プラナカン料理
(ニョニャ料理 から転送)
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プラナカン料理(Peranakan cuisine)、ニョニャ料理(Nyonya cuisine)とは、シンガポールにて中華料理とマレーシア料理とが混淆して生まれたシンガポールの伝統料理の1種である[1]。
独特のスパイスやココナッツミルクなどを使用した濃厚な味の煮込み料理が多いのが特徴となっている[1]。
概要
15世紀後半、中華系移民がマレーシアやシンガポールにやって、現地人と婚姻を結び、根付いていった[2]。「プラナカン」とはそういった中国系移民の子孫のことを指している[2]。プラナカンは中国やマレーの文化と西洋の文化を混淆させた独自の生活スタイルを生み出した[2]。プラナカン料理とは、マレーシア料理や中華料理の調理法にインド、タイ、ヨーロッパのスパイスを取りこんだ多国籍の味が入り混じった料理である[2]。
特徴
シンガポールやマレーシアで「プラナカン風」「ニョニャ風」と冠する料理は、調理技術が高く評価されるハイグレードな料理であるという認識がある[3]。
プラナカン料理は「中国の調理法とマレーシアの食材、香辛料との結婚」と言われることがある[3]。
プラナカン料理におけるマレーシア系の要素を以下に例示する。
プラナカン料理のいくつかは、マレーシア料理のようでもあるが、明確な区別としてはプラナカン料理には豚肉が使用されることもあるという点が挙げられる[3]。マレーシア料理と同じ料理名のプラナカン料理もあるが、スパイスの違いから、その味は異なる[4]。
逆に中華料理の影響を色濃く受け継いでいるプラナカン料理としては、チャプチャイ、ポピアなどが挙げられる[3]。
また、イギリスの植民地時代の影響も見受けられる[3]。プラナカン料理のフライドチキンであるインチー・キャビン(Inchee Kabin、Inchi Kabin)にはイギリス産まれのウスターソースが用いられている[3]。日本占領の影響と推測される料理もあるが、はっきりとはしていない[3]。
シンガポール
1980年代の半ば、シンガポール政府は記憶の共有がシンガポール国民という感覚に重要だという認識をした[5]。シンガポールは建国からの歴史が浅いため(1965年にマレーシアより分離独立)、シンガポール国民の各民族コミュニティの歴史をシンガポールの歴史につなぐことで、より深遠な「国のルーツ」を作ろうとしたのである[5]。
なかでも注目されたのが「料理」であり、シンガポールにはシンガポール国民国家よりも歴史の古い食物が数多くあった[5]。
プラナカン、およびプラナカン料理というそれまでの公式の歴史言説では周縁化されるか無視されてたものが、注目されるようになった[5]。
シンガポールのフラナカン料理店
フラナカン料理店の宣伝には、ケバヤやサロンという衣装を来たプラナカン女性のイメージが使用される[6]。料理店はしばしばプラナカンの伝統的な店舗スタイル、すなわち、1階が店舗で2階が住居となっている[6]。店舗ではプラナカン料理に用いる台所用具や食材が陳列され、ケバヤやサロンを着た女性が挨拶や給仕を行い、プラナカンの磁器食器を用いて料理や茶を出している[6]。
料理店では、販売戦略、生存戦略として「伝統的な」プラナカン料理に改良を加えている[6]。例えば、アヤム・ブアクルアは、チキンカレーにパンギノキの実(ブアクルア)を入れるのが伝統的なレシピであるが、ブアクルアは苦いために入れられず、エビや豚挽肉を加えた物を「アヤム・ブアクルア」として提供するレストランもある[6]。
シンガポールでの国民料理化
シンガポール政府観光局は2001年にプラナカン料理を「シンガポールが有する固有の料理にもっとも近い(the closest Singapore has to an indigenous cuisine)」と宣伝したことで、プラナカン料理を出す料理店も「本物の伝統的な海峡華人の料理(authentic and traditional Straits Chinese cuisine)」と広告を打つようになった[6]。
このようにシンガポールの国民料理を創成するにあたって、プラナカン料理は不可欠な役割を担っていると言える[6]。
プラナカン料理は上述のように民族や文化の混成性の象徴として利用できるほか、プラナカンのコミュニティ規模がシンガポールでは小さいことから、他の民族コミュニティのヒエラルキーに及ぼす影響が少ない[6]。そのため、プラナカン料理はシンガポール国民の過去を想起させるのに役立つと言える[6]。
実際に、シンガポールの対外的にもプラナカン料理は宣伝されており、2010年の上海国際博覧会ではシンガポール館では、ラクサ。パイティー、チキンカレーといったプラナカン料理がベストセラーとなった。同年に中華人民共和国のケンタッキー・フライド・チキンではカレー味の「ニョニャ鶏手羽先(Nyonya chicken wing)」が販売され、ケバヤとサロンを着た女性が宣伝に用いられている[6]。
2011年にはシンガポール政府観光局とインターナショナル・エンタープライゼス・シンガポールが「シンガポール・テイクアウト(Singapore Takeout)」というプロジェクトを開始し、著名シェフをロンドン、パリ、香港、上海、モスクワ、シドニー、デリー、ドバイに派遣し、ラクサ、エビカレー、ポピアなどを作ってシンガポール料理を広めようとしており、シンガポール国外においてもプラナカン料理がシンガポールを代表する料理であるとの認識が広まっている[6]。
代表的な料理
- パイ・ティ - 揚げられた小さいカップの中に甘く煮付けられた具材が入る[2][3]。
- ラクサ - ココナッツミルクを使ったライスヌードル[3]。
- ルンダン - ココナッツミルクとスパイスを使った煮込み料理[2]。
- アッサムペダス - 酸味の利いたスープで煮込む魚料理[7]。
- チェンドル - 緑色をしたゼリー状の麺。デザートの定番[2]。
- アヤム・ブアクルア - ブアクルアの実と鶏肉の煮込み[4]。
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パイ・ティ
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カトン・ラクサ
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ビーフルンダン
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アッサムペダス
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チェンドル
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アヤム・ブアクルア
出典
- ^ a b c “本場シンガポールで食べたい!伝統の味「プラナカン料理」の名店3選”. るるぶ&more (2020年7月14日). 2025年4月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g ケンケン (2024年4月15日). “とっておきのプラナカン料理 “ブルージンジャー””. JTB. 2025年4月9日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 岩間一弘「ニョニャ料理‐ラクサ・チャプチャイ・ポーピア・クエパイティー」『中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて』慶應義塾大学出版会、2021年。ISBN 978-4766427646。
- ^ a b 「食の芸術ともいえるフュージョン料理 プラナカン料理」『W33 アジアのグルメ図鑑』地球の歩き方、2025年、152頁。 ISBN 978-4059226833。
- ^ a b c d 岩間一弘「シンガポール料理の創生‐海南チキンライス・ロジャック・チリクラブ」『中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて』慶應義塾大学出版会、2021年。 ISBN 978-4766427646。
- ^ a b c d e f g h i j k 岩間一弘「プラナカン・レストランのイメージ構築‐ケバヤ・サルンとショップハウス」『中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて』慶應義塾大学出版会、2021年。 ISBN 978-4766427646。
- ^ ASA24 (2024年4月25日). “【葛飾区】マレー半島の宝「プラナカン料理」が極上の味!柴又の「旅の食堂 ととら亭」の期間限定メニュー”. Yahoo!ニュース. 2025年4月9日閲覧。
ニョニャ料理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 15:31 UTC 版)
ニョニャ料理(英語版)はマレーシアとシンガポールのニョニャ(Nyonya、娘惹 - 海峡中国人)やプラナカン (Peranakan - 中国系の混血、マレー人起源)の人々の手によって発展してきた。主に中国料理の食材を用いるが、ココナッツミルク、レモングラス、ウコン、パンダナスの葉、トウガラシ、サンバルなどの東南のアジアのスパイスをブレンドする。それは中国料理とマレー料理の混合であるとみなすことができる。 アチャー (Acar) - 肉や野菜のピクルス。acar keat lah(カラマンシー)、achar hu(揚げ魚)、acar kiam hu(塩魚)、acar timun(キュウリ)、acar awat(混合野菜)などがある。 ラクサ - 香辛料の効いた麺料理。アッサムラクサ、ニョニャラクサ、サラワクラクサなど地方ごとによる違いが非常に大きい。 アヤム・ポンテ (Ayam pongteh) - 豆醤または味噌と椰子糖 (gula melaka) で煮込んだ鶏肉。肉じゃがに似ている。 Ayam buah keluak - マレーシアとインドネシアに自生するマングローブ、パンギノキ(英語版)およびパンギノキ属の木の実を使用する鶏肉料理。 バッチャン(Bak Chang、肉粽) - もち米、豚肉、シイタケ、木の実、および家鴨の鹹蛋の卵黄を葉で包んだ粽。一般的なプラナカン風(Nyonya zong、娘惹粽) はタケの代わりにパンノキ属(英語版)の葉で包む。 チンチャロッ (Cincalok) - エビを発酵させたニョニャ料理の調味料。 Itek Tim / Kiam Chye Ark Th'ng - 家鴨肉とマスタードの葉、キャベツを主な材料とし、ナツメグシード、シイタケ、トマト、およびコショウの実で味つけしたスープ。 Jiew Hu Char - 細かく切ったカブ、ニンジン、およびキャベツのような野菜と割き烏賊の炒め物。 ケラブ・ビーフン (Kerabu bee hoon) - ビーフンとサンバル・ブラチャン、カラマンシー果汁、およびみじん切りのハーブやスパイスを混ぜたサラダ。他には kerabu bok née (黒いきのこ/tikus telinga)、kerabu kay(鶏肉)、kerabu kay khar(鶏の足)、kerabu timun(キュウリ)、kerabu kobis(キャベツ)、kerabu kacang botol(シカクマメ)、kerabu bak poey(豚の皮)などがある。 ラム・ミー (Lam Mee、淋麵) - エビと鶏肉のストックから作られた豊かなスープで料理した黄色いビーフン。誕生日の子供が長寿であることを願うために作られる。 マサック・ブランダ (Masak belanda) - 豚肉や塩魚とタマリンド果汁を用いた煮込み料理。 マサック・レマッ (Masak lemak) - ココナッツミルクを用いた野菜の煮込み料理。様々な種類があり、主な材料にホウレンソウを使用するものや、サツマイモを使用するものがある。 マサック・ティティク (Masak titik) - コショウの実を用いた野菜のスープ。様々な種類があり、主な材料にスイカの皮を使用するものや、青や未熟なパパイアを使用するものがある。 ミー・シアム (Mee Siam / 米暹) - 細いビーフンを、辛く甘酸っぱいスープと食べる。 ナシ・クニッ (Nasi kunyit) - ウコンで着色されたもち米で、通常ココナッツミルクのチキンカリー、「アン・クー」(Ang Koo、赤いカメ)、ピンクに染めたゆで卵とともに、赤子の生後一カ月の祝いの料理とされる。 ナシ・ウラム (Nasi ulam) - 様々なハーブ (daun kaduk、daun kesum、daun cekur 等)、粉状の乾燥エビ (kiam hu)や塩魚、みじん切りのネギをかけた飯。 ゴー・ヒアン (Ngoh hiang、五香) - 肉に五つの中国料理のスパイスで味付けすることからこう呼ばれ、滷肉(Lor Bak)とも呼ばれる。豚ひき肉を大豆の加工品で巻いて揚げた料理。 オタオタ (Otak-otak) - 魚のすり身をバナナ葉で包んで焼いたもの。ムアールの町はこれで有名。ペナンのものは蒸して作られ、ココナッツミルクが使われる。 プルット・イカン (Perut Ikan) - 伝統的なペナンのニョニャ料理で、塩水と daun kaduk (Piper sarmentosum) で保存された魚が独特な風味をもたらす野菜またはハーブのスパイシーな煮込み。 Se Bak - 豚ロースをハーブやスパイスに一晩漬け込み、弱火でじっくりと煮込んだ料理。 Ter Thor T'ng - 豚の胃と白コショウの実を主な材料とするスープで、塩を用いて脱臭するのに熟練した調理技術が必要。 カヤ・トースト (Kaya toast / Roti bakar) - 伝統的な朝食。カヤはココナッツと卵の甘いジャムで、食パンに塗られる。伝統的にローカルのイポーホワイトコーヒーや紅茶、柔らかく茹でた卵、醤油、白胡椒と一緒に出される。
※この「ニョニャ料理」の解説は、「マレーシア料理」の解説の一部です。
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