赤色矮星系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/15 13:37 UTC 版)
赤色矮星は銀河の恒星の70%~90%を占めると考えられており(一般に質量の小さい恒星ほどその数は多い)、その居住可能性が確定することは、宇宙の中でどれだけ生命がありふれているのかを確定する助けとなるだろう。褐色矮星はおそらく赤色矮星よりはるかに多く存在する。しかし、それらは一般的に恒星とは分類されず、核融合を継続できないため低温で放射も急速に失われてしまう。そのため、生命を支えることはとてもできない。 天文学者は長年、赤色矮星系に生命が住む可能性は無いとしていた。赤色矮星は小さく(太陽の質量の0.08倍~0.46倍)、それはその核反応が極めてゆっくりと進み、とても少ない光(太陽の3%から、最小のものでは0.01%以下)しか放射しないことを意味している。赤色矮星の軌道を回る惑星が地球のような表面温度を得るには主星のとても近くになければならないだろう。その距離は、けんびきょう座AX星のような比較的大きなものでは0.3AU(水星の軌道のちょうど内側)で、最小クラスのプロキシマ・ケンタウリのような星では0.032AUとなる(この軌道を回る惑星の1年は6.3日にしかならない)。それらの距離では、恒星の重力により自転と公転の同期が引き起こされるだろう。惑星の日の当たる側は永遠に恒星に面し、夜の側は常にそれ以外を向いている。生命の可能性にとって唯一考えられるのは、惑星が恒星からの熱を日の当たる側から夜の側に伝えるのに十分な厚い大気を持っていた場合の、灼熱も凍結も避けられる場所である。長い間、そのような厚い大気では地表に日光が到達せず、光合成が妨げられると考えられていた。 この悲観論は、新たな研究により緩和されつつある。アメリカ航空宇宙局 (NASA) エイムズ研究センターのRobert Haberleとマノイ・ジョーシによる研究では、惑星の大気(温室効果ガスにCO2とH2Oを仮定)が100mbar(地球大気の10%)だけあれば、恒星の熱を効果的に夜の側に運べることを示した。これは光合成に必要な水準の中にある、とはいえこのモデルでは、水はまだ夜の側に凍って残ったままだと思われた。グリニッジ・コミュニティ・カレッジ(英語版)のMartin Heathは、もし海洋が十分な深さを持ち、夜の側の氷の下を自由に流れることができれば、水の海が固く凍らず効果的に循環できることも示した。さらに研究では、活発な放射による光合成の量を考慮に含めて、赤色矮星系の自転と公転が同期した惑星は、少なくとも高等植物とっては居住できる環境かもしれないことが示された。 しかしながら、その大きさだけが赤色矮星は潜在的に生命に不適当である、とされた要因ではない。このような赤色矮星の惑星では、夜の側は決して太陽を見ることができず、そちらの面での光合成は不可能だろう。日の当たる側でも、太陽は昇りも沈みもしないため、山の陰となる領域は永遠にそのままだろう。知られている限り、赤色矮星の生み出す放射のほとんどは赤外線であるという点も、光合成を考える上で複雑な箇所だろう。地球上では光合成のプロセスは可視光に依存している。だが、このシナリオには潜在的にプラスとなるものがある。例えば、多数の地球の生態系は光合成よりも、赤色矮星系でも可能であるだろう化学合成に依存している。また、主星が静止した位置にあることは、植物が日陰/日向の変化により太陽の方向へ葉を向けたり、光合成で夜間のエネルギーを蓄えたりする必要を取り除く。朝晩の弱い光も含めた昼夜のサイクルが無いことから、与えられた放射のうち、遥かに多くのエネルギーが利用できるだろう。 赤色矮星は、より安定した大きな星々よりも、はるかに激しく変化しやすい(大部分の赤色矮星は変光星の一種であるフレア星に属すると考えられている)。しばしば数ヶ月にわたり光量が40%まで薄暗くなるほどの黒点に覆われ、また別の時には数分間に渡り明るさが倍になるほどの巨大なフレアを放射する。そのような変化は生命にとても多くのダメージを与えるだろう。けれども、突然変異率の増加や気候条件の急激な変化により、進化への刺激となるかもしれない。一方で、強いフレアは大気に厚いオゾン層をもたらし、生命に対するフレアの影響を減少させるという考え方もある。 とはいえ、赤色矮星は生命が住む場所として、他の恒星を超える一つの大きな利点も持つ。長い間存在し続けることである。人類が地球に現れるまで45億年がかかり、生命は知られている限り、少なくとも地球形成から5億年以上経ってから見られるようになった。この点、赤色矮星は大型の恒星と比べて核反応がはるかに遅いため、短くても約1000億年、長ければ10兆年以上にもわたって存在することができると推測されている(ちなみに太陽の寿命は約100億-120億年)。これは、生命がより長期間発展し、より長期間生き残る可能性が高いことを意味する。さらに、どこか特定の赤色矮星の周りのハビタブルゾーンで惑星が見つかる確率はほんのわずかだとしても、その数の多さから、全ての赤色矮星のHZを合計した量は、全ての太陽のような恒星のHZを合計した量に匹敵する。2014年現在、赤色矮星のハビタブルゾーンに位置する地球型惑星は複数発見されており、中でもケプラー186fは極めて地球に近いサイズの惑星である。
※この「赤色矮星系」の解説は、「惑星の居住可能性」の解説の一部です。
「赤色矮星系」を含む「惑星の居住可能性」の記事については、「惑星の居住可能性」の概要を参照ください。
- 赤色矮星系のページへのリンク