共生の例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/25 23:55 UTC 版)
魚類であるクマノミと、刺胞動物であるイソギンチャクの共生関係は有名である。イソギンチャクの触手には、異物に触れると毒針を発射する「刺胞」という細胞が無数にあり、これで魚などを麻痺させて捕食している。ところがクマノミの体表には特殊な粘液が分泌され、イソギンチャクの刺胞は反応しない。このためクマノミは大型イソギンチャクの周囲を棲みかにして外敵から身を守ることができる。一方、イソギンチャクがこの関係からどの様な利益を得ているかはっきりせず、この関係は片利共生とみられる。一説には、イソギンチャクの触手の間のゴミをクマノミが食べる、またクマノミの食べ残しをイソギンチャクが得る、イソギンチャクの天敵チョウチョウウオをクマノミが追い払うといった相利共生とされることもある。また一説には、イソギンチャクの触手の中に藻類が共生しており、クマノミが近くにいることによって触手が伸び、藻類の光合成が盛んになるという3種間による壮大な共生を説明しているものもある。クマノミのほかにもイソギンチャクカクレエビなど、イソギンチャクと共生する生物は多い。 ヤドカリやカニの中には、小型のイソギンチャクをはさみや貝殻につけて身を守る種類がある。ヤドカリは自分の体が大きくなると貝殻を替えなければならないが、そのときイソギンチャクは自ら移動したり、ヤドカリがはさみで剥がして移し替えたりする。お互いに食物のやりとりもしているとみられる。 地衣類は菌類と藻類(シアノバクテリアあるいは緑藻)からなる共生体で、菌類は乾燥などの環境変化から藻類を保護し、藻類は光合成によって栄養供給の役割を担っているなど、高度に相互依存している。 根粒はマメ科などに見られる根粒菌と呼ばれる細菌との共生体である。根粒菌は植物が利用不可能な大気中の窒素を固定して植物に供給し、植物は根粒菌に栄養として炭水化物を与えている。 内生菌(エンドファイト)は植物の体内に目に見える症状を起こさずに感染している菌類である。牧草などイネ科草本と共生するバッカクキン科内生菌は生理活性物質を生産し、宿主植物の病虫害抵抗性が向上したり環境ストレス耐性が向上したりする。一方でこれらの菌には宿主の有性生殖を阻害するものがある。樹木内生菌には共生状態では何もせず葉の老化とともに感染を広げるだけで、落葉後いち早く分解菌としての活動を開始するものがある。 養菌性キクイムシ(アンブロシアビートル)は、材中に掘った坑道の中に植えつけた共生菌類(アンブロシア菌)のみを食べて生活するキクイムシの一群である。成虫の体にはマイカンギアと呼ばれる菌を運搬するための構造があり、材内で羽化した新成虫は育った坑道内のアンブロシア菌を身につけて材を脱出し、新たな坑道を掘ってそこに植え付けて次世代の餌とする。 菌根は植物の根と菌類とによる多様な共生体である。その種間関係も相利共生から菌の植物に対する寄生、植物の菌に対する寄生菌従属栄養植物と幅広い。 アブラムシ(アリマキ)と、その細胞内で生息するブフネラという細菌は、非常に強い相利共生の関係にある。アブラムシが主食としている植物の師管液には、グルタミンとアスパラギン以外の必須アミノ酸はほとんど含まれていない。本来ならアブラムシはこれだけで生命を維持することは不可能なはずである。しかしアブラムシの細胞内のブフネラが、これら2つのアミノ酸を基に他のアミノ酸を合成し、アブラムシの細胞内に供給しているため、師管液のみで必要な栄養を得ることができる。アブラムシはブフネラなしでは生命を維持することができない。一方、ブフネラは自らの生命を維持するための遺伝子の多くを失っており、アブラムシの細胞内でしか分裂・増殖することができない。この共生関係は2億年にわたり世代間で引き継がれてきており、共生がなされる以前のブフネラの祖先は大腸菌の仲間であったと考えられている。(Shigenobu, S. et al. Nature 407, 81-86 (2000)) メタン菌と酢酸生成菌の共生など、原核生物同士の共生関係もある。酢酸生成菌は嫌気条件で有機物を酢酸と水素に分解し、次いでメタン菌が酢酸と水素を利用してメタンを合成する。本来、有機物から酢酸を生成する反応は吸エルゴン反応であり、反応は進行しないが、メタン菌の存在により酢酸濃度が低く抑えられるため反応を進めることができる。一方、メタン菌にとっては基質を提供してもらえるというメリットがあり共生関係が成立する。真核生物の起源を説明する説の一つに、この共生を基にメタン菌(古細菌)が酢酸生成菌(真正細菌)を飲み込む方向に進化し、真核生物が成立したとする「水素仮説」がある。
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