その他の医業類似行為が増えた背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 07:23 UTC 版)
「医業類似行為」の記事における「その他の医業類似行為が増えた背景」の解説
医業類似行為について、あはき法第12条において「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。」と規定している。 ※「もの」というのは、「者」や「物」に当たらない抽象的なものを指す場合に用いられる。 一方、以上の法律の趣旨について最高裁判所は、日本国憲法22条が保障している職業選択の自由との関係で、禁止の対象となる行為を次のとおり限定的に解釈している。すなわち、HS式無熱高周波療法を業として行った者を被告人とする刑事事件において、医業類似行為を業とした者が処罰されるのは、これらの業務行為が人の健康に害を及ぼすおそれがあるからであり、法律が医業類似行為を業とすることを禁止するのも、人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないと判断した。つまり、有罪判決を出すためには、問題となる医業類似行為が人の健康に害を及ぼすおそれがあることを認定しなければならない。 ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである。それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであつて、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律一二条、一四条は憲法二二条に反するものではない。しかるに、原審弁護人の本件HS式無熱高周波療法はいささかも人体に危害を与えず、また保健衛生上なんら悪影響がないのであるから、これが施行を業とするのは少しも公共の福祉に反せず従つて憲法二二条によつて保障された職業選択の自由に属するとの控訴趣意に対し、原判決は被告人の業とした本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼす虞があるか否かの点についてはなんら判示するところがなく、ただ被告人が本件HS式無熱高周波療法を業として行つた事実だけで前記法律一二条に違反したものと即断したことは、右法律の解釈を誤つた違法があるか理由不備の違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすものと認められるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。 —最高裁判所判例 昭和35年1月27日 昭和29(あ)2990 この最高裁判決を受けて審理のために差し戻された仙台高等裁判所は、HS式無熱高周波療法は人の健康に害を及ぼすおそれのあるものと認定して有罪判決を出したため、被告人側から再度上告されたが、上告は棄却され有罪判決が確定した。 この判例に対しては、人の健康に害を及ぼすおそれがあるか否かは一概に判断できない場合が多く、法は抽象的に有害である可能性があるものを一律に禁止しているのであり、健康に害を及ぼすおそれがあることを認定する必要はなく、そのように理解しても憲法22条に違反しないという批判も強い。また、この判決が出た当時は憲法訴訟論が本格的に論じられておらず、違憲審査基準につき不十分な議論しかされていなかった当時のものであるとして、先例としての価値がどれだけあるか疑問であるとの指摘もされている(無登録で医薬品を販売していたとして旧薬事法違反で起訴された事案につき、最大判昭和40年7月14日刑集19巻5号554頁を参照)。 薬事法の刑事裁判では人体に対し有益無害なものであるとしても、これらが通常人の理解において「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」と認められる場合は医薬品であり、無許可で販売した場合に禁止処罰をするのは憲法22条に違反しないと判示している。医療機器についても同様であり、吸引器を無許可で製造した事件で最高裁は医療用具の認定に関し、「人の健康に害を及ぼす虞が具体的に認められるものであることを要しない。」と判示している。 これらの異論はあるが、結局のところ前述の最高裁判例により、免許を必要としない医業類似行為は「当該医業類似行為の施術が医学的観点から少しでも人体に危害を及ぼすおそれがあれば、人の健康に害を及ぼす恐れがあるものとして禁止処罰の対象となる」が「実際に禁止処罰を行なうには、単に業として人に施術を行なったという事実を認定するだけでなく、その施術が人の健康に害を及ぼす恐れがあることの認定が必要」となった。 一、 この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺激等の療術行為について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものであるから、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復を無免許で業として行えば、その事実をもってあん摩師法等第一条及び第十四条第一号の規定により処罰の対象となるものであると解されること。従って、無免許あん摩師などの取締りの方針は、従来どおりであること。なお、無届の医業類似行為者の行う施術には医師法違反にわたるおそれのあるものもあるので注意すること。二、 判決は、前項の医業類似行為について、禁止処罰の対象となるのは、人の健康に害を及ぼす恐れのある業務に限局されると判示し、実際に禁止処罰を行うには、単に業として人に施術を行ったという事実を認定するだけでなく、その施術が人の健康に害を及ぼす恐れがあることの認定が必要であるとしていること。なお、当該医業類似行為の施術が医学的観点から少しでも人体に危害を及ぼすおそれがあれば、人の健康に害を及ぼす恐れがあるものとして禁止処罰の対象となるものと解されること。三、 判決は、第一項の医業類似行為業に関し、あん摩師法第十九条第一項に規定する届出医業類似行為業者については判示していないものであるから、これらの業者の当該業務に関する取り扱いは従来どおりであること。 —いわゆる無届医業類似行為に関する最高裁判所の判決について 昭和35年3月30日 医発第247号の1 各都道府県知事あて厚生省医務局長通知 しかし、同判決には「単に治療に使用する器具の物理的効果のみに着眼し、その有効無害であることを理由として、これを利用する医業類似の行為を業とすることを放置すべしとする見解には組し得ない」という裁判官の反対意見があるので注意が必要である。当時、厚生省は最高裁の事務局に照会をしたうえで、「最高裁の裁判は、無届で医業類似行為をやった場合、ただ、法律に反するからということで処罰はできない、 処罰するのなら、そのやっておる行為が医学的に見て害があるということでなければ処罰をできないということを言っておるわけでありまして、無届で医業類似行為をやってもよいということじゃないのです。」と国会にて答弁している。 近年、多様な形態の医業類似行為が増えるに従い、過去の通知を徹底するように通知が出されている。 近時、多様な形態の医業類似行為又はこれと紛らわしい行為が見られるが、これらの行為に対する取扱いについては左記のとおりとするので、御了知いただくとともに、関係方面に対する周知・指導方よろしくお願いする。医業類似行為に対する取扱いについて(1) あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復について(中略)(2) あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復以外の医業類似行為についてあん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復以外の医業類似行為については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十二条の二により同法公布の際引き続き三か月以上医業類似行為を業としていた者で、届出をした者でなければこれを行ってはならないものであること。したがって、これらの届出をしていない者については、昭和三十五年三月三十日付け医発第二四七号の一厚生省医務局長通知で示したとおり、当該医業類似行為の施術が医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば禁止処罰の対象となるものであること。 —医業類似行為に対する取扱いについて 平成三年六月二八日 医事第五八号 各都道府県衛生担当部(局)長あて厚生省健康政策局医事課長通知 いわゆる「資格」について カイロプラクティックを中心に、「資格」を取得するための学校等が存在しており、近年は国際基準を謳う団体も増えている。しかし、取得する「資格」はあくまでも民間資格であり、免許ではない(資格商法)。 「無資格マッサージ士問題」も参照
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