躁病エピソードとは? わかりやすく解説

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躁病

(躁病エピソード から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/29 02:46 UTC 版)

躁病
概要
診療科 精神医学, 医療心理学[*]
分類および外部参照情報
ICD-10 F30
ICD-9-CM 296.0
DiseasesDB 7812
MeSH D001714

躁病(そうびょう、mania)は、気分が異常に高揚し、夜も眠らずに、支離滅裂な言動を発したり、危険を顧みなくなるような状態になる期間(病相)。19世紀の診断分類の登場時から躁うつ病の、あるいは現行では双極I型障害の、躁病の期間である。以上では、躁病とうつ病が循環すると考えられるが、循環しない単極性躁病の概念も存在する。躁病の用語は双極I型障害の場合に用い、より軽い双極II型障害では軽躁病を用いる。

  • 躁病 Mania(「マニア」の語源) については、紀元前にヒポクラテスが人々の気分について悲しみの性質の[1]あるメランコリー melancholia と共に言及しており、ローマの医師Caelius Aurelianus(英語)によれば7つの語源があるとし、プラトンは身体、あるいは閃きから生じる精神的緊張を伴うものとした[2]。その後カッパドギアのアレタイオース英語版(1世紀)が、この2つの状態が対応したものだとした[2]

19世紀まで、躁 Mania と うつ melancholia はまったく異なる障害だとみなされたが、1851年にジャン=ピエール・ファルレ英語版がこの2つの間を循環するという初の概念を提示し、19世紀末までには広く認識されていった[2]。ファルレと、初期の精神病の分類を行ったカール・カールバウム英語版から、着想を得てエミール・クレペリンは分類体系を手掛け、躁と鬱を一体化し、また精神病状態を、早発性痴呆と躁鬱狂気 manic-depressive insanity に組み入れ、現在の双極性障害よりも広い概念といえる[2]。当時の、躁病の用語では幻覚なども含まれ現代的な意味とは必ずしも一致するものではない[1]

クレペリンの偉業は国際的に評価され『精神病学』(1899年)が著され、日本では呉秀三の門下生である石田昇らが、1906年クレペリンに基づく精神病学を紹介し、1908年には三宅鑛一らが『精神病診断及治療学』を著し、躁鬱狂を紹介した[3]。呉は「狂」の字を除き躁鬱病とした[4]

これはDSM-IIでは、まだ躁鬱病 manic-depressive illness であったが、1980年の『精神障害の診断と統計マニュアル』第3版(DSM-III)の登場によって、双極性障害 Bipolar Disorder となった。単極性躁病の概念は残されている[5]。双極性障害においては、躁病エピソードは双極I型障害における名称となる。双極II型障害では軽躁病エピソードのみとなる。

バルプロ酸ナトリウムのように、医薬品の添付文書では躁病の言葉が使われている場合がある。

躁病の状態では、気分が高揚しエネルギーに満ち、素晴らしいもので、言葉は絶えず出てくる、睡眠や食事も必要ないように思え、衝動的な無茶をやらかす[6]。怪我、経済的リスクなどを顧みれなくなっている場合、安全の確保のために入院も必要となる[6]。大半の双極I型障害では、躁病エピソードに続くうつ病エピソードが待っている[6]。35歳以上での躁病エピソードの発症はまれで、抗うつ薬、身体疾患、薬物の影響が考えられる[6]

症状

躁病の症状は[7]

  • 壮大なアイデア
  • 非現実的な高い自尊心
  • 睡眠の必要性の減少
  • より高速な思考と活動
  • 性的欲求
  • 過剰支出
  • リスクテイクなどの快楽の追求の強化
  • 異常に高いエネルギーや活動の期間を経験する

躁状態はとても気持ちの良いものだが、双極性障害(かつて躁鬱病と呼ばれた)になると、それは長くは続かず、自己破壊的な行動につながる可能性があり、通常、その後にうつ病の時期が続く[7]

治療

薬物療法

2011年のエビデンスレビューによると、最も推奨される薬物療法は、リチウム塩の単独投与(軽度の場合)、リチウム塩と非定型抗精神病薬の併用(重度の場合)である[8]。これらの効果がみられなかった場合、次に推奨されるのは、バルプロ酸ナトリウム・非定型抗精神病薬・カルバマゼピンの単独投与(軽度の場合)、バルプロ酸ナトリウムと非定型抗精神病薬の併用(重度の場合)である[8]。治療薬は、他のうつ病の治療薬とは異なるが、患者の気分を安定させるのに効果的である[7]

心理療法

対人関係社会リズム療法認知行動療法が有効である[9][10]。詳細については、「双極性障害#心理社会的治療」を参照。

出典

  1. ^ a b 川村恵子「躁病における自殺企画(その1)」『東京女子医科大学雑誌』第58巻第11号、1988年11月25日、1079-1091頁、NAID 120002358958 
  2. ^ a b c d Historical 2016.
  3. ^ 高橋智「戦前の精神病学における「精神薄弱」概念の理論史研究」『特殊教育学研究』第35巻第1号、1997年、33-43頁、doi:10.6033/tokkyou.35.33_1NAID 110006785181 
  4. ^ 小泉博明「斎藤茂吉と呉秀三--巣鴨病院の時代」(pdf)『日本大学大学院総合社会情報研究科紀要』第9号、2009年2月、93-104頁、 NAID 40016577395 
  5. ^ 津田均「双極スペクトラムの精神病理, 治療関係, 鑑別診断」『精神神經學雜誌』第113巻第12号、2011年12月25日、1209-1217頁、 NAID 10030969129 
  6. ^ a b c d アレン・フランセス 2014, pp. 65–68.
  7. ^ a b c Six common depression types” (英語). Harvard Health (2017年1月23日). 2022年1月20日閲覧。
  8. ^ a b 寺尾 岳 (2011). “躁病エピソードの治療エビデンス”. 精神神經學雜誌 113 (9): 867-872. 
  9. ^ Frank, E., Kupfer, D. J., Thase, M. E., Malinger, A. G., Swartz, H. A., Fagiolini, A. M., Grochocinski, V., Houck, P., Scott, J., Thompson, W., & Monk, T (2005). “Two-year outcomes for interpersonal and social rhythm therapy in individuals with bipolar I disorder”. Archives Of General Psychiatry 62 (9): 996-1004.
  10. ^ 伊藤 絵美 (2008). 事例で学ぶ認知行動療法 誠信書房, 99-100頁.

参考文献

関連項目


躁病エピソード

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 16:02 UTC 版)

双極性障害」の記事における「躁病エピソード」の解説

躁病とは、気分異常な高揚が続く状態である。躁病初期には、患者明るく開放的であることもあるが、症状悪化するイライラして怒りっぽくなる場合も多い。自覚的には、エネルギー満ち快いものである場合が多いが、社会的には、離婚破産など種々のトラブル引き起こすことが多い。アメリカ精神医学会によるガイドラインDSM-IV-TRによる躁状態診断基準は、以下の症状がAを含む4つ以上みられる状態が1週間上続き、社会活動人間関係著し障害生じることである。 A. 気分が異常かつ持続的に高揚し開放的で、またはいらだたしい、いつもとは異なった期間が少なくとも1週間持続する自尊心肥大: 自分は何でもできるなどと気が大きくなる睡眠欲求の減少: 眠らなくてもいつも元気なまま過ごせる。 多弁: 一日中しゃべりまくったり、手当たり次第色々な人に電話かけまくる。 観念奔逸: 次から次へアイデア思考)が浮かんでくる。具体的には、文章途中で次々と話が飛ぶことなども含まれる注意散漫: 気が散って一つのことに集中できず、落ち着きがなくなる。 活動増加: 仕事など活動増加し、よく動く。これは破壊的な逸脱行動にも発展しうる。 快楽活動熱中: クレジットカードお金使いまくって旅行買物をする、性的逸脱行動に出る。

※この「躁病エピソード」の解説は、「双極性障害」の解説の一部です。
「躁病エピソード」を含む「双極性障害」の記事については、「双極性障害」の概要を参照ください。

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