他の障害の併存と鑑別
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「境界性パーソナリティ障害」の記事における「他の障害の併存と鑑別」の解説
BPDと診断された人の約60% - 90% 以上が他の障害を併存している。他のパーソナリティ障害や、不安障害、うつ病や双極性障害(躁うつ病)などの気分障害、薬物依存症や摂食障害などが多い。I 軸障害の積極的な治療はパーソナリティの安定につながる。 2008年に行われたアメリカの調査では、併存疾患として多かったのはアルコールや薬物依存、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、双極 I 型 障害、不安障害、他のパーソナリティ障害であった。また1998年の別の統計では、パニック障害や社交不安障害などの不安障害、うつ病や気分変調症などの気分障害、アルコール依存や薬物乱用、摂食障害、PTSD、身体表現性障害が多かった。 併存疾患には男女差がある。アルコールや薬物依存は男性に多く、うつ病、不安障害、摂食障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は女性に多い。以下の表3.を参照されたい。 ほとんどの患者がなんらかの併存疾患を持っているのだが、BPD自体が、他の障害と重複する症状・診断基準が多く鑑別がつきにくい。統合失調症の症状に似た一過性の精神病症状が現れることは前述した通りだが、初期の統合失調症や統合失調感情障害も誤診されやすい所見を持ち、双極 II 型障害、アスペルガー症候群などの広汎性発達障害、解離性同一性障害、多剤併用や薬物の大量処方によって起こる薬剤起因の精神障害とも鑑別がつきにくく、一旦BPDと診断されても、後にそれらの病名に診断が変更になることがある。 特に双極II型障害は症状が類似しており誤診断も多い。北海道大学病院精神科神経科に通院している患者を調査したところ、初診時または2年半以上後にBPDの診断がついた患者が、その後に双極 II 型に診断変更されたのは、47例中15例(約32%)であった。またアスペルガー症候群に診断変更された例は47例中3例で、約6.4%が誤診断されていた。 表2. 併存疾患と診断変更例BPDに多い併存疾患BPDに間違われやすい疾患BPDが間違われやすい疾患 統合失調症・統合失調感情障害 アスペルガー症候群(広汎性発達障害) 注意欠陥・多動性障害(ADHD) 注意欠陥・多動性障害(並存でない例) 一般身体疾患 うつ病 うつ病(併存でない例) 双極 I 型障害 双極 II 型障害(併存でない例) アルコール依存症 薬物乱用・依存症 薬剤性精神病(処方薬含む ※) 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 心的外傷後ストレス障害(併存でない例) 解離性障害 解離性障害(併存でない例)・解離性同一性障害 不安障害(パニック障害・社交不安障害等) 不安障害(併存でない例) 摂食障害 摂食障害(併存でない例) 他のパーソナリティ障害 医原性パーソナリティ障害 ※ 自己愛性・反社会性パーソナリティ障害(男性のみ) ※ 下記の医原性パーソナリティ障害を参照。 表3. 併存する I 軸疾患とパーソナリティ障害、併存率 Zanarini(1998)併存率(計)男性女性Grant ら(2008)併存率(計)男性女性気分障害 うつ病 82.8% 75.9% 84.8% うつ病 32.1% 27.2% 36.1% 気分変調症 38.5% 37.3% 38.9% 気分変調症 9.7% 7.1% 11.9% 双極 I 型障害 双極 I 型障害 31.8% 30.6% 32.7% 双極 II 型障害 9.5% 双極 II 型障害 7.7% 6.7% 8.5% 物質関連障害 アルコール乱用 52.2% 65.1% 40.9% アルコール乱用 15.7% 18.9% 12.9% アルコール依存症 アルコール依存症 41.6% 52.2% 32.7% 薬物乱用 46.2% 60% 40.9% 薬物乱用 27.2% 34.6% 21.3% 薬物依存症 薬物依存症 17.7% 22.1% 14% 不安障害 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 55.9% 34.9% 60.8% 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 39.2% 29.5% 47.2% パニック障害 47.8% 41% 49.7% パニック障害 11.5% 7.7% 14.6% 社交不安障害 45.9% 49.4% 44.9% 社交不安障害 29.3% 25.2% 32.7% 特定の恐怖症 31.7% 28.9% 32.4% 特定の恐怖症 37.5% 26.6% 46.6% 強迫性障害 15.6% 全般性不安障害 13.5% 18.1% 12.2% 全般性不安障害 35.1% 27.3% 41.6% 広場恐怖症 12.1% 摂食障害 拒食症 20.8% 7% 25% 過食症 25.6% 10% 30% 特定不能の摂食障害 26.1% 10.8% 30.4% 身体表現性障害 身体化障害 4.2% 心気症 4.7% 疼痛性障害 4.2% Grant ら(2008)併存率(計)男性女性パーソナリティ障害 73.9% 76.5% 71.8% クラスターA 50.4% 49.5% 51.1% 妄想性パーソナリティ障害 21.3% 16.5% 25.4% スキゾイドパーソナリティ障害 12.4% 11.1% 13.5% 統合失調型パーソナリティ障害 36.7% 38.9% 34.9% クラスターB 49.2% 52.8% 42.1% 反社会性パーソナリティ障害 13.7% 19.4% 9% 演技性パーソナリティ障害 10.3% 10.3% 10.3% 自己愛性パーソナリティ障害 38.9% 47% 32.2% クラスターC 29.9% 27% 32.3% 回避性パーソナリティ障害 13.4% 10.8% 15.6% 依存性パーソナリティ障害 3.1% 2.6% 3.5% 強迫性パーソナリティ障害 22.7% 21.7% 23.6% Zanarini(1998)、Grant ら(2008)の調査より引用。
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他の障害の併存と鑑別
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:02 UTC 版)
正常な気分の変動では、悲しみや高揚はあるが著しい苦痛や機能障害はない。特に35歳以上で初めて発症した場合には、身体疾患や抗うつ薬、薬物の影響の可能性が念頭に入れられる。 躁病エピソードは素人でもわかるくらい分かりやすい。軽躁病エピソードしかない場合には双極II型障害であり、また軽躁病の期間が短いとか治療薬や薬物の影響があるとか、長く抑うつを呈していた人が正常な気分であるときに高揚とか変な感じを訴えたりもするため鑑別が難しく、家族歴が参考となることもある。 双極性障害では合併も多い。 双極II型の場合、50から60%の確率で並存が認められ[要出典]、2つ以上であることもまれではないという。並存として多いものには、アルコールや薬物依存症が約30%、過食症やむちゃ食い障害が13から25%、パーソナリティ障害(特に境界性パーソナリティ障害)が30から40%、パニック障害などの不安障害、などがある。その他としては、ブリケ症候群、月経前緊張症候群、注意欠陥・多動性障害 (ADHD) などもある。なお、双極性障害との鑑別がつきにくい疾患もある。 境界性パーソナリティ障害 (BPD) 自殺未遂や対人関係の問題、気分の波や衝動性など、表面上の症状は似た点も多い。BPDは元来精神分析的な観点から定義されているが、診断基準上は行動面の特徴で診断するほかないため、判断を誤る可能性がある。見逃されやすい軽躁を確実に見極めることも重要である。アキスカルらは双極スペクトラムの患者がしばしばBPDと誤診されていると指摘した。士気低下 (Demoralization) による行動化によりBPDと診断されている可能性もある。また双極性障害の患者の約30%がBPDを合併しているとされ、パーソナリティ障害の合併率としては最も多く、次いで演技性、反社会性、自己愛性パーソナリティ障害と続く。双極II型などの双極素因者に安易に抗うつ薬や抗不安薬を投与し、“薬害性BPD”患者を作らないように注意する必要があるだろう。 自己愛性パーソナリティ障害 (NPD) 自己愛性パーソナリティ障害は境界性パーソナリティ障害と同様に分裂(スプリッティング)が生じており、誇大的自己とそれを反転させた無価値な自己とを抱えている。現実が思う通りにならない事態に直面すると無価値な自己へと「転落」して深刻な抑うつを呈し、事態が思う通りに展開して誇大的自己へと復帰すると一転して躁的万能感を示す。自己意識と連動した抑うつと軽躁の交代によって、双極II型障害や、急速交代型(rapid cycler)としばしば誤診される。双極性障害における各相期の持続期間は通常4週間以上であり、パーソナリティ障害では4週を越えることは少ない。パーソナリティ障害の場合、薬物療法は奏功せず、対症療法の域を出ない。 統合失調感情障害 双極I型障害の極期には幻聴・妄想を伴うことがあるが、統合失調感情障害では気分の症状がない時期にも精神病症状がある。 注意欠陥・多動性障害 ADHDでは気分の高揚はない。子供のイライラやかんしゃくはほとんどが正常か、注意欠陥多動性障害 (ADHD) などであり、流行する診断名に巻き込まれないよう。ほとんどかんしゃくは非常に短期間であり、ここでいうエピソード的ではない。#子供の双極性障害も参照。 物質・医薬品誘発性双極性障害 アルコールカフェインなど、気分の変動が薬物の使用開始と中止に沿って、起きておさまり、適切な離脱の期間をすぎて気分の変動がおさまる。DSM-5では、一部の抗うつ薬や向精神薬が躁病を起こしても、症状の数が十分でない、イライラといった程度では診断すべきではない、と記される。ステロイドが例に挙げられている。 他の医学的疾患による双極性障害 脳梗塞、甲状腺機能亢進症など、医学的疾患によって気分の変動が起きており、その身体疾患の治療によって症状が改善される。DSM-5では、躁病を引き起こす最も知られたものに、クッシング病、多発性硬化症、脳卒中、外傷性脳傷害が例示されており、抑うつでは甲状腺機能低下症、ハンチントン病、パーキンソン病、外傷性脳傷害といったものが知られるが、その関連性が明確に確立されていないものもある。
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