胴体構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/12 20:56 UTC 版)
胴体にはセミモノコック構造(Semi-monocoque structure、半はりがら構造)を採用している。セミモノコック構造ではスキン(Skin、外板)とフレーム(Frame、円きょう、助材)、ストリンガー(Stringer、縦通材)で構成され、スキンを15-25cm程の間隔で内側から支えるストリンガーと、その内側からさらに50-55cmほどのほぼ等間隔で支えるフレームが、開口部を除く円筒状の胴体全体に走っている。フレームとスキン、そしてストリンガの間は、シェアタイ(Shear Tie)とストラップ(Strap、帯板)で結合する方法が主流である。翼なども同様であるが、各構造部材同士の結合はリベットと接着剤の併用によって行われることが多い。外板表面のリベットは皿頭にすることで空気抵抗を減らすが皿穴加工によって疲労クラックの危険性が増す。最もクラックの生じやすいリベット位置だけに丸頭のものを使うこともある。主翼との接合部にはバルクヘッドが配されて荷重を受け持つが、与圧を維持する機体では先端と後端はそれぞれ前部圧力隔壁と後部圧力隔壁によって閉じられており、これら全体が圧力容器としての機能も担っている。円筒形の胴体部でもドアや窓によってストリンガーが通せない個所がありこれらの上下のストリンガーは特に強力なロンジロン(Longeron、強力縦通材)が用いられる。与圧の維持は機首レドームとテールコーンなどの尾部を除いて、床下貨物室を含む胴体のほぼ全体で行われるが、前脚と主脚を収納するそれぞれの格納室は外気圧と同じであり平板によって圧力隔壁が構成されている。後部圧力隔壁は多くの機体で球状を成すことで構造部材の量を減らしている。広胴機でも機首部の断面形状が円形でないものは、与圧によるフレームへの曲げモーメントが大きく働くこと、窓という開口部による強度減少を補う必要があることもあって、丈夫なフレームが短い間隔で使用されている。前脚と主脚が取り付けられるフレームや主翼や尾翼などの前桁や中央桁、後桁がつながるフレームは、メイン・フレームと呼ばれる太いものになっている。与圧部分は上空で膨らむことを前提に設計されており、機内の床面が与圧胴体を左右につないで固定されている。上昇と共に機体断面はいびつな8の字型になるため、床面は引張力や圧縮力に対して強くするとともに床面との取り付け部のフレームなどの曲がりにも対応できるようになっている。胴体中央は機体の曲げモーメントが最も掛かるにもかかわらず主脚の開口部が大きく開くため、中央翼の下と後ろにはバルクヘッドとつながった箱状のキールビームが配されて前後軸方向への圧縮荷重を受け持っている。床はフロアビームとシートトラック、フロアパネルによって構成され、フロアビームがフレームに結合されている。ほぼ50cmごとで左右方向に配されるフロアビームが、床に乗るすべて物の上下方向の荷重と共に与圧による引張力も受け持っている。床に乗る物の前後方向の力はフロアビームではなく、シートトラックとフロアパネルを経由して床の左右にあるフロアサイド・ウェブ、又はフロアサイド・トラスに伝えられ、胴体外板で支えられる。フロアサイド・ウェブやフロアサイド・トラスには客室と床下空間を結ぶ多数の穴が開いており、機内空調の吸込み口となるとともに万が一に与圧が失われ急減圧となる事態でも、上下空間の圧力を等しくすることで床板へ過剰な変形力が掛からないようにしており、さらに急激な減圧では床の一部が開くようになっている。床板はフロアビームにボルトで固定されることが一般的であり、ビームの穴には機体前後を縦断する各種のコントロール・ケーブル類が通されていることが多い。フロアパネル(床板)には金属板や合板もあったが、軽くて丈夫なハニカム構造に切り替わっている。ただし、ハニカム構造はハイヒールや荷物の角による損傷に弱いため、軽いながら局部的な荷重にも丈夫な材料が求められており、樹脂材料や複合材の使用が進んでいる。胴体外板の内側はインシュレーション・ブランケットと呼ばれるグラスウールなどの断熱材によって機内の保温と外部からの騒音を吸収するようになっており、さらに内側に強度を受け持たない内装パネルがフレームに合わせて取り付けられることで、合計10-15cm程の厚みの壁を構成している。窓やドアといった胴体外板の開口部は、構造強度が低下するため可能な限り避けられ小さくされる。開口部の形状は、鋭利な角には応力が集中するために丸く作られ、その周囲は補強材によって縁取られて強度が補われる。 乗客や貨物コンテナなどの機内を使用する側からすれば胴体の断面形状は四角い方が良いが、気圧が低い高空を飛行するための耐圧性を軽い構造で実現するには円筒形の胴体は避けられない。旅客の航空運賃が主な収入源である航空会社が運航する旅客機の機体設計では、搭乗可能な乗客数の最大化が優先され、客室の座席は円形の胴体内で最も幅広い中央部に配置されている。客室の床下は空間が生じるので貨物コンテナを搭載することで有効活用している。2階客室部分を持たない、またはほとんど持たない広胴機では、客室より上の空間は空調類や乗務員休憩室が占める程度でそれほど活用されていない。また、全長に渡って2階席を備える最新の機体では胴体の断面形状が真円形よりかなり縦長になってはいるが円形であることに変わりはなく、貨物コンテナ用の搭載空間が幅広になるため新たに大きなコンテナを使わないと無駄が大きくなる。
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