鋏で、罪人の舌を抜き取る。抜きおわると舌は再び生え、それをまた獄卒が抜き取る。
『法華経』「如来神力品」第21 入滅を前にした世尊(=釈迦如来)が、霊鷲山で『法華経』の教えを説く。聴聞する多数の菩薩たちは、この経を世尊滅後に諸方で説くことを誓う。世尊は口から広長舌を出し、それは梵天の世界にまで達する。舌からは無数の色の光が発し、十方の世界を照らした。他の世界から来ていた諸仏も、広長舌を出して無量の光を放った。
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