宇宙膨張とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > デジタル大辞泉 > 宇宙膨張の意味・解説 

うちゅう‐ぼうちょう〔ウチウバウチヤウ〕【宇宙膨張】

読み方:うちゅうぼうちょう

膨張宇宙


ビッグバン

(宇宙膨張 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/03 16:34 UTC 版)

現代宇宙論
宇宙
ビッグバンブラックホール
宇宙の年齢
宇宙の年表
ビッグバン理論では、宇宙は極端な高温高密度の状態で生まれた、とし(下)、その後に空間自体が時間の経過とともに膨張し、銀河はそれに乗って互いに離れていった、としている(中、上)。

ビッグバン: Big Bang)とは、宇宙は非常に高温高密度の状態から始まり、それが大きく膨張することによって低温低密度になっていったとする膨張宇宙論(ビッグバン理論[1]における、宇宙開始時の爆発的膨張。インフレーション理論によれば、時空の指数関数的急膨張(インフレーション)後に相転移により生まれた超高温高密度のエネルギーの塊がビッグバン膨張の開始になる[2]。その時刻は今から138.2億年(13.82 × 109年)前と計算されている[3]

遠方の銀河ハッブル–ルメートルの法則に従って遠ざかっているという観測事実を一般相対性理論を適用して解釈すれば、宇宙が膨張しているという結論が得られる。宇宙膨張を過去へと外挿すれば、宇宙の初期には全ての物質エネルギーが一カ所に集まる高温度・高密度状態にあったことになる[1]。この高温・高密度の状態よりさらに以前については、一般相対性理論によれば重力的特異点になるが、物理学者たちの間でこの時点の宇宙に何が起きたかについては広く合意されているモデルはない。

20世紀前半までは、天文学者の間でも「宇宙は不変で定常的」という考え方が支配的だった。1948年ジョージ・ガモフは高温高密度の宇宙がかつて存在していたことの痕跡として宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) が存在することを主張、その温度を5 Kと推定した。このCMBが1964年になって発見されたことにより、対立仮説(対立理論)であった定常宇宙論の説得力が急速に衰えた[1]。その後もビッグバン理論を高い精度で支持する観測結果が得られるようになり、膨張宇宙論が多数派を占めるようになった[1]

歴史

ビッグバン理論は、紆余曲折を経て、観測と理論の両面が揃って徐々に認められるようになってきた歴史がある。

20世紀初頭では天文学者も含めてほとんどの人々は宇宙は定常的なものだと考えていた。「宇宙には始まりがなければならない」という考えを口にする天文学者は皆無だった[4]エドウィン・ハッブルも、柔軟な考えを持っていると評価されているアインシュタインですらも「宇宙に始まりがあった」という考えには否定的であった[4]

1922年ソ連天文学者であるアレクサンドル・フリードマンが膨張する宇宙のモデルを発表する。

1927年にはベルギーの司祭で天文学者のジョルジュ・ルメートルが一般相対論のフリードマン・ロバートソン・ウォーカー計量に従う方程式を独自に導き出し、渦巻銀河が後退しているという観測結果に基づいて、「宇宙は原始的原子 (primeval atom) の“爆発”から始まった」というモデルを提唱した[5]

1929年ハッブルは、銀河が地球に対してあらゆる方向に遠ざかっており、その速度は地球から各銀河までの距離に比例していることを発見した[注 1]

ロシア出身の天文・核物理学ジョージ・ガモフは、ジョルジュ・ルメートルが提唱したビッグバン理論を支持し発展させた[4]。ガモフは、初期の宇宙は全てが圧縮され高密度だったうえに、超高温度だったとし、宇宙の膨張の始まりを、熱核爆弾の火の玉と捉え、創造の材料(陽子中性子電子ガンマ線の高密度ガス。これらの材料をガモフは「イーレム」と呼んだ)が爆発の場で連鎖的に起きる核反応によって、現在の宇宙に見られる様々な元素に転移したのだ、と説明した[6]。1940年代、ガモフとその共同研究者たちは、熱核反応によって創世が起きたとする説明の細部を詳細に描く論文をいくつも執筆した。だが、この説明では上手くいかなかった。原子核のなかには非常に不安定なものがあり、再融合する前にバラバラになり、彼が求めていた、元素へと組成する連鎖が途中で途切れてしまうのだった[6]。ガモフたちの研究や論文は無視され軽視されたままになり、研究チームは1940年代末に解散してしまい、チームメンバーでは科学を捨てる者もいた。ガモフ自身も研究者としては一線を退いたが、ガモフは大衆向けに科学宇宙論の本を書いたりし、次世代に影響を与えた[6]

フレッド・ホイルは「宇宙に始まりがあった」という考えを嫌っていた[6]。ホイルが1948年に出したモデルは「定常モデル」と呼ばれる。このモデルでは銀河が互いに遠ざかるに従って、あとに残った空間に新しい物質が現れ出て、それが固まることで新たな銀河を形成してゆくとし[7]、これにより宇宙の物質密度が一定に保たれるとした。このモデルでは大まかに言えば、宇宙はいつでも同じように見えることになる[7]。これは「宇宙は永遠無限だから偉大なのだ」と考える当時の科学者たちの心をつかんだ。またホイルの説はビッグバン説よりエレガントに思われたため物理学者らに好まれた[8]。ハッブルまで定常説が自然だと見なしていた[8]

しかしホイルは、定常モデルであってもビッグバン・モデルと同様に炭素酸素窒素ウランなどの化学元素の起源を説明しなければならない、という問題に気づいた[9]。ホイルは、時間の始まりに一発のビッグバンがあってそれが核反応炉の役割を果たしたとしなくても元素が創生されたと説明がつくことを示すために、「星ではありとあらゆる核種変換が起こっている」と提唱した[9]。そのため1953年にはカリフォルニア工科大学ケロッグ放射線研究所英語版に赴いて、所長のウィリアム・ファウラーの協力で、泡箱を用いて原子核の衝突実験(3個のヘリウムでできる炭素の原子核の性質を調べる実験)を成功させた[9]。これにより炭素は星のなかで無尽蔵に作られる性質があることが判った。その後も彼ら2人を含めて数名が元素の歴史に迫り、B2FH論文に結実させた[9][10]。だが、こうした論文は定常モデルに有利に働いたというよりむしろ、ハッブルの観測によって導かれた星の進化に関するアイディア群がより完成度を高めた、と一般には見なされた[9]

《ビッグバン VS 定常宇宙》論争では、ローマカトリックは早い段階で、どちらの陣営を支持するか態度を明らかにしていた。1951年に教皇ピウス12世はバチカン宮殿で会議を開き、「ビッグバンはカトリックの公式の教義に矛盾しない」との声明を発表した[注 2]

1953年にハッブルが亡くなると、ウィルソン山天文台で彼の部下であったアラン・サンデージは、ハッブルが計画した「宇宙のサイズと運命を推算する仕事」を引き継いだ[12]。当時20代半ばで、ようやく学位論文を仕上げたばかりだった彼は、ルメートルの説を馬鹿げたものとは見なさず、これを「Creation Event (天地創造事件)」と呼んで探究した[4]。サンデージは、膨張宇宙説を支えているのは1920〜30年代に集められた いかにも頼りない証拠にすぎない、ということを認識しており、結局、どの説が正しいかを決定づけるのは彼がウィルソン山天文台で少しずつ、だが系統的に日々集めている観測データであると考えていた[11]

一方、旧ソ連には核兵器関連の仕事をしつつ物理学者として素粒子物理学に関する論文を書いていたヤコブ・ゼルドビッチがいたが、彼は西側の科学者以上にビッグバン説について研究し、宇宙を巨大な素粒子物理実験と見なすようになっていた[13]。彼は宇宙の元素存在比の表を読み違えて計算したことにより、《熱いビッグバン》は間違いだと考え、《冷たいビッグバン》を長らく信じた[13]

1964年宇宙マイクロ波背景放射が発見されて以降は、宇宙が高温高密度の状態から進化したというアイデアを支持する観測的な証拠が次々に発見された、定常宇宙論よりもビッグバン理論のほうが宇宙の起源と進化を説明するのに都合が良いと考える人が多数派になった。

現在の科学者による宇宙論の研究はそのほとんどがビッグバン理論の拡張や改良を含むものである。現在行なわれているほとんどの宇宙論の研究には、ビッグバンの文脈で銀河がどのように作られたかを理解することや、ビッグバンの時点で何が起きたかを明らかにすること、観測結果を基本的な理論と整合させることなどが含まれている。

ビッグバン宇宙論の分野では1990年代の終わりから21世紀初めにかけて、望遠鏡技術の発展とCOBEハッブル宇宙望遠鏡WMAPプランクといった衛星から得られた膨大な量の観測データとが相まって、非常に大きな進展が見られた。これらのデータによって、宇宙論研究者はビッグバン理論のパラメータを今までにない高い精度で計算することが可能になり、これらによって宇宙の膨張速度は減速しておらず、むしろ加速しているらしいという想定外の発見がもたらされた。

名称

ビッグバン(Big Bang)という名称が定着する以前は、天文学者らの間ではフリードマン宇宙論として語られていた[14]

ルメートルのモデルを「ビッグバン(Big Bang)」と最初に呼んだのはフレッド・ホイルであり、1949年BBC のラジオ番組 The Nature of Things の中でルメートルのモデルを "this 'big bang' idea" とからかうように呼んだのが始まりであるとされている[15][6]

Sir Fred Hoyle “One [idea] was that the Universe started its life a finite time ago in a single huge explosion...This big bang idea seemed to me to be unsatisfactory. ”

科学記者ジョン・ホーガンの取材によるとフレッド・ホイルは揶揄する意味は微塵も無く、何か生き生きとした表現は無いものかと咄嗟に思いついたのが「ビッグ・バン」だったと述べており、「命名者としてパテントを取得しておくべきだったよ」と悔やんでいる旨を明かしている[14]

その後、初命名者のフレッド・ホイルが「生き生きとした表現」にし過ぎたためか、学術用語として認知されるまでには多少の紆余曲折と時間はかかったが、広く普及してしまい、定着した。

概観

Ia型超新星を用いた宇宙膨張速度の測定[16]や宇宙マイクロ波背景放射の揺らぎの観測[17]、また銀河の相関関数の測定[要出典]から、我々の宇宙の年齢は137.99 ± 0.21億年と見積もられている。これら三つの独立した観測結果が一致しているという事実は、宇宙に含まれる物質やエネルギーの詳細な性質を記述する、いわゆるΛ-CDMモデルを支持する強い証拠である[要出典]と考えられている。

初期宇宙は信じられないほど高いエネルギー密度と、それに伴う非常に高い温度と圧力で一様・等方的に満たされていた。その後宇宙は膨張して冷却し、それに伴って相転移を引き起こした。この相転移は水蒸気が凝結したり水が凍ったりする物理過程と類似しているが、宇宙の相転移は素粒子に関連した過程である。

プランク時代の約10−35秒後、相転移によってインフレーションと呼ばれる宇宙の指数関数的膨張が引き起こされたと考えられている[18]。インフレーションが終了した後、宇宙の物質要素はクォーク・グルーオンプラズマと呼ばれる状態で存在していた(これにはクォークグルーオン以外のあらゆる粒子も含まれている。なお、2005年には、この宇宙初期に近い物質状態がクォーク・グルーオン液体として実験的に作られた可能性も報告された [1])。このプラズマ中では粒子は全て相対論的速度で運動している。宇宙の大きさが大きくなるにつれて、温度は下がり続けた。ある温度に達したところでバリオン数生成と呼ばれる未知の相転移が起こり、クォークとグルーオンが結合して陽子中性子といったバリオンが作られた[要出典]。この時に、現在観測されている物質と反物質との間の非対称性が何らかの形で生まれた[19]と考えられている。

さらに温度が下がると、さらなる対称性の破れをもたらす相転移が起こり、これによって、この宇宙に存在する基本的な素粒子とが現在のような形になった。この後、ビッグバン元素合成と呼ばれる過程によって、陽子中性子とが結合してこの宇宙に存在する重水素ヘリウム原子核が作られた。宇宙が冷えるにつれて、物質の相対性理論的速度での運動は次第に収まり、物質の静止質量エネルギー密度の方が放射電磁波)のエネルギー密度よりも重力的に優勢になった。およそ30万年後には電子と原子核とが結合して原子(そのほとんどは水素原子)が作られた。これによって放射は物質と相互作用する確率が低くなり、ほぼ物質に妨げられることなく空間内を進むことができるようになった。この時期の放射の名残が宇宙マイクロ波背景放射である。

時間が経つにつれて、ほとんど一様に分布している物質の中でわずかに密度の高い部分が重力によってそばの物質を引き寄せてより高い密度に成長し、ガス雲や恒星、銀河、その他の今日見られる天文学的な構造を形作った。この過程の細かい部分は宇宙の物質の量と種類によって変わってくる。ここでは物質の種類としては、冷たいダークマター、熱いダークマター、バリオンの3種類が可能性として考えられる。現在最も精度の良い測定(WMAPによる)によると、宇宙の物質の大部分を占めているのは冷たいダークマターであると見られている。それ以外の2種類の物質が占める割合は宇宙全体の物質の20%以下である。

今日の宇宙ではダークエネルギーと呼ばれる謎のエネルギーが優勢であるらしいことがわかっている。現在の宇宙の全エネルギー密度のうちおよそ70%がダークエネルギーである。宇宙にこのような構成要素が存在することは、大きな距離スケールで時空が予想よりも速く膨張しており、このために宇宙膨張が速度と距離の比例関係からずれていることが明らかになったのがきっかけとなって知られるようになった。

ダークエネルギーは最も単純な形では一般相対性理論のアインシュタイン方程式の中に宇宙定数項として現れるが、その組成は不明である。より一般的に言うと、ダークエネルギーの状態方程式の詳細や素粒子物理学標準模型との関係について、観測と理論の両面から現在も研究が続けられている。

これら全ての観測結果は、Λ-CDMモデルと呼ばれる宇宙論モデルに凝縮されている。6個の自由パラメータを持つビッグバン理論の数学モデルである。

宇宙の始まりの時代、今までの素粒子実験で調べられたことがないほど粒子のエネルギーが高かった時期を詳しく見ていくと、謎が浮かび上がってくる。大統一理論によって予想されている最初の相転移よりも前、宇宙最初の10−33秒間については、説得力のある物理モデルは存在しない。アインシュタインの相対性理論では、宇宙は、「最初の瞬間」には密度が無限大になる重力的特異点になる。これより以前の宇宙の状態を記述するには、量子重力理論が必要になると考えられる。この時代(プランク時代)の宇宙の状態を解明することは現代の物理学の大きな未解決問題の1つである。

理論的基盤

現在のところ、ビッグバンは次の3つの仮定に依存している[要出典]とされる。

  1. 物理法則の普遍性
  2. 宇宙原理
  3. コペルニクスの原理

最初にビッグバンが考え出された時にはこれらのアイデアは単なる仮定と考えられていたが、今日ではこのそれぞれを検証する試みが行なわれている。物理法則の普遍性の検証からは、宇宙年齢の間にわたって微細構造定数に生じ得たずれの大きさは最大でも10−5のオーダーであることが分かっている。宇宙原理を定義している宇宙の等方性については10−5以内のレベルで成り立っていることが検証されており、一様性については最大10%のレベルで成り立っていることが分かっている。また、コペルニクスの原理についてはスニヤエフ・ゼルドビッチ効果による銀河団とCMBとの相互作用を観測するという手法で検証する試みが行われており、1%の精度で検証されている。

ビッグバン理論では、任意の場所での時刻を「プランク時代からの時間」として曖昧さなく定義するためにワイルの仮定を用いる。この系では大きさは共形 (conformal) 座標と呼ばれる座標系に従って決められる。この座標系ではいわゆる共動距離と共形時間を用いることで宇宙膨張の効果を消し去る。宇宙膨張は宇宙論的スケール因子によって、時空のサイズを考慮してパラメータ化される。共動距離と共形時間はそれぞれ、宇宙論的な運動に乗って動く物体間の共動距離が常に一定となるように、また粒子的地平線、すなわちある場所から見た宇宙の観測限界が共形時間と光速によって決まるように定義される。

宇宙がこのような座標系で記述されることから、ビッグバンは物質が空っぽの宇宙を満たすように外に向かって爆発するのではないことが分かる。ビッグバンでは時空自体が膨張するのである。我々の宇宙でどのような2つの定点をとっても二点間の物理的距離が大きくなる原因はこれによって説明される。(例えば重力などによって)一体に束縛されている物体の系は時空の膨張とともに膨張はしない。これは、これらの物体を支配する物理法則が普遍的に成り立ち、計量の膨張とは無関係であることが仮定されているためである。加えて、局所的なスケールでの現在の宇宙膨張は非常に小さいため、仮に物理法則が宇宙膨張に依存していたとしても現在の技術では測定不可能である。

観測的証拠

一般に、宇宙論においてビッグバン理論を支持する観測的な支柱が三つあると言われている。それは、銀河の赤方偏移に見られるハッブル則的な膨張と、宇宙マイクロ波背景放射の詳細な観測、それに軽元素の存在量である(元素合成を参照のこと)。これらに加えて、宇宙の大規模構造の相関関数の観測も標準的なビッグバン理論とよく一致している。

ハッブル則に従う膨張

遠方の銀河とクエーサーの観測から、これらの天体が赤方偏移していることが分かっている。これは、これらの天体から出た光がより長い波長へとずれていることを意味する。この赤方偏移は、これらの天体のスペクトルをとって、それらの天体に含まれる原子が光と相互作用して生じる輝線や吸収線の分光パターンを実験室で測定したスペクトルと比較することで分かる。この分析から、光のドップラーシフトに対応した値の赤方偏移が測定され、これは後退速度として説明される。後退速度を天体までの距離に対してプロットすると、ハッブルの法則として知られている比例関係が現れる。

この節の加筆が望まれています。

2009年大内正己特別研究員が率いる日米英の国際研究チームが発見したヒミコは、ビッグバンから約8億年後(現在の宇宙年齢の6%、現在から遡ると約129億年前)という宇宙が生まれて間もない時代に存在した巨大天体であり、この天体の存在はビッグバン理論に対して大きな問題を投げかけることになった。

ヒミコは、5万5千光年にも広がり、宇宙初期の時代の天体としては記録的な大きさである。ビッグバン理論では、「小さな天体が最初に作られ、それらが合体集合を繰り返して大きな天体ができる」と考えられているが、ヒミコはビッグバンから約8億年後には既に現在の平均的な銀河と同じくらいの大きさになっていたこととなり、これは理論の根幹を揺るがす事実である[20]

ビッグバン理論に基づく宇宙の未来

ダークエネルギーが観測される以前は、宇宙論研究者は宇宙の未来について二通りのシナリオを考えていた。宇宙の質量密度が臨界密度より大きい場合には、宇宙は最大の大きさに達し、その後収縮し始める。それに伴って宇宙は再び高密度・高温になってゆき、宇宙が始まったときと同じ状態(ビッグクランチ)で終わる。またあるいは、宇宙の密度が臨界密度に等しいかそれより小さい場合には、膨張は減速するものの止まることはない。宇宙の密度が下がっていくにつれて星形成は起こらなくなる。宇宙の平均温度は絶対零度に次第に近づいていき、それとともに、より質量の大きなブラックホールも蒸発するようになる。これは熱死あるいは低温死 (cold death) として知られるシナリオである。さらに、陽子崩壊が起こるならば、現在の宇宙のバリオン物質の大多数を占める水素が崩壊する。こうして最終的には放射だけが残る。

現在の加速膨張の観測結果からは、今見えている宇宙は時間とともに我々の事象の地平線を超えてどんどん離れていき、我々とは関わりを持たなくなることが示唆される。最終的な結果がどうなるかは分かっていない。Λ-CDM宇宙モデルは、宇宙定数という形でダークエネルギーを含んでいる。この理論では銀河などの重力的に束縛された系だけはそのまま残され、宇宙が膨張して冷えるに従ってやはり低温死へと向かうことが示唆される。ファントムエネルギー説と呼ばれる別のダークエネルギーの説明では、ダークエネルギーの密度が時間とともに増加し、これによるビッグリップと呼ばれる永遠に加速する膨張によって銀河団や銀河自体もばらばらに壊されてしまうとしている。

ビッグバンを超える純理論的物理学

今まで提案された理論には以下のようなものがある。

  • カオス的インフレーション
  • ブレイン宇宙論モデル。ビッグバンはブレイン同士の衝突の結果起こるとするエキピロティックモデルを含む。
  • 振動宇宙論。初期宇宙の高温高密度状態は現在と同じような宇宙が過去にビッグクランチを起こした結果であるとする。この説では宇宙は無限回のビッグバンとビッグクランチを繰り返してきたことになる。エキピロティックモデルを拡張した循環モデルはこのシナリオの現代版である。
  • 時空の全体は有限であるとするハートル=ホーキングの境界条件を含むモデル。

これらのシナリオの中には定性的に互いに同等なものもある。これらはそれぞれまだ検証されていない仮定を含んでいる。

注釈

  1. ^ この事実は現在「ハッブルの法則」と呼ばれている。これが、ルメートルの「原始的原子 (primeval atom) の“爆発”から始まった」とする理論に対して裏付けを与えることになった。
  2. ^ これは純粋に科学的なことには、あまり関係のないことであった[11]

出典

  1. ^ a b c d 松原隆彦 著「第1章 宇宙論」、谷口義明 編『新天文学事典』(初版第1刷)講談社〈ブルーバックス〉、2013年3月20日、45頁。ISBN 978-4-06-257806-6 
  2. ^ 福江純 著「第1章 宇宙のスケール」、福江純、沢武文 編『超・宇宙を解く』(初版第1刷)恒星社厚生閣、2014年7月10日、3頁。 ISBN 978-4-7699-1474-7 
  3. ^ Peplow, Mark (2013). “Planck telescope peers into primordial Universe”. Nature. doi:10.1038/nature.2013.12658. ISSN 1476-4687. 
  4. ^ a b c d デニス・オーヴァバイ, p. 67.
  5. ^ C・ロヴェッリ『すごい物理学講義』河出文庫、2019年、261頁。 
  6. ^ a b c d e デニス・オーヴァバイ, p. 68.
  7. ^ a b デニス・オーヴァバイ, p. 69.
  8. ^ a b デニス・オーヴァバイ, p. 70.
  9. ^ a b c d e デニス・オーヴァバイ, pp. 66–76.
  10. ^ Burbidge, E. Margaret; Burbidge, G. R.; Fowler, William A.; Hoyle, F. (1957). “Synthesis of the Elements in Stars”. Reviews of Modern Physics 29 (4): 547-650. Bibcode1957RvMP...29..547B. doi:10.1103/RevModPhys.29.547. ISSN 0034-6861. 
  11. ^ a b デニス・オーヴァバイ, p. 77.
  12. ^ デニス・オーヴァバイ, p. 52.
  13. ^ a b デニス・オーヴァバイ, p. 249.
  14. ^ a b ジョン・ホーガン 著、竹内薫 訳、筒井康隆 編『科学の終焉』徳間書店徳間文庫〉、2000年10月。 ISBN 978-4198913984 
  15. ^ Big Bang”. Wordorigins.org (2007年9月4日). 2017年6月13日閲覧。
  16. ^ 超新星で探る宇宙膨張の歴史”. 国立天文台 (2021年5月14日). 2023年6月2日閲覧。
  17. ^ Planck Collaboration (2014-07-05). “Planck 2013 results. I. Overview of products and scientific results”. Astronomy & Astrophysics 571: 1. arXiv:1303.5062v2. Bibcode2014A&A...571A...1P. doi:10.1051/0004-6361/201321529. 
  18. ^ 第2回「真空の相転移で宇宙は始まった」(佐藤勝彦 氏 / 自然科学研究機構 機構長”. サイエンスポータル. 科学技術振興機構 (2014年4月14日). 2023年6月2日閲覧。
  19. ^ 宇宙に物質しかない理由を重力波で探る”. アストロアーツ (2020年2月12日). 2023年6月2日閲覧。
  20. ^ 観測成果 - 古代宇宙で巨大天体を発見 - 謎のガス雲ヒミコ -”. すばる望遠鏡. 国立天文台 (2009年4月22日). 2017年6月15日閲覧。

参考文献

  • デニス・オーヴァバイ『宇宙はこうしてはじまりこう終わりを告げる』(初版)白揚社、2000年。 ISBN 978-4826900966 

関連項目

関連文献・外部リンク

ビッグバンの概論

一次資料

  • G. Lemaitre, "Un Univers homogene de masse constante et de rayon croissant rendant compte de la vitesse radiale des nebuleuses extragalactiques"(銀河系外星雲の視線速度を説明する、一定質量を持ち半径が成長する一様宇宙について), Annals of the Scientific Society of Brussels 47A (1927):41—一般相対論によれば宇宙は膨張しているはずであることを指摘した論文。この論文が出版された同年、アインシュタインはこの説を否定した。ルメートルの注釈が以下の論文で翻訳されている: Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 91 (1931): 483–490.
  • G. Lemaitre, Nature 128 (1931) suppl.: 704, 原始的原子に対する参照あり。
  • R. A. Alpher, H. A. Bethe, G. Gamow, "The Origin of Chemical Elements,"Physical Review 73 (1948), 803. いわゆるαβγ論文。この論文でアルファーとガモフは、軽元素が高温高密度の初期宇宙で陽子が中性子を捕獲することによって作られたと示唆した。ベーテの名前は著者名の語呂を良くするために追加された。
  • G. Gamow, "The Origin of Elements and the Separation of Galaxies," Physical Review 74 (1948), 505. ガモフによる1948年のこれら2編の論文によって、現在我々が理解しているビッグバン元素合成の基礎が確立された。
  • G. Gamow, Nature 162 (1948), 680.
  • R. A. Alpher, "A Neutron-Capture Theory of the Formation and Relative Abundance of the Elements," Physical Review 74 (1948), 1737.
  • R. A. Alpher and R. Herman, "On the Relative Abundance of the Elements," Physical Review 74 (1948), 1577. この論文で現在の宇宙の温度が初めて評価された。
  • R. A. Alpher, R. Herman, and G. Gamow Nature 162 (1948), 774.
  • A. A. Penzias and R. W. Wilson, "A Measurement of Excess Antenna Temperature at 4080 Mc/s," Astrophysical Journal 142 (1965), 419. 宇宙マイクロ波背景放射の発見を記述した論文。
  • R. H. Dicke, P. J. E. Peebles, P. G. Roll and D. T. Wilkinson, "Cosmic Black-Body Radiation," Astrophysical Journal 142 (1965), 414. ペンジアスとウィルソンの発見に対する理論的解釈。
  • A. D. Sakharov, "Violation of CP invariance, C asymmetry and baryon asymmetry of the universe," Pisma Zh. Eksp. Teor. Fiz. 5, 32 (1967), translated in JETP Lett. 5, 24 (1967).
  • R. A. Alpher and R. Herman, "Reflections on early work on 'big bang' cosmology" Physics Today Aug 1988 24–34. ビッグバン理論のレビュー論文。

宗教・哲学

  • Leeming, David Adams, and Margaret Adams Leeming, A Dictionary of Creation Myths. Oxford University Press (1995), ISBN 0195102754.
  • Pius XII (1952), "Modern Science and the Existence of God," The Catholic Mind 49:182–192.

研究論文

宇宙論についてのほとんどの科学論文はプレプリントとして最初にarxiv.orgに投稿される。これらの論文の内容は一般に専門的だが、平易な英語でイントロダクションを記述しているものもある。実験と理論の両分野をカバーしている最も適切なアーカイブは astrophysics アーカイブである。特に観測に関連した論文はここに投稿されている。general relativity and quantum cosmology アーカイブにはより純理論的な論文が投稿される。宇宙論研究者にとって興味深い論文は high energy phenomenologyhigh energy theory のアーカイブにもしばしば投稿される。

外部リンク



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「宇宙膨張」の関連用語

宇宙膨張のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



宇宙膨張のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのビッグバン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS