横置きエンジンと前輪駆動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/11 05:05 UTC 版)
「ミニ (BMC)」の記事における「横置きエンジンと前輪駆動」の解説
ロード会長の示した開発条件は、裏を返せばエンジン以外は設計陣にあらゆる手段を用いることを許容するものであった。 イシゴニスは、BMC以前のナッフィールド・オーガニゼーション時代の1940年代中期に手掛けた傑作大衆車モーリス・マイナーの試作過程で、前輪駆動方式の採用を検討したことがあった。そして当時、前輪駆動を前提にエンジンを車軸と並行に横置き搭載すれば、直列4気筒エンジンでもボンネットの前後長を短縮できるという発想に到達していたのである。第二次世界大戦直後の時点では時期尚早で実用化困難であったが、それから10年余りを経てイシゴニスは再びその構想の実現に動き出した。 シャシは既にBMCにとって手慣れた手法になっていたモノコック構造が採用された。それまでのイギリス製小型車にありがちだった、こんもりと盛り上がった背の高いキャビンは、床の低い新しいコンセプトの前輪駆動車ではもはや不要だった。さらなるスペース節減のため、タイヤはバブルカーより若干大きい程度で、まともな乗用車ではほとんど先例のなかった10インチ(in)の超小径サイズがダンロップとの交渉で新たに開発された。 横置きエンジンによる前輪駆動自体は、2気筒の軽便な車両では第二次世界大戦以前から見られたが、一回り大きい直列4気筒エンジンでは実用車として世界でほぼ初採用である。最低限のスペースに直列4気筒水冷エンジンとラジエーターを収めるため、ラジエーターは一般的なフロントグリルの内側ではなく、効率が悪いのを承知で横置きにしたエンジンの左側にレイアウトされた(従って、冷却促進はエンジンのクーリングファンのみが頼りだった)。更にオートバイの手法を応用し、トランスミッションのギアセットはエンジン下部のオイルパンを大型化してその内部に搭載、ギアの潤滑はエンジンオイルを共用する構造とした。 サスペンション形式は、フロントがウィッシュボーン、リアがトレーリングアームであるが、生産性向上対策でサブフレーム組み付けを用いつつも大変にコンパクトに設計されている。これらに組み合わされるスプリングには、一般的な金属ばねではなく、当時ばねの先端素材として注目されていたゴムを採用した。ダンロップの技術者アレックス・モールトンの設計による、円錐状に成型されたゴムばねを用いたラバーコーンサスペンションである。このばねは強いプログレッシブレートを持ち、最小のストロークで最大のエネルギー吸収量を得られるように設計されている。この強いプログレッシブ・レートを持つばねや、フロントが高くリアが路面上にあるという特異なロールセンター設定のサスペンション、量産車としては現代の基準でも驚異的に速いステアリングギアレシオや、回転慣性モーメントやジャイロ効果の小さい10インチタイヤなどによって、ゴーカートとも形容されるようなハンドリングを生む事となった。 更にこの当時(1950年代後期)、イギリスのハーディ・スパイサー社(1966年にGKNが買収)の手で、前輪駆動に適した「バーフィールド・ツェッパ等速ジョイント」が実用・量産化されたことが、イシゴニスのコンセプトをより現実的なものにした。ツェッパ式のボール・ジョイントは、前輪駆動車の旋回時にドライブシャフトが大きな屈曲を伴ってもほぼ等速で滑らかに駆動力を伝達できるという、理想的なジョイントであった。まだ高価なパーツだったが、タイヤが小さくかつサスペンションストロークの小さなミニは、ドライブシャフトのタイヤ側だけにこのジョイントを使えば済んだ(デフ側のジョイントは、旧式だがコストを抑えられるダブルカルダンタイプで間に合った)。 横置きエンジン方式自体は時代に先んじたエレガントな技術革新だったが、ミニと同じ二階建てパワートレインの「イシゴニス・レイアウト」を採用した車種は非常に少なく、イシゴニスが手掛けたミニの拡大版ともいえるBMCのADO14、ADO16、ADO17、ポストイシゴニスのADO27、ADO67以外では、フランスのプジョー・204、304やプリンス自動車時代に設計が始まった日産・チェリーと、ミッドシップのランボルギーニ・ミウラ程度しかなく、より広く普及して一般化したのは、イタリアで1960年代に開発され、トランスミッションをエンジンと直列に横置きして車両内での前後長を短縮したジアコーサレイアウトであった。 FF車のエンジンとトランスミッションの配置はメーカーごとにさまざまであったが、現在では、四輪駆動を主力商品とするメーカーであるアウディやスバルに縦置きエンジンのFFが見られるのみで、ほとんどのFF車はジアコーサ式の横置きエンジンとなっている。
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