無限
『縮みゆく人間』(マシスン) スコットは身長6フィート以上ある成人だったが、ある日、殺虫剤を浴び、さらにその後、放射能を帯びた波をかぶるという事故にあう。その相乗作用で、彼は1週間に1インチずつ身長が縮んで行く。身体はどんどん小さくなり、ついには木の葉の上に坐るほどになる。その時、彼は悟る。いくら小さくなっても、決してゼロにはならないことを。存在には無限の次元がある。新しい世界、極微の世界で、彼は生き続けるのだ。
*無限に距離が縮まるが、ゼロにはならない→〔競走〕5bのアキレスと亀の故事。
*無限に尾が分割されるが、ゼロにはならない→〔尾〕5の『無門関』(慧開)38「牛過窓櫺」。
*無限に柿が分割されるが、ゼロにはならない→〔分割〕11の『思い出す事など』(夏目漱石)15。
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹)27「百科事典棒」 百科事典の内容を、楊枝1本に刻むことができる。文字を、Aは01、Bは02、のように2桁の数字で表す。コンマやピリオドも同様に数字化する。そして百科事典の全文章を数字にして並べ、いちばん前に小数点を置く。すると、0.1732000631・・・・という具合に、とてつもなく長い数字列ができる。その数字列にぴたり相応した楊枝のポイントに、刻み目を入れる。たとえば0.3333・・・・なら、楊枝の前から3分の1のポイントだ。こうすれば、どんな長い情報も、楊枝の1つのポイントに刻みこめる。
『臨済録』「勘弁」4 ある時、臨済禅師は『維摩経』の句を引いて(*→〔空間〕2)、「1本の髪の毛が大海を呑みこみ(毛呑巨海)、1粒の芥子の中に須弥山を収める(芥納須弥)というが、これは不可思議な神通力なのか、それとも本体のありのままなのか?」と、問答を仕掛けた〔*「毛呑巨海」は「一毛大海」と言われることもある〕。
『バベルの図書館』(ボルヘス) 無限ともいうべき大きさの図書館がある。その厖大な蔵書の中では、文字のあらゆる可能な組み合わせが実現されている。すなわち、言語で表現し得る一切のことがら(過去も未来も、真実も虚偽も)が、書かれているのだ。もっとも、広大な図書館は無用の長物だ、との意見もある。無限に薄いページが無限数ある「1巻の書物」で充分だ、というのである。
*無限のページを有する本→〔本〕10aの『砂の本』(ボルヘス)。
『この人を見よ』(ニーチェ)「ツァラトゥストラ」 1881年8月のある日。「わたし(ニーチェ)」は、シルヴァプラーナの湖畔の森を散歩していた。ピラミッド型にそそり立つ巨大な岩のそばに立ち止まった時、「わたし」は、「無限の時間の中ではすべてのことがらが無限回繰り返される」という、永劫回帰の思想を受胎した。「わたし」はそれを1枚の紙片に走り書きし、「人間と時間を超えること6千フィート」と添え書きした。
『天体による永遠』(ブランキ) 宇宙は、時間的にも空間的にも無限である。一方、物質を構成する元素の種類は有限なので、無限の反復(時間的にも空間的にも)が、不可避となる。宇宙においては、無限回の繰り返しとともに、無限数の複製が存在する。われわれの地球とまったく同じ地球が無数にあり、微妙に違う地球が無数にあり、大いに異なる地球が無数にある。1人1人の人間は、宇宙の無限の彼方に、無数の瓜二つの自分、無数の変種(ヴァリアント)の自分を持っているのだ→〔分身〕3b。
『火の鳥』(手塚治虫)「未来編」 火の鳥が、山之辺マサトの意識を肉体から離脱させ、極小の世界へ連れて行く。素粒子は太陽のように見え、惑星のようなものがいくつもまわっている。その惑星に住む生物の細胞の内部にも、また太陽があり惑星がある。マサトは「僕にはわけがわからない」と頭をかかえる。火の鳥は次に、マサトを極大の世界へ導く。何千もの銀河系が、大宇宙を構成している。しかし大宇宙は1つの粒子にすぎず、いくつも集まって細胞のようなものをつくっている。その細胞がまた、数多く集まって1つの「生きもの」となっている。それは宇宙生命(コスモゾーン)だ(*→〔生命〕1a)。極大のものから極小のものまで、みな「生きて」活動している。
『ユング自伝』2「学童時代」 「私(ユング)」は、11歳でバーゼルのギムナジウムに入った。数学の授業が、「私」には理解できなかった。先生が、平行線の定義を「無限遠で交わる」と言った時、「私」は侮辱されたと感じた。これは、素人の心をつかむためのばかばかしいトリックにすぎない、と「私」は思った。
『似而非(えせ)物語』(稲垣足穂) 「無限」を知るためには双眼鏡を執(と)ればよい、そこには自分自身のうしろ姿が映るであろう〔*すでに私たちの大望遠鏡においては、そのことが行なわれている。私たちが現に見ている遠方の星の中のある者は幽霊星だ。それは二重に見ている、すでに1度見たところの星である〕。
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