肝臓における薬物代謝
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/23 08:50 UTC 版)
人体は、殆ど全ての薬物を異物(=生体異物)として認識し、排泄に適した状態にする為に様々な化学的プロセス(=代謝)を行う。これには、(a)脂溶性を低下させる、(b)生物学的活性を変化させる、といった化学変化が含まれる。体内の殆ど全ての組織が化学物質を代謝する能力を持っているが、肝臓の滑面小胞体は、内因性化学物質(コレステロール、ステロイドホルモン、脂肪酸、タンパク質など)と外因性物質(薬物、アルコールなど)の両方を処理する主要な「代謝の中心地」である。肝臓は化学物質のクリアランスと変換に中心的な役割を果たしている為、薬物による損傷を受け易い。 薬物の代謝は通常、第1相と第2相の2つの段階に分けられる。第1相反応は、第2相反応のための準備と考えられる。しかし、多くの化合物は第2相で直接代謝される。第1相反応には、酸化、還元、加水分解、水和、その他多くの稀な化学反応が含まれる。これらのプロセスは、薬物の水溶性を高める傾向があり、より化学的に活性が高く、潜在的に毒性を有する代謝物を生成する可能性がある。第2相反応の殆どは細胞質で起こり、転移酵素を介して内因性化合物と結合する。化学的に活性な第1相の生成物は、この段階で比較的不活性になり、除去に適した状態になる。 小胞体に存在するシトクロムP-450と呼ばれる酵素群は、肝臓で最も重要な代謝酵素群である。シトクロムP-450は、電子伝達系の末端酸化酵素の構成要素となっている。シトクロムP-450は単一の酵素ではなく、50のアイソフォームからなる近縁のファミリーで構成されており、そのうちの6つのアイソフォームが薬物の90%を代謝する。個々のP-450遺伝子産物には非常に多様性があり、この異質性により、肝臓は第1相において膨大な種類の化学物質(殆ど全ての薬物を含む)を酸化する事が出来る。P-450システムの下記の重要な3つの特徴は、薬物誘発性毒性に関与している。 1.遺伝的多様性: P-450タンパク質は其々固有のものであり、個人間の薬物代謝の違いを(ある程度)説明している。P-450代謝における遺伝的変異(多形性)は、通常の用量の薬物作用に対して患者が異常な感受性または抵抗性を示す場合に考慮すべきである。このような多形性は、異なる民族的背景を持つ患者の間で薬物反応が異なる原因にもなっている。 2.酵素活性の変化: 強力な誘導剤強力な阻害剤基質リファンピシン、カルバマゼピンフェノバルビタール、フェニトイン、 (セント・ジョーンズ・ワート) アミオダロン、シメチジン、シプロフロキサシン、フルコナゾール、 フルオキセチン、エリスロマイシン、 イソニアジド、ジルチアゼム カフェイン、クロザピン、オメプラゾール、ロサルタン、 テオフィリン 多くの物質がP-450酵素のメカニズムに影響を与える。薬物は幾つかの方法で酵素ファミリーと相互作用する。シトクロムP-450酵素活性を修飾する薬物は、阻害剤または誘導剤と呼ばれている。酵素阻害剤は、1つまたは複数のP-450酵素の代謝活性を阻害する。この効果は通常すぐに現れる。一方、酵素誘導剤は、P-450の合成を増加させる事により、P-450の活性を高める。誘導剤の半減期にもよるが、通常、酵素活性が上昇する迄には時間が掛かる。 3.競合阻害: 薬剤の中には、同じP-450のアイソザイムで代謝されるものがあり、その結果、競合的に生体内での変換を阻害するものがある。これにより、その酵素で代謝される薬物が蓄積される可能性がある。また、この種の薬物相互作用は、毒性のある基質の生成速度を低下させる可能性がある。
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