【M1 エイブラムス】(えむわん えいぶらむす)
アメリカ軍の使用する主力戦車。陸軍と海兵隊で使用されている。
1980年代にM60 パットンの後継として登場し、現在までに8000両近く生産された。
本車の愛称である「エイブラムス」は、1970年代に活躍した米国陸軍の名将クレイトン・エイブラムス将軍から取られている。
初期はM60と同じくロイヤルオードナンスL7のライセンス生産型であるM68A1 51口径105mmライフル砲を主砲としていたが、火力強化版のA1型からアメリカのジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ社がラインメタル社製L44 44口径120mm滑腔砲をライセンス生産したM256 44口径120mm滑腔砲へと転換、火力が増強された。
使用砲弾(APFSDS)には劣化ウラン弾を使用し、その攻撃力と初弾命中率90%は並み居る世界の戦車の中でも有数。
同世代の戦車の中では最も実戦経験を積んでおり、湾岸戦争・イラク戦争などがある。
中でも1991年の湾岸戦争では、イラク軍の装備する旧ソ連製戦車(T-72やT-62、T-55等)に対し3,000m以上の遠距離から攻撃するという圧倒的な力を見せ付けた 。
また現在はイラクにおいて、RPG-7や、対戦車地雷・即席爆発装置の対策としてエンジン(ラジエーターグリル)部分を覆うスラット装甲や、サイドスカートへのリアクティブアーマーの装備が行われている。
さらに車体上部に搭載された12.7mm機銃を車内から遠隔操作できる様なシステムの装備も進んでいる。
これは今後増加するであろう対テロリストとの非対称戦争における初段階の装備と言える。
またエイブラムスが砲弾、改良型が装甲としても使用する劣化ウランについては、俗に言う湾岸戦争症候群やバルカン症候群に関連があるとされている。
(劣化ウランについては劣化ウラン弾に詳しい解説がある)
輸出もされており、主に中東の親米国家(エジプト、サウジアラビア、クウェート)やオーストラリアで使用されており、最近ではイラク戦争後のイラク軍(イラク治安部隊)が新規装備として140両の導入を予定している。
余談として、エイブラムスはロシアのT-80やスウェーデンのStrv.103と同様、戦車としては珍しいガスタービンエンジン(ハネウェルAGT1500)を採用している。
これは瞬発力に定評があるエンジンであるものの、低速走行時や停車時の燃費が非常に悪いとされる。
そのため、停車時の電力供給を目的に補助動力装置を内臓している。
スペックデータ
乗員 | 4名(車長・操縦手・砲手・装填手) |
全長 | 9.83m |
車体長 | 7.8m |
全高 | 2.84m |
全幅 | 3.65m(スカート付) |
空車重量 | 34.50t |
戦闘重量 | 55.7t(M1) 57t(M1IP) 61.3t(M1A1) 62.1t(M1A2) 63t(M1A2 SEP) |
懸架方式 | 独立懸架トーションバー方式 |
エンジン | ハネウェル製AGT1500ガスタービンエンジン(出力1,500hp) |
登坂力 | 60% |
超堤高 | 1.06m |
超壕幅 | 2.74m |
最大速度 | 67.6km/h(路上) 48km/h(不整地) |
航続距離 | 498km(M1) 465km(M1A1) 391km(M1A2) |
装甲 | 砲塔及び車体前面:400mm(複合装甲) 車体:均質圧延鋼板 |
兵装 | M68A1 105mmライフル砲(M1・M1IP(IPM1)) M256 44口径120mm滑腔砲1門(弾数40発、M1A1以降) M2 12.7mm重機関銃1挺(弾数1,000発) M240 7.62mm機関銃2挺(弾数12,400発) 6連装発煙弾発射器2基 |
主なバージョン
- M1:
最初期型の基本タイプ。
対HEAT対応の空間装甲を装備し、主砲はロイヤルオードナンス社製105mm砲を搭載。
- M1IP(IPM1):
M1の改良型。
装甲の強化及び主砲基部・変速機・サスペンション・ショックアブソーバーの改良が施されている。
- M1A1:
主砲をM256 120mm滑腔砲(ラインメタル社製L44のライセンス生産品)に転換し、装甲をさらに強化(対鉄弾芯APFSDS対応の無拘束セラミックス装甲)、搭載される電子機器類の換装や車内配置の変更が施された。
相当数が生産され、湾岸戦争にも参戦した。
- M1A1HA:
砲塔や車体前面部の複合装甲に対タングステン/劣化ウラン弾芯APFSDS対応の劣化ウラン装甲材を導入し、APFSDSにも対応した型。
湾岸戦争を目前とし、改造用キットが大量に調達・支給された。
- M1A1HC:
部品共通化プログラムへの対応や燃費の改善、補助動力装置を装備した型。
- M1A1D:
M1A1用の「Digital enhancement package」を適用し、共同作戦対応能力を与えた型。
- M1A1M:
M1A1のアップグレード型。イラク軍が導入予定である。
- M1A2:
M1シリーズの最新型でC4Iシステムなど車内の電子機器をグレードアップしたもの。また、戦車長用の暗視装置付きペリスコープや自己位置特定システム、戦術データリンクなどが追加された。
- M1A2SEP:
M1A2向けのシステム拡張パッケージ(System Enhancement Package)をA1型に適用した型。
FBCB2に対応したほか、向上形冷却装置を搭載する。
現在米軍が保有するM1、M1A1はこのM1A2やSEPと呼ばれるA2に近い内容に改修されている。
- M1A3:
現在開発中の型式。
主に軽量120mm戦車砲への換装や自動装填システムの組み込み、車内電気配線の光ファイバー化、新型軽量装甲の挿入、新型エンジンと駆動装置の搭載が予定されており、2014年までに試作車の完成、2017年までの開発完了を目指している。
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