主な作品とテーマ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/09 01:37 UTC 版)
「アニー・エルノー」の記事における「主な作品とテーマ」の解説
アニー・エルノーの著書のほとんどが自伝小説であり、ノルマンディー地域圏のイヴトでの子供時代(とりわけ両親が経営していた食料雑貨店兼カフェでの生活)から結婚、出産、子育ての経験、そして晩年の両親などを描いている。特にマルグリット・デュラス賞ほか複数の賞を受賞した『歳月 (Les Années)』には両親の生い立ちから死までを含む半世紀以上にわたる時代の流れを背景にアニー・エルノーの個人史が描かれている。 さらに個々の体験として、父親と母親それぞれの生と死を描いた『場所』、『恥 (La Honte)』、自立を目指しながら1960年代の因習的な性役割を課される女性の葛藤を描いた『凍りついた女』、恋愛、性愛(セクシュアリティ)をテーマとした『シンプルな情熱』、『自分を失う (Se perdre)』、『嫉妬』、中絶の経験を中心に女性の生(性)を描いた『空っぽの箪笥 (Les Armoires vides)』、『事件』、老いをテーマとしてアルツハイマー病で亡くなった母親の晩年を描いた『「私の夜から出ていない」(« Je ne suis pas sortie de ma nuit »)』、母親の死そして一人の女性としての生き方を描いた『ある女』、乳癌の治療を受けた経験を語る『写真の使い方 (L'Usage de la photo)』を著した。 また、これらの自伝小説以外にも、彼女が生きた時代・日常をスケッチ風の短い断章で描いた『戸外の日記』、『外的生活 (La Vie extérieure)』、スーパーマーケットでの観察を通して消費社会を批判した『愛する人よ、あの輝きを見て (Regarde les lumières mon amour)』などがある。 『シンプルな情熱』:「昨年の9月以降わたしは、ある男性を待つこと ― 彼が電話をかけてくるのを、そして家へ訪ねてくるのを待つこと以外何ひとつしなくなった(À partir du mois de septembre l'année dernière, je n'ai plus rien fait d'autre qu'attendre un homme : qu'il me téléphone et qu'il vienne chez moi.)」という、しばしば引用される表現に象徴されるように、離婚した女性教師と妻子ある東欧の外交官の激しく「シンプルな」肉体関係を描いた自伝的小説である。1年間で売上が20万部に達し、全欧州諸国、米国、日本で翻訳が刊行された。大きな反響を呼んで、評論家の意見は分かれたが、読者からは毎日10通以上の手紙が届いた。 『場所』:ルノードー賞受賞作。今は亡き父の生涯を語った自伝的小説でありながら、親子関係を感情的に表現するのではなく、父が生きた社会的背景のなかにその生涯を位置づけ、淡々と語ること、書くことで父を「存在させよう」、父に「場所」を与えようする作家の探求である。 『ある女』:次第に記憶を失い、身体的にも衰えていく母に最期まで寄り添って生きた娘が、その人生を必死に生きた一人の女の人生として描くと同時に、愛、憎しみ、いとおしみ、罪の意識など母に対する娘の複雑な感情を表現した自伝的小説。二人の母娘関係は、「もう彼女(母)の声を聞くことができない ... 私が生まれた世界との最後の絆を失った(Je n'entendrai plus sa voix... J'ai perdu le dernier lien avec le monde dont je suis issue.)」という言葉に象徴的に表現される。 『凍りついた女』:男女平等、自由・自立の理念を生きようとした男と女が、結婚、出産の後に、結局は仕事に忙殺される夫と、家事や子育てに忙殺される妻・母という性別役割分業を担うことになり、好奇心や生きる意欲を失い、自分自身すら見失って「凍りついて」いく。自分自身の体験を、一人の若い女性の「普通の」生活として描いた自伝的小説。 『戸外の日記』:これまでの私小説的な作品とは対照的に、こうした一連の作品を書いていた間に「戸外」で起こっていた出来事に目を向け、地下鉄やスーパーマーケットでの情景などをスケッチ風に描いている。 『嫉妬』:長年つきあってきた若い恋人と別れた後、相手から別の女性と共に暮らすと言われ、嫉妬にかられる。相手の女性を突き止めようと次第に偏執狂的になり、原題『占領(L'occupation)』が示唆するように意識が占領され、この女性のことしか考えられなくなった自分自身を冷徹に描く作品。
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