Düsenkanone
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 01:18 UTC 版)
"Düsenkanone"とはドイツ語で「ノズル(のついた)大砲」の意味で、当初は無反動砲が開発される際につけられていた仮呼称である。 従来の無反動砲とは異なり、薬莢の頸部(薬莢と弾頭とを繋ぐ部分)に燃焼ガスを放出する破孔部を設け、砲の薬室前端部側面にある噴出孔からラバール・ノズルを通して砲の側面斜め後方に噴出することで発射反動を相殺・減少させる方式で、砲弾に関しても、従来の火砲用の弾薬をほぼそのまま流用でき、薬莢と弾頭の間に破孔部を設けた延長部分を追加するだけでよく、クルップ式のように薬莢底板に破砕部を設ける必要も、クロムスキット/バーニー式のように薬莢側面に噴出孔を設ける必要もなく、従来型弾薬の生産ラインに工程を追加するのみで低コストで弾薬を生産できる、というメリットがあった。反面、後方噴出式の無反動砲ほどには反動相殺効果がなく、従来型の砲弾を従来型の火砲で発射する場合に比べて砲弾の初速や射程で大きく劣る(後述の8.8cm無反動砲で初速は従来型に比べて60%の速度に低下した)というデメリットがあり、砲の側面にノズルが突き出す構造になるため、大きく嵩張るものになるという問題があった。砲の後部側面に噴出部があることは“砲のすぐ脇に砲員を配置できない”ということでもあり、陸戦兵器としては運用面でも難があった。 ドイツ空軍では、無反動砲の開発が開始された当初から航空機搭載用の対爆撃機装備として着目しており、1930年代末にクルップ式無反動砲の最初の実用品が完成すると早速航空機への搭載を試みている。しかし、後方噴射式の無反動砲は機体に装備すると後方噴射で機体の後部や尾翼を損傷させる危険があり、また、空中での再装填が難しいために単発式とならざるを得ず、実用性には難があるとされた。これを解決するため、ドイツ空軍は1930年代後半よりクルップ式と並行して開発が進められていた「燃焼ガスの噴射により反動を相殺するが、噴出ノズルが閉鎖器後方にはなく、ガスを後方には噴出しない」方式に着目し、"Düsenkanone"の名称で開発計画が開始された。 上述の欠点(後方噴射の危険界が広い・側面にノズルが突き出すために嵩張る・砲員をすぐ横に配置できない)は双発の中~大型航空機に搭載する対艦/対地攻撃装備とされたためにさほど問題ではなく、開発は順調に進められ、当初はメッサーシュミット Bf110双発戦闘機に搭載する7.5cm口径型として、更に「7.5cm口径では威力不十分で、搭載する機体も能力不足である」として、最終的には噴出ノズルを上下方向に配置し円筒形の弾倉を持つ自動装填装置付き航空機搭載自動砲としてFlak41 8.8 cm高射砲の弾薬に薬莢頸部を追加したものを用いる“Düka88”が1941年の末に完成した。搭載機にはJu-88双発爆撃機が選ばれ、"Ju88 P-5"の制式名称が与えられている。 しかし、Düka88は試作砲の作動自体に問題はなかったものの、装置全体の重量がかなりのものであることから、搭載するJu-88の機体構造を強化せねばならない、という問題が生じた。この他、搭載部の張り出しによる空気抵抗の増加、発砲時の機体の動揺、砲口衝撃によって機首下面が損傷する危険性などが指摘された。このように多くの問題点はあったものの、全体的には有用性は高いと評価されたが、Ju-88を開発・製造しているユンカース社にこの計画に割くリソースが不足していること、また、対艦誘導爆弾および対艦誘導ロケット弾(対艦ミサイル)に開発リソースを集中するべき、とされたことから計画は中止され、20基が製造されたものの実戦で運用されることはないままに終わった。 小型艦艇用の搭載砲として無反動砲に興味を示したドイツ海軍においても、"Düsenkanone"の名称で無反動砲の研究が行われているが、こちらは“クルップ式”として完成したものとはやや機構が異なるものの、薬莢後縁に破孔部があり「閉鎖器の後方に噴出ノズルを持ち、後方に燃焼ガスを噴出して反動を相殺する」という構造としてはクルップ式に準じるものである。ドイツ海軍では8.8cm口径のものを"DKM 43(Düsenkanone,Marine.Konstruktionsjahr 1943)"の名称で計画し、1943年には試作砲も完成させて翌1944年の夏まで評価試験が行われたが、実射試験中に問題が多発し、制式化はなされぬままに終わった。クルップ社では1943年に無反動機構を備える28cm口径のカノン砲をパンター[要曖昧さ回避]戦車の車体を用いた2両一組の運搬車で移動させる自走沿岸砲、"DKM 44(Düsenkanone, Marine. Konstruktionsjahr 1944 auf Panther-Fahrgestellen)"を提案し、この砲はラインメタル・ボルジッヒ社により実際に製作されたとされるが、発見されているのは提案の際に描かれた概念図のみである。 この他にも、ドイツ空軍では燃焼式薬莢を使用し装薬の燃焼ガスを薬室前端部の噴出孔から砲の上部に設けた延長筒を介して後端のノズルから噴出させる方式とした5.5cm口径の機関砲である“MK115(英語版)”を開発しており、MK115は「大口径・大威力・高発射速度でありながら小型軽量の自動火器」として、従来の大口径航空火器に比して幅広い機体に搭載できるものとなっているが、開発中に終戦となり、試作品が製作されただけに終わった。 前述のようにこの方式は航空機搭載火器として以外の用途では従来型の無反動砲に比べてメリットがなく、航空機に搭載する対地/対艦兵装としてロケット弾、そしてミサイルが実用化されて確立されると顧みられることはなかったが、1990年代にクロアチアで開発された対物ライフルであるRT-20(英語版)は、通常の20mm機関砲弾を使用するボルトアクション単発方式の銃ながら「装薬の燃焼ガスを銃身中央部の噴出孔から砲の上部に設けた延長筒を介して後端のノズルから後方に噴射させることで反動を大きく減少させる」設計になっており、"Düsenkanone"方式に類似した反動軽減機構を備えている。
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