観測の歴史と惑星の特徴
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「TRAPPIST-1」の記事における「観測の歴史と惑星の特徴」の解説
2016年5月、ベルギーのリエージュ大学の天文学者ミカエル・ギヨン (Michaël Gillon) のチームにより、チリのアタカマ砂漠のラ・シヤ天文台TRAPPIST(英語版) (Transiting Planets and Planetesimals Small Telescope) 望遠鏡を用いた観測で、惑星の存在が確認され、2016年5月に科学誌『ネイチャー』にて公開された。トランジット法による観測では3つの地球サイズの惑星が発見された。そのうち内側の2つ(bとc)は自転と公転の同期を起こすほど近く、互いに5:8の軌道共鳴をしている。外側の1つ(dと呼ばれたが、現在のdとは異なる)は、不連続な観測により72.82日離れた2回のトランジットしか観測できなかったため、公転周期は72.82日の1・2・3・4・5・6・7・8・9・14・16分の1のどれかとしか推定できなかった。そのため、液体の水が存在可能なハビタブルゾーンのおそらく外側だが、内部に位置している可能性もあるとされた。 メディアを再生する TRAPPIST-1と、当時想定されていた3惑星のイメージ動画 TRAPPIST-1と、当時想定されていた3惑星の想像図 当時想定されていた「TRAPPIST-1d」の地表から見た光景の想像図 2016年9月19日から20日間連続で行われたスピッツァー宇宙望遠鏡による観測によって、既に軌道が確定していた惑星bとcに加え、d・e・f・g・hの5惑星、合計7惑星が確認され、2017年2月22日にNatureで発表された。そのうち5惑星(b・c・e・f・g)は地球と似たような大きさで、残る2惑星(d・h)は火星と地球の中間の大きさであるとされた。TRAPPISTで発見されていた「d」は、どの新惑星とも一致していないが、それは、2惑星のトランジットを、同じ惑星の2回のトランジットと誤認したためであった。TRAPPISTは他にも、トランジットと断定できなかった減光をいくつか検出していたが、それらを含め、d・e・f・gの4惑星と対応づけられた。一番外側のhはスピッツァーで始めて観測された新惑星だが、当時はまだ1回しか観測できておらず、軌道は大まかにしかわからなかった。これらのうち3惑星(d・e・f)は、TRAPPIST-1のハビタブルゾーン内を公転している。 TRAPPIST-1系の惑星の軌道は非常に平坦でコンパクトな構造になっており、TRAPPIST-1の7つの惑星全てが太陽系における水星軌道よりも遥かに主星に近い距離を公転している。木星系と比較すると、bを除く6個はガリレオ衛星が存在している距離よりも遠くに位置しているが、それでもその他のほとんどの木星の衛星と比べると主星より近い位置にある。bとcの軌道の間隔は、地球から月までの距離のわずか1.6倍しかなく、惑星表面から空を見上げると互いに別の惑星を観望することができるとされ、場合によってはそれが地球から見た月の大きさよりも数倍大きく見えることもある。最も外側にあるhでさえ、公転周期はわずか18.8日しかなく、最も内側のbはたった1.5日で軌道を一周する。 当時描かれた、TRAPPIST-1系の想像図 当時描かれた、TRAPPIST-1系の惑星の想像図 当時描かれた、TRAPPIST-1と、その周りを巡る7個の惑星の想像図 TRAPPIST-1の惑星の軌道図 惑星同士は非常に間隔が狭く、互いに及ぼす重力の作用も大きいため、TRAPPIST-1系のほぼ全ての惑星は軌道共鳴に近い関係にある。最も内側のbが軌道を8回公転している間に、cは5回、dは3回、eは2回軌道を公転している(詳細は後節を参照)。また、互いの他の惑星への重力作用はトランジットタイミング変動(TTV)を発生させ、他の惑星の公転周期を1分未満から30分以上の範囲で変動させている。TTVの観測により、研究者らは最も外側のhを除く6個の惑星の質量を計算から求めることに成功した。この6個の惑星の総質量はTRAPPIST-1の約0.02%で、これは木星とガリレオ衛星の質量比に近く、その形成過程が似通っていることを示唆していると考えられている。これらの6つの惑星の密度は地球の約0.60倍から約1.17倍とされ、その組成が主に岩石から成っていることを示しているが、質量と密度の値に不確実性が大きく、その密度の値(地球の0.60 ± 0.17倍)から氷の層や広がった大気の存在を「支持」することができる惑星fを除いた5個の惑星に相当量の揮発性物質が含まれているかどうかを示すことはできなかった。 2017年2月18日から3月27日にかけて、天文学者らの研究グループがスピッツァー宇宙望遠鏡を用いて行ったTRAPPIST-1系の観測によって、TRAPPIST-1の特性に関するパラメーターが新たに更新され、これを用いて7つの惑星の軌道および物理的特性のパラメーターの精度が向上された。この研究結果は2018年1月9日に発表された。惑星の新たな質量推定値は算出できなかったが、非常に不確実性が小さい軌道要素と半径の測定値を求めることに成功した。 2017年8月31日、ハッブル宇宙望遠鏡を使用して観測を行った研究チームは、TRAPPIST-1の外側の惑星(どの惑星かまでは特定できなかった)に水が存在しうる証拠を初めて発見したと発表した。 2018年2月5日には、ハッブル宇宙望遠鏡、ケプラー宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡、そしてヨーロッパ南天天文台(ESO)のSPECULOOS望遠鏡(英語版)による観測で導き出された、これまでで最も精密なTRAPPIST-1系のパラメーターが公表され、これまで誤差が大きかった7つの惑星の質量や密度、表面重力の値が詳しく求められ、具体的な組成も予測できるようになった。7つの惑星の質量は地球の0.3倍から1.16倍、密度は0.62倍から1.02倍(3.4 g/cm3から5.6 g/cm3)の範囲に収まっている。これらの値から、cとeはほぼ完全に岩石で構成されるが、それ以外の5惑星は、揮発性物質が海、氷、厚い大気のいずれかの形態として存在している可能性が示された。dでは、惑星の質量の約5%を液体の水が占めている可能性があり、これは地球の質量に対する水の割合の250倍にも及ぶ。一方で、fとgでは表面温度が低いため、水は氷として存在しているとされている。また、eは7惑星の中で唯一地球よりも密度が高く、岩石と鉄から構成されている事が示されている。しかし、2020年10月に発表された研究では、TRAPPIST-1系の7つの惑星全ての密度は地球より小さいとする結果が得られている。大気モデリングからは、bの大気は暴走温室効果を起こしている可能性が高く、推定101から104 barもの大気圧がある水蒸気から成る大気を持つことが示唆された。 2020年初頭に、東京工業大学の研究グループなどによってすばる望遠鏡を用いて行ったTRAPPIST-1のスペクトル観測の結果が報告された。観測を行った2018年8月31日は、3つの惑星がトランジット(通過)を起こした。この観測の結果、惑星の公転面は主星の自転軸に対して太陽系と同じようにほぼ垂直になっており、TRAPPIST-1の惑星の公転面に対する赤道傾斜角は19+13−15度であると求められた。複数の惑星の公転面と主星の自転軸がほぼ垂直の状態で揃っているということは、TRAPPIST-1系の惑星はほぼ同一平面上で形成され、それ以降大きく軌道が変化してないことを意味している。このような惑星の公転面の傾きが求められた事例は過去にもあるが、地球サイズの岩石惑星に限るとこれが史上初めてであった。 ワシントン大学の天体物理学者 Eric Agol が率いる研究チームが地上からの観測、ハッブル宇宙望遠鏡、そしてケプラー宇宙望遠鏡によるK2ミッションの観測データなどを組み合わせた結果、これまでで最も詳細なTRAPPIST-1系の惑星の密度に関する測定結果が得られ、その研究結果が2020年10月にarXivにて公開、2021年1月には The Planetary Science Journal に掲載された。この研究により、TRAPPIST-1系の7個の惑星は全て地球よりやや密度が小さいことが判明した。密度の値から考えると、TRAPPIST-1系の惑星は太陽系の地球型惑星と同様に、鉄や酸素、マグネシウム、ケイ素などで構成されているとみられるが、この場合、その比率が地球と大きく異なってくることが示された。TRAPPIST-1系の惑星が地球より密度が小さい原因として、地球と同様の組成を持つが地球よりも鉄の含有量が少ない可能性と、大気に大量の酸素が含まれていることで生成される酸化鉄の影響である可能性が挙げれており、仮に後者が正しければ、TRAPPIST-1系の惑星内部には鉄で構成された核が存在しないことになる。これら以外に、全ての惑星の表面に大量の水が存在していることで密度が小さくなっているという推測もあるが、内側3個の惑星は温度が比較的高いことから、水は液体ではなく大気中の水蒸気として存在する必要があり、7個の惑星全てが何らかの形で大量の水を保持することは難しいと考えられている。
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