兄妹
★1.血のつながらぬ兄妹。
『当世書生気質』(坪内逍遥) 士族・守山友定の娘お袖は、上野の戦争の折に母親とはぐれ、貧しい老女に拾われてお芳と名づけられる。老女の死後、お袖(=お芳)は官員・小町田浩爾に救われ、養女となって、小町田家の息子・粲爾とは兄妹として育つ。後に小町田浩爾が免職になり、生活が苦しくなったため、お袖(=お芳)は小町田家を出て芸妓となり「田の次」と名乗る。ある時、粲爾と「田の次」は久しぶりに再会し、粲爾は「田の次」に恋心を抱く〔*物語の最後で「田の次」の身分出生が明らかになり、粲爾と「田の次」の恋の成就が示唆される〕。
『氷点』(三浦綾子)「淵」~「千島から松」 辻口徹と陽子は仲の良い兄妹だった。陽子は、自分がもらい子であることに気づいていた。徹は思春期に達し、陽子に異性を感じるようになる。陽子が殺人犯の子であることを知った徹は、「陽子を幸福にできるのは自分しかない」と思い、「大学を出たら陽子と結婚しよう」と決意する。しかし、陽子はそれを「愛ではなく憐れみによる結婚」と誤解するかもしれない。徹は「陽子の真の幸福のためには、親友の北原と結婚させるのがよい」と考え直す。
『許されざる者』(ヒューストン) アメリカ西部。ザカリー家は、老母、ベン・キャッシュ・アンディの3兄弟、そして赤ん坊の時からこの家で育った養女レイチェルの、5人暮らしである。レイチェルは、血のつながらぬ兄ベンを慕っている。レイチェルが10代後半になった頃、彼女が白人ではなく、カイオワ・インディアンの娘であることが明らかになる。カイオワ族の一団が、レイチェルを取り戻すためにザカリー家に押し寄せ、銃撃戦が始まる。ベンはレイチェルに「結婚しよう」と言う。レイチェルは、実の兄であるカイオワ族のリーダーを射殺する。
★2a.異母兄妹。
『男はつらいよ』(山田洋次) 車平造が妻との間にもうけた娘がさくら、芸者菊との間にもうけた息子が寅次郎で、2人は異母兄妹の関係である〔*車平造と妻との間にはもう1人、寅次郎の異母兄にあたる息子がいたが、若死にした〕。フーテン暮らしを恥じる寅次郎は、妹さくらの喜ぶような立派な兄貴になって柴又に落ち着きたいと思うが、その努力は空回りしがちであり、さくらの「お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」の声に送られて、去って行くのである。
*弟思いの姉→〔姉弟〕1bの『巨人の星』(梶原一騎/川崎のぼる)。
『金色の眼の娘』(バルザック) パリで一番の美青年アンリは、金色の眼の娘パキタに出会い、心を奪われる。2人は密会するが、不思議なことに、パキタは処女でありながら、性的に無垢ではなかった。パキタは、サン=レアル侯爵夫人の同性愛の相手だったのだ。侯爵夫人は、パキタが男と関係を持ったことを知り、短刀でパキタを殺す。その現場へ、アンリが来合わせる。アンリと侯爵夫人は、互いが瓜二つであることに驚く。2人は異母兄妹(あるいは異母姉弟)だった。
*性戯にふけりながらも、処女を守る娘→〔処女妻〕4の『夕暮まで』(吉行淳之介)。
『隣りの八重ちゃん』(島津保次郎) 帝大生の新井恵太郎は、隣家の女学生・服部八重子と兄妹のように仲良くしている。新井家と服部家は親戚同然のつき合いで、恵太郎も八重子も、互いに相手の家へ自由に出入りする。恵太郎の弟・中学生の精二は、恵太郎と八重子の仲を「あやしいぞ」と言って、からかう。八重子の姉・出戻りの京子が恵太郎を誘惑するので、八重子は心配になる。やがて服部家は父親の転勤によって、遠い朝鮮へ引っ越す。八重子は女学校を卒業するまで、新井家に同居することになる。もう、「隣りの八重ちゃん」ではないのだ。
『みつけ鳥』(グリム)KHM51 鷲などの鳥が、幼い男児をさらって、山の木の上に置く。山番の男が男児を見つけ、家へ連れ帰る。山番は男児を「みつけ鳥」と名づけ、自分の娘レーネ(レン)と一緒に育てる。「見つけ鳥」とレーネは、片時も離れぬほどの仲良しになり、魔法使いの婆さんに命をねらわれた時も、2人協力して危難を脱した→〔変身〕10。
*『嵐が丘』(E・ブロンテ)のヒースクリフとキャサリンも、兄妹同然に育ち、やがて愛し合うようになる→〔行方不明〕2。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「捕物仁義」 忠義な武士・川波一弥(かずや)は、主家の若君が悪商・長崎屋の土蔵に閉じ込められたことを知る。一弥は浪人に身をやつし、妻お京を「妹」といつわって、長崎屋の隣家に住む。美男の一弥は、長崎屋の娘お喜多の浮気心をそそって、土蔵の鍵を手に入れようとする。しかしお喜多は、お京が一弥の妹でなく妻だと知り、嫉妬してお京を殺す〔*銭形平次が一弥に力を貸し、若君を救い出した〕。
『創世記』第12章 アブラムと妻サライは、エジプトに滞在する時、「兄妹である」と称した。サライは美しかったので、「アブラムが夫ならば、エジプト人は彼を殺すだろう。アブラムが兄ならば、エジプト人は彼を歓待するだろう」と、予測したからである。サライはファラオの宮廷に召され、彼女ゆえにアブラムも幸いを受けた。しかし主(しゅ)がエジプトに病気をもたらしたので、ファラオは「アブラムとサライは夫婦だ」と知り、2人を国外へ退去させた。
『バスカヴィル家の犬』(ドイル) バスカヴィル家の血筋をひく男が、ステープルトンという偽名を用い、妻ベリルを妹といつわって、バスカヴィルの館のあるデヴォンシャに乗りこむ。館の主ヘンリ卿がベリルに恋心を抱いたことを利用して、ステープルトンはヘンリ卿を殺そうとする。ヘンリ卿が死ねば、バスカヴィル家の領地と資産はステープルトンのものになるのだった。しかしホームズがヘンリ卿を救い、ステープルトンの計画は失敗する。
『門』(夏目漱石)14 宗助と安井は京大の学生で、仲の良い友人どうしだった。宗助が安井の新居を訪れた時、安井はお米(よね)を「僕の妹だ」と言って紹介した。宗助はよく安井の所へ遊びに行ったので、自然、お米とも親しく口をきくようになった。お米は、安井の妹ではなかった。宗助とお米は駆け落ちした。2人は地方を転々とした後、東京の片隅で、世間を避けるようにして暮らした。
『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』3幕目「源氏店妾宅の場」 お富は3年前から、和泉屋多左衛門の囲い者となっているが、不思議なことに多左衛門は、お富と同衾しない。お富のかつての愛人・与三郎が訪れたので、お富は彼を「兄だ」と言って、多左衛門に紹介する。しかし実は多左衛門こそ、お富の本当の兄なのだった〔*3年前、海に身を投げたお富は、多左衛門の船に助け上げられた。その時、多左衛門はお富の持つ守り袋を見て、自分の妹であることを知った〕。
『うつせみ』(樋口一葉) 雪子には許婚があり、彼女は許婚を「兄様(にいさん)」と呼んでいた。雪子が女学校に通っていた時、青年・植村録郎が彼女を恋するが、「兄様」というのが実は婚約者であると知って、植村は自殺した。雪子は罪の意識から発狂し、「私が、申さないが悪うござりました。兄と言うてはおりまするけれど・・・」と、亡き植村に向かって繰り返し詫び言を述べた。
★7.「あなたは生き別れた兄にそっくりだ」と言って、女が男を口説こうとする。
『二人の友』(森鴎外) F君が尾道の宿に泊まった夜のこと。枕元に芸者が来て問う。「私には兄がおり、家出して行方知れずになっている。先程、座敷で遠くからあなたを見て、『兄だ』と思った。あなたは、私が逢いたいと思っている兄ではありませんか?」。F君は「気の毒だが人違いだ」と言って、芸者を帰らせた。後にその話を聞いた「私」は、「それは、芸者が君を口説きに来たのだ」とF君に教えた。
*兄が、生き別れた妹をそれと知らずに殺す→〔橋〕6の『八幡祭小望月賑(はちまんまつりよみやのにぎわい)』(河竹黙阿弥)。
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