新規就農の取り組み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/29 17:49 UTC 版)
現在、日本各地では後継者不足の解消のためにまったく別業種からの人材(定年退職者を含む)もしくは、新卒の大学生、あるいはニートなどの失業者を新規就農させる取り組みが行われており、メディアへの露出も徐々に増えてきている。これは林業や漁業など他の第一次産業にも共通してみられる事である。 しかし新規就農のためには制度的な課題も散見される。特に重大な課題は新規就農者の農地確保の壁である。日本の農地は農地法により農家以外への売却や多用途への転用が厳しく管理されている。田圃や畑、雑種地などの地目を持つ土地は固定資産税が宅地に比べて安価で、地価自体も極めて低い傾向があるために、実際に耕作する能力を持つもの以外への売却は脱税や資産隠し、或いは不正な土地利用の防止の観点から認められていない。農地法の管理下にある農地を購入するには農家資格を有することが絶対条件とされているが、この農家資格は一定以上の規模の農地を継続的に耕作している実績が認められなければ取得できないため、農家の家庭出身または婚姻などの手段で先代の農地を世襲で引き継ぐなどの方法以外では、まったくの新規就農者が生活を成り立たせるためのまとまった規模の農地を自己所有することは極めて難しいということにもなる。そもそも、新卒者や失業者にはまとまった土地を購入するだけの資金を工面することが困難である。 そのため、現在の就農形態としては、おおむね次のような手法が主流である。 1. 農業法人への就職 農業法人は個人大規模農家が法人化している場合や、複数の中規模農家の集合体が組合化したもの、或いは異業種の大企業などが出資して設立されたものなどが存在する。雇用形態は正社員もしくはアルバイトであり、大規模な農地を実際に耕作する作業員としての立場に近い。法人設立が可能なほどの大規模農地の確保が難しい関係上、どうしても法人の存在地域がある程度以上偏ってしまいがちな事が課題である。 2. 大規模農家への研修生入り 労働形態は1に類似している。元々は酪農家の労働力確保の手段として広く行われていた手法であるが、近年では大規模稲作や畑作などでも用いられている。正規の雇用関係ではなく農業研修生として、大規模農家は国や自治体の研修補助金を受け取り、研修生を養うことになるため、就農者の立場としては年季奉公或いは徒弟制度の弟子入りの関係に近くなる。被雇用者としての立場が法人への就農に比べて弱くなる反面、ある種の有機農法など特殊な農業技術を持つ農家に研修する場合、その農家の技術を直に学ぶ機会が得られるメリットがある。 3. 農業協同組合または自治体の農業研修を経ての独立 各研修主催者の研修を一定期間受けたのち、その土地もしくは別の土地にて一定規模の農地を借り受けて、耕作を行いながら独立する手段である。農業者研修教育施設などを経る手段も広義の意味では含まれうる。耕作対象としては比較的小規模ながらも作物の換金性の高いビニールハウスでの野菜や果物が多く用いられる。研修から独立までには多額の持ち込み資金が必要になる反面、ある程度確実に事業としての農業を開始できるため、特に転職や定年退職を控えたある程度以上資金力のある労働者の受け入れ先として広まりつつある。 1や2の場合には新規就農者は労働者としての立場となるため、新卒学生やニートなど自己資金がさほどない者でも就農できるメリットがあるが、就農先によっては激務薄給など労働条件が極めて過酷であったり、他の職種の徒弟制度同様に実質的には無給に近い立場となる可能性があることも覚悟しなければならない。現状では新規就農者や農業研修生の人権保護を目的にした労働組合も存在しないため、労働条件の確認は事前に十分行っておく必要がある。 3の場合には新規就農者は農業技術者(小作人)である同時に経営者としての立場となるため、しっかりとした経営感覚及び、十分な経営資金を持つ者でなければ継続して事業を続けることが難しい問題が存在する。自己資金が乏しい場合には研修運営元が融資を行ってくれる場合もあるが、この状態から小作農地を実際に購入して完全独立を果たすのは決して容易なことではない。 新規就農の労働条件としての問題点は、日本の農業というものの構造的な収益性の低さや各農家が抱える人件費削減の課題などと密接に絡んでいる。受け入れ側は技術や農地の継承というよりも単なる安価な労働力か、地主として耕作を継続させるための小作人としてしか新規就農者を見ていない例も散見され、就農側も特殊な農業技術の習得や収益の大きな販売営業手段の確立など、経営者・技術者として高度な専門知識が必要であることを理解せず、派遣労働に似た単純労働先としてしか農業を捉えていない例が散見されることが、こうした労働条件と現実のミスマッチを生む要因ともなっている。 自営農業を行う基幹的農業従事者の高齢化傾向はまだ続いているものの、近年、新規就農者は増加傾向にある。特に2008年頃には深刻な就職難から若い世代の人々が就農を目指す動きが盛んになり、限られた支援枠に多数の希望者が応募したこともあった。けれども離職も多く、2020年センサスでは49歳以下農業従事者の実数が離職を考慮しない推計の2/3程度の約22.7万人となっていた。
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