機体を直撃した断熱材の破片
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 14:28 UTC 版)
「コロンビア号空中分解事故」の記事における「機体を直撃した断熱材の破片」の解説
コロンビア号がケネディ宇宙センター39番発射台を飛び立ってからおよそ82秒後、外部燃料タンク(ET)からスーツケースほどの大きさの断熱材の破片が剥落し、左側主翼の強化カーボン=カーボン(Reinforced Carbon-Carbon, RCC)の耐熱保護パネルを直撃した。後にコロンビア号事故調査委員会(CAIB)が行った実験によれば、これによってパネルには直径15 - 20センチメートルの穴が開き、大気圏再突入の際に高温の空気が翼の構造内に入り込むことになった。なお、この時の軌道船の高度はおよそ66,000フィート(20キロメートル)で、速度はマッハ2.46(秒速840メートル、時速3,024km)であった。 左側バイポッド・ランプは全体が発泡断熱材(Spray-On Foam Insulation, SOFI)で作られている1メートルほどの大きさの部品で、金属部分を覆うものである。断熱材それ自体は機体を支持する構造物とは見なされておらず、また空力負荷に耐えられるものであることを要求されている。このような特殊な性質のために、ランプを取りつけたり点検したりする作業は専門の技術者でなければ行ってはいけないことになっている。ETは燃料の液体水素や酸化剤の液体酸素を充填した際、空気中の水蒸気が凝固して氷となって表面にこびりつき、それが離陸の時の衝撃で落下して機体を傷つけることのないよう、全体がオレンジ色の断熱材で覆われている。バイポッド・ランプ(左側と右側に2つある)はそもそもはETと軌道船の接続部分の空力負荷を減少させるために設計されたものだが、事故後に行われた実験で必要ないことが証明されたため、STS-107後の飛行からは取り除かれることになった(ET外壁に設置されている液体酸素供給管の断熱材も破片の剥落の大きな原因になっていたが、複合的な実験や分析の結果、無くても安全であることが明らかになったため取り除かれた)。 バイポッド・ランプの断熱材は、これ以前のSTS-7(1983年)、STS-27(1988年)、STS-32(1990年)、STS-50(1992年)、STS-52(1992年)、STS-62(1994年)などの飛行で、一部または全部が脱落するのが何度も目撃されてきた。また空力負荷突起(Protuberance Air Load, PAL)ランプの断熱材も同様にはがれ落ちたり穴が開いたりするのが観測されてきた。少なくともある1回の剥落では機体に深刻な損傷はなかった。いつしかNASAはこの現象を「剥落流」と呼び、シャトルの飛行につきものの現象であると見なすようになった。チャレンジャー号事故で最終的に大惨事を招くことになったOリングの欠陥の問題と同様に、これらの現象についてNASA幹部の間ではそれまで重大な結果が発生せずに来たことから慣れが生じた。社会学者ダイアン・ヴォーン(Diane Vaughan)は、チャレンジャー号の発射決定過程に関する著書の中で、この現象を「逸脱の標準化(normalization of deviance)」と呼んだ。 STS-107の打ち上げを撮影したビデオは、通常通り2時間後に検査されたが、何ら異常は見受けられなかった。翌日、夜間に現像されたより高解像度のフィルムにより、破片が左翼に衝突し、シャトルの耐熱材が損傷を受けた可能性が明らかになった。しかしこの時点では、追跡映像の解像度が足りず衝突箇所の特定には至っていない。
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