物乞い
『宇治拾遺物語』巻4-13 智海法印が、夜更けに橋の上で経文を誦する白癩人と出会う。法談をすると、類ない学殖の持ち主である。後たびたび捜しても再びその姿を見ず、化人(けにん)かもしれぬと思われた〔*『古事談』巻3-81に同話〕。
『黄金伝説』160「聖マルティヌス」 聖マルティヌスがまだ洗礼を受けていない時、冬の日に馬でアミアンの市門を通ろうとして1人の裸の乞食に出会う。マルティヌスは自分のマントの半分を剣で裂いて乞食に与える。その夜マルティヌスの夢に、半分のマントをまとったキリストがあらわれ、天使たちに「マルティヌスがこのマントを私に着せてくれた」と言う。
*聖徳太子が衣服を脱ぎ、飢えて倒れた人に与える→〔飢え〕1の『日本書紀』巻22推古天皇21年12月。
『今昔物語集』巻20-40 冬の日、元興寺の僧義紹院が路辺の乞食に衣を与える。ところが、義紹院が馬に乗ったまま衣を投げかけたことを乞食は怒り、衣を投げ返して姿を消す。「化人であったのか」と義紹院は悟り、礼拝する。
★2a.神仏が人の慈悲心を試すために、繰り返し物乞いをする。
『閑居の友』上-1 天竺へ渡る真如親王が、大柑子を3つ持っていた。飢え疲れた人が乞うので、親王は小さな柑子を与える。飢え人は、「心小さき人のほどこしは受くべからず」と言って姿を消す。「化人であったのか」と親王は驚き、悔やむ。
『三国伝記』巻5-8 2子と犬を連れた貧女が斎会の場に現れ、食を乞う。僧が女と2子の分、飯3膳を与えると、女は犬の分も乞い、さらに「我が腹中の子にも食を給え」と望む。僧が「不当なり。去れ」と怒ると、女はたちまち文殊菩薩と変じ、犬は獅子、2子は善財童子・ウデン王となった。
『撰集抄』巻3-7 冬の寒さを訴える女に、瞻西(せんさい)上人が小袖を与える。翌日、同じ女が来て「小袖を失った」と言うので、上人は再び与える。その次の日も、女は着物を乞いに来る。上人が「もう与えられぬ」と断ると、女は「汝は心小さき人」と言い捨てて、姿を消した。瞻西上人は、「化人(けにん)が、私の心をはかり給うたのだ」と悟って、悔い悲しんだ。
『黄金伝説』27「慈善家聖ヨハネス」 物乞いの巡礼に、聖ヨハネスは銀貨6枚を与える。しばらくして同じ乞食が姿を変えてやって来ると、ヨハネスは金貨6枚を与える。3度目に乞食が現れた時には、ヨハネスは金貨12枚を与えるよう会計係に命じ、「主イエス・キリストに試されているのかもしれないのだ」と言う。
『デカメロン』第10日第3話 老富豪ナタンは、往来の人を招いてご馳走でもてなし、名声を得た。青年ミトリダネスがこれをうらやみ、「ナタン以上の名声を得たい」と考えて、人々を饗応する。ある日貧女が、ミトリダネスの屋敷に物乞いに来る。ミトリダネスがほどこしを与えると、女はまた別の入口から入り直してほどこしを乞い、幾度もこれを繰り返すこと12回に及んだ。13回目にミトリダネスが文句を言うと、女は「ナタン様は、32回ほどこしを下さった」と言い捨てて去った。
★3a.強引にパンと財布を奪った少年も、イエス・キリストの化身かもしれない。
『焼跡のイエス』(石川淳) 炎天下、焼跡の闇市へ行った「私」は、ボロを着てデキモノだらけの少年に目をとめる。10歳と15歳の中ほどの年齢で、この世ならぬ汚さ臭さであったが、妙に威厳のある姿だった。少年は屋台の握り飯を買い、店番の若い女の股(もも)に抱きついて、逃げ去った。後刻、「私」は人気(ひとけ)のない所で、その少年に襲われてコッペパン2つと財布を奪われた。「私」には少年の顔が、イエス・クリストに見えた。
『襤褸(らんる)の光』(谷崎潤一郎) 去年の晩春から初夏の頃、17歳の孕み女の乞食が、浅草公園を徘徊していた。顔の色は真っ黒で、鼻が低く、唇が厚く、不恰好に太っていたけれども、その肢体と相貌のどこかに、不思議な、悪魔的な美しさが潜んでいた。乞食女を妊娠させたのは、「私」の友人である放浪の天才画家Aだ。Aと乞食女は観音堂の床下に半年近く同棲していたが、その後、2人とも行方知れずになった。
『法句譬喩経』巻3「世俗品」第21 多味写王が七宝を山のように積み、人々に布施する。世尊が梵志に化身して訪れ、まず、小屋を作るに必要な宝を乞い、次いで妻をめとるに必要な宝を乞い、さらに田地・奴婢・牛馬を所有するに足るだけの宝、子供たちの結婚費用のための宝を乞う。王がすべての宝を与えると、梵志はそれを捨てて、「万物は無常ゆえ宝は益なし」と説く。王と群臣は悟りを開く。
『ジャータカ』第409話 サッカ(帝釈天)がシヴィ王の心を試そうと、盲目の老バラモンに変装して眼を請う。王は両眼をひきぬいて与える。
『オデュッセイア』第13巻~第22巻 20年ぶりに故郷イタケに戻ったオデュッセウスは、女神アテナによって老乞食に変身させられる。彼は、妻ペネロペと彼女への大勢の求婚者が群がる館へ、帰還する。皆は彼をただの物乞いと思い、ののしる。ペネロペの婿選びの競技が始まった時、オデュッセウスは正体を現し、強弓で求婚者たちを射殺す。
『幻想』(ルヴェル) 冬の日。乞食が「1時間でいいから、金持ちになりてえなア」と思いながら歩く。犬を連れた盲人の物乞いがたたずんでいたので、乞食は気まぐれ心から、僅かな有り金をはたいて、安食堂の料理を盲人に与える。盲人は「旦那様、ありがとうございます」と感謝する。乞食は盲人と別れた後、河へ身を投げる。「乞食の身投げだ」と聞いた盲人は、それが先程の旦那とは知らず、「その乞食は、死ぬだけの勇気は持っていたんだな」とつぶやく。
品詞の分類
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