肝臓と脂肪組織
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/30 10:02 UTC 版)
総てのILCサブセットは肝臓に存在し、ウイルスや細菌の感染から組織を守る為の免疫反応を制御している。ILC1は肝臓に存在する支配的なILCサブセットである。IFN-γの産生は、肝細胞の生存を促進する。ILC1によるIFN-γの産生は、NK細胞受容体CD226(英語版)の発現に依存している。ILC1によるIL-12を介したIFN-γの産生は、細胞外のATPによって促進され、IFN-γは肝細胞の生存促進分子であるBcl-2、Bcl-xLをアップレギュレートする。 NK細胞は、ウイルス性のB型およびC型肝炎、局所性の肝線維症、肝癌に対する免疫反応に貢献している。NK細胞は、TRAIL(英語版)やNKG2D(英語版)を介して、線維化した肝臓の肝細胞を排除する。 ILCは、食事の負荷への対処や、代謝の恒常性の維持に重要な役割を果たしている。トリプトファン代謝物の産生により、AhR転写因子がIL-22の発現を誘導し、ILC3の存在数を維持し、その結果、腸の恒常性が維持されるのである。ビタミンAの代謝物であるレチノイン酸もまた、IL-22の発現をアップレギュレートする。従って、AhRシグナル伝達経路およびレチノイン酸がないと、消化管の腸粘膜肥厚症菌(英語版)感染症などの細菌感染に対する免疫力が低下する。レチノイン酸はまた、ILC1やILC3の腸管帰還マーカーの発現を増強する。この様に、食事から得られる栄養素は、感染症や炎症に対するILCの免疫反応を変化させる為、バランスのとれた健康的な食事の重要性が強調される。 ILC2は、IL-5、IL-4、IL-13の産生を介して、脂肪組織における2型免疫環境をサポートしている。これにより、脂肪蓄積、インスリン抵抗性、カロリー消費量が調節される。これが調節されないと、1型炎症が持続し、肥満の原因となる。ILC2は、白色脂肪細胞の褐色化を促進し、その結果、エネルギー消費量が増加する。従って、組織内のILC2の反応が低下すると、エネルギー恒常性におけるILC2の重要な役割が阻害され、結果としてエネルギー消費量が減少し、脂肪が増加する為、肥満症となる。ILC2に加えて、ILC1も脂肪組織のマクロファージの恒常性維持に貢献しており、ヒトの脂肪組織では常在リンパ球数の5-10%を占めている。高脂肪食はILC1の数を増やし、脂肪組織を活性化し、IFN-γやTNF-αの量を増加させる。ILC1はマクロファージの化学誘引物質であるCCL2(英語版)を産生する為、ILC1-マクロファージ間のシグナル伝達は脂肪組織の重要な調節因子であると考えられる。この経路は、肝疾患の患者を治療する為のターゲットになる可能性がある。
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