近代神智学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 10:18 UTC 版)
詳細は「神智学」および「ヘレナ・P・ブラヴァツキー」を参照 心霊主義の影響を受けたものに近代神智学があり、これは心霊主義の一種であるとされる。フリーメイソンや薔薇十字団、インドやエジプトの思想を取り入れ、古代の霊知を復興し真の霊性(オカルト能力)を養うこと、ドグマ化したキリスト教と唯物論化した自然科学の弊害を取り除くことを掲げ、科学の研究に耐えうる新しい宗教として登場した。マクロコスモスとミクロコスモス(宇宙と人間)との照応というヨーロッパの伝統思想が理論的基礎にあり、西洋と東洋の智の融合・統一を企図していたといえる。創始者のヘレナ・P・ブラヴァツキー(1831年 – 1891年)、通称ブラヴァツキー夫人は、1877年に『ヴェールを脱いだイシス神』を著した。もともと心霊主義の霊媒であったが、霊媒として活動した経験からか、心霊主義の単純な霊魂論に異議を唱え、心霊主義と交霊会を厳しく非難していた。霊媒が交信する霊は真我ではなく「アストラル体の殻」であり、ブッディ=アートマ(インド哲学の用語)と結びついて霊界に入った真我とは交信できないとした。これにより心霊主義者は神智学協会から離反し、キリスト教を捨てきれない人たちも離れていった。 神智学協会は起死回生を狙ってインドに進出した。イギリスはインドで、土着の文化を尊重しながら先住民を内面から支配するという巧妙な政策をとり、『バガヴァッド・ギーター』の英訳なども行われていた。しかしキリスト教はその特殊性から他の宗教との融和ができないため、現地で軋轢を生んでいた。近代神智学はインド思想を教義の中核に取り込んでいたこともあり、ヴェーダを中心とする宗教改革運動「アーリヤ・サマージ」などから歓迎を受けた。インド人の神智学協会会員などの協力で、ヒンドゥー教や仏教の教えが取り入れられたが、理解には限界があり、カバラや新プラトン主義で補うという方法がとられた。 近代神智学では、フリーメイソンやイギリス薔薇十字団から、古代から伝えられた霊知を選ばれた人間に伝える「未知の上位者」という発想を借用している。これは、ウィリアム・ステイントン・モーゼスの指導霊インペレーターを除くと、当時の心霊主義ではほとんど見られない発想である(ブラヴァツキーはモーゼスを例外的に高く評価していた。)近代神智学では「マハトマ」と呼ばれ、キリストもマハトマのひとりであるとされ、人格神も否定した。この思想はキリスト教に衝撃を与え、近代神智学は宣教師の嫌悪の対象となった。 近代神智学は従来の心霊主義に代わって、新しい心霊学としてインド思想を取り入れ、西洋秘教伝統とインド思想のカルマの法則と再生の原理を取り入れた。高次の自我(真我、霊我)の覚醒を目的とし、人間の自我を高次と低次に分け、心霊主義を低次の自我に関わるものにすぎないとして退けた。マハトマとの交信は霊媒たちによっても別に進められたが、これはのちのチャネリングと共通する発想である。 1884年には、マハトマからの手紙(マハトマ書簡)が突然「聖容器」に現われたように見せるトリックが身内によって暴露され、ロンドンの心霊現象研究協会により調査が行われ、1885年にはブラヴァツキーは詐欺師・ペテン師であるとする報告が公表された。心霊現象研究協会の信頼は絶大であり、近代神智学の根幹であるマハトマの存在に疑問を呈したこともあり、衝撃は大きかった。ブラヴァツキーはこれを克服するために、第2の著作を執筆し、ロンドンに上級会員に奥義を教えるための秘教部門を開設した。詩人のW・B・イェイツは詩作の原理を探求するために秘教部門に属したが、目的を達することができず退会し、黄金の夜明け団に所属し魔術の観点から研究を行っている。 近代神智学では、ダーウィンの進化論は人間の霊魂には適用できないと考えた(これはダーウィンと並ぶ進化論の最初の提唱者である科学者アルフレッド・ウォレスも同じであり、彼は心霊主義が霊的進化を傍証するものだと考えていた。)ブラヴァツキーは進化論をカルマの法則と再生の原理で解釈し、最終局面として人間の霊的な完成を想定し、自助努力で神に近い存在に近づくことができる、つまり自分で自分を完成させ、救うことができると考えた。これは神が天地創造の際に人間を神の似姿として作ったという神話の逆であり、また人類は肉体を持たない霊的な存在(第一根源人種)であったが、徐々に退化して物質世界に埋没し、猿人になったとした。近代神智学における霊的進化論は、ダーウィンの進化論の逆であるといえる。 このように心霊主義は、近代神智学を経由してカルト的な自己宗教に変容していった。
※この「近代神智学」の解説は、「心霊主義」の解説の一部です。
「近代神智学」を含む「心霊主義」の記事については、「心霊主義」の概要を参照ください。
Weblioに収録されているすべての辞書から近代神智学を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。

- 近代神智学のページへのリンク