コロンビア号事故調査委員会
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「コロンビア号空中分解事故」の記事における「コロンビア号事故調査委員会」の解説
事故発生直後、チャレンジャー号事故の後に作成された議定書に従い、直ちに軍や民間の専門家らによって組織された「コロンビア号事故調査委員会(Columbia Accident Investigation Board, CAIB)」が結成され、広範かつ多岐にわたる調査を開始した。 2003年3月20日、テキサス州ヘンフィル(Hemphill)付近でコロンビアの飛行データを記録したレコーダーが発見された。民間旅客機とは違い、シャトルは事故が発生した際の原因究明を目的としたフライト・レコーダーのようなものは搭載しておらず、通常はすべてのデータはリアルタイムで地上に送信されている。だがコロンビアはシャトルの初号機ということもあり、技術者たちが機体の特性をよりよく把握できるよう、初飛行の時に「軌道船実験(Orbiter Experiments, OEX)レコーダー」が設置されていた。OEXレコーダーは試験飛行が終わった後も取り除かれることはなく、この事故が起きるまでずっと機能していた。その結果、ここには数百種もの軌道変数や機体構造にかかった負荷など様々なデータが記録されることになり、CAIBが機体崩壊の過程を再構築するための大きな手がかりとなった。翼に設置されていたセンサーからの信号が途絶えた事実も、化学分析で有名なリーハイ大学で行われた分析作業や、発生した可能性のある事実に関して最終的な結論を得るための試験の考慮材料となった。 2003年7月7日、サウスウェスト研究所(Southwest Research Institute)において、空気銃を使用してコロンビアで剥落したものと同じ質量の断熱材を、同じ速度で強化カーボン(RCC)パネルに激突させる衝突試験が行われた。これはバードストライクの影響を調べる為に鶏肉を航空機の窓・エンジン・胴体などに衝突させる実験を応用したもので、NASAが保管していたエンタープライズ用のRCCを金属の枠組みの上に設置して左主翼の状態を再現し、数日間にわたって様々な角度から数十個もの破片を衝突させたが、ほとんどは表面にひびが入る程度であった。だが実験の最終盤、高速で射出されたある破片が、ついに41×42.5cmほどの穴を空けるのが確認された。発泡スチロールのように軽い物質であっても、衝突速度が高ければ十分にRCCを破壊する威力があるのが証明されたのである。 8月26日、CAIBは調査報告書を発表し、離陸の際に剥落した発泡断熱材が左主翼前縁を損傷させたことが事故の直接的な原因であると結論づけた。また報告書は、そもそも問題の根底にあるNASAの精神風土についても深く追及し、その意志決定過程や危険に対する認識の甘さなどを厳しく非難した。NASAは組織とプロセスとに重大な欠陥があり、誰が責任者かに関わらず、安全面における妥協を招いていた。一例を挙げれば、シャトル計画全体の管理官は一人の人間が担当し、安全と進行およびコストの削減について責任を持つのだが、これらはしばしば対立するものである。CAIBは、NASAが過去何度かの飛行において、計画を完了させるために安全基準を逸脱するような行為をしていたことを発見した。たとえば耐熱タイルというのは非常にもろく壊れやすい素材で、強い衝撃に耐えられるように作られてはおらず、これまでに何度も損傷を受けていることが発見されたのだが、何ら具体的な対策を施されることがなかった。委員会はこのような体質についても改善を行うことを強く勧告した。 2008年12月30日、NASAは「宇宙船搭乗員の生存に関する統合調査チーム」第二委員会が作成した、「コロンビア号搭乗員生存調査報告書」を発表した。NASAがこの委員会を発足させたのは、コ号事故で発生した現象、特に飛行士の生存に影響を与えたできごとを包括的に分析し、将来的に開発されるすべての有人宇宙船に搭乗する飛行士の生命の安全保障を促進するためであった。報告書は、「コロンビアの減圧は、飛行士が搭乗室の与圧の確保に対処する間もなくきわめて短時間のうちに発生したため、彼らは数秒のうちに意識を失ったと考えられる。空気の循環系統はそれでもしばらくのうちは機能していたが、急激な気圧の低下の影響は大きく、飛行士たちは二度と意識を取り戻すことはなかった。この減圧こそが、搭乗員たちに対して致命的なできごとであった」と述べた。 報告書はまた、 数名の飛行士は、安全対策を怠っていた。何人かの者は保護用のグローブをはめていなかったし、また1名はヘルメットをかぶっていなかった。今後は宇宙飛行士たちに帰還の際の安全対策を徹底させることが望まれる。 座席のシートベルトは、墜落の際に引きちぎられていた。残る3機の軌道船(ディスカバリー、アトランティス、エンデバー)のベルトは、いずれも以前に交換されたものである。 と指摘した。この報告書の要点は、将来に開発される宇宙船の生命保護装置は、飛行士の手動操作に頼るものであってはならないということであった。
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