第一次世界大戦下
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第一次世界大戦下のフランスではユダヤ人が戦場で祖国フランスのために犠牲になったことで反ユダヤ主義が低下し、またユダヤ人も愛国主義によってドイツ人を敵視した。1914年8月、従軍ラビのアブラアム・ブロックが瀕死のキリスト教徒フランス兵士に十字架を差し出した瞬間に銃殺され、戦争美談としてフランスで反響を呼び、さらにスイス、カナダ、メキシコでも報道された。1914年12月にユダヤ長老派機関『イスラリエット古文書』は、ユダヤ人兵士の愛国主義の結果、反ユダヤ的敵意が消滅するとし、1915年6月には「ユダヤ人、キリスト教徒の別なく、あらゆるドイツ野郎(ボッシュ)がおぞましい」、12月には「フランス人の神とドイツ野郎の神はいかなる共通点もない」とした。1915年夏、オーストリアとドイツのラビが中立国のアメリカのユダヤ人に向けてドイツの大義を訴えると、フランスのラビはドイツは反ユダヤ主義的な人種理論を作り出したと対抗してアメリカのユダヤ人に訴えた。ユダヤ人作家のスピールは第一次世界大戦でオーストリアから17万、ドイツから6万、ブルガリアでは5000人のユダヤ人が兵士として参加しているのは、祖国の名誉と、これまで糾弾されてきたユダヤ人の戦死としての名誉のためであると述べた。ユダヤ人作家アルノー・マンデルは、はるか昔からラビたちはトーラーをフランク王国に帰化させ、今やトーラーはラ・マルセイエーズを歌い、ドイツ野郎を倒すのであると述べた。反ユダヤ的新聞『ルーヴル』編集長ギュスターヴ・テリーは、戦死者にユダヤ人兵士が多いことから反ユダヤ主義を物置に置くことにしたと述べるにいたった。 戦時中、フランスの知識人はドイツを野蛮人として非難していた。フランスのユダヤ系哲学者ベルクソンは、ドイツとの戦争は「野蛮性に対する文明の闘争」であるとして「わがアカデミーは、ドイツの凶暴性と破廉恥のなかに、一切の正義と真理を侮蔑する態度のなかに、野蛮状態への復帰をみとめることによって、ひとつの科学的義務をはたす」と演説した。作家メーテルリンクは「ドイツだけは、国の端から端まで肉食獣」と述べた。作家バレスは、ドイツという野獣に棍棒になれて、文明の法則に服従するまで足枷を強いると述べる一方で、ユダヤ人兵士の戦死者に対して武勲を称え、カトリック・プロテスタント・社会主義者・ユダヤ人という分類をやめれば、不特定多数の「フランス人」が出現するとして、王党派も社会主義者も母なる祖国フランスに結びついており、ユダヤ教も「フランス教」の一つであるとした。 『アクション・フランセーズ』のシャルル・モーラスは1914年8月1日の総動員令の翌日、敵の打倒のみを考えよう、大事なのは市民の同盟であると訴えた。またモーラスは1915年12月、ユダヤ人言語学者でドレフェス擁護派だったミシェル・ブレアルの死に対して、ブレアルはユダヤ人でありながらフランスに愛着をもり、彼はフランスの精髄、古典を発見したと追悼した。1916年6月20日、『アクション・フランセーズ』は、ユダヤ人兵士を英雄と称賛し、我々はユダヤ人がフランスを支配することに不満を訴えてきたが、ユダヤ人がフランスに奉仕することに不満を訴えたことはないと述べた。他方で、モーラスは1916年5月に、ロシアで共和国政府ができた場合、それはドイツ系ユダヤ人によって支配されていることだろうと述べている。 ランス大聖堂がドイツ軍に爆撃されると、フランスのラビとキリスト教司祭が愛国の契りを交わし、こうして第一次世界大戦下のフランスではユダヤ教とキリスト教の連合が実現した。 一方で、反ユダヤ的な言論も継続しており、ドリュモンの『リーブル・パロール』は1915年11月、大ラビの勅令でパリに国籍不明のユダヤ人1万人が匿われており、彼らはロシア籍、ルーマニア籍、ギリシャ籍を自称しているが実際にはドイツ語とイディッシュ語を話していると告発し、また社会学者デュルケームは「付け鼻をつけたドイツ人」であるとした。『ルーヴル・フランセーズ』紙でユルバン・ゴイエは自著『優等人種の権利』や偽造文書を利用してユダヤ人を攻撃した。また、ユダヤ人陸軍少尉エルツは、新しく移住してきたドイツのユダヤ人はいかがわしく非合法的であるから、この戦争でそうした状況が改善される絶好の機会とみていると手紙で書くなど、ドイツ系ユダヤ人に猜疑心が向けられている フランス国籍を持つユダヤ人は徴兵されたが、外国籍のユダヤ人の中には徴兵事務所に出頭しなかったものもいたため、1915年7月にロシア、ギリシア、ルーマニア、ポーランド、イタリア、スペイン、アルメニア国籍のユダヤ人に身元確認の目的で警察への出頭を要求すると、フランス国籍を持たないユダヤ人はパニックになりアメリカへ退去していった。また、ユダヤ人志願兵は外国人部隊に組み込まれ、新兵虐待を受けたため、1915年11月に外国人義勇兵は正規軍に組み込まれた。 マルティニスト会の作家ジョゼファン・ペラダンは1915年、ドイツでキリスト教が破産したのはドイツがタルムードを実践してユダヤ化したためであったとした。
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