自衛隊論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 04:28 UTC 版)
上記のように三島は、国の基本的事項である防衛を最重要問題と捉え、〈日本国軍〉の創立を唱えながら、〈一定の領土内に一定の国民を包括する現実の態様〉である国家という〈一定空間の物理的保障〉を守るには軍事力しかなく、もしもその際に外国の軍事力(核兵器その他)を借りるとしても、〈決して外国の軍事力は、他国の時間的国家の態様を守るものではない〉とし、日米安保に安住することのない日本の自主防衛を訴えている。 三島は1969年(昭和44年)の国際反戦デーの左翼デモの際に自衛隊治安出動が行われなかったことに関連し、〈政体を警察力を以て守りきれない段階に来て、はじめて軍隊の出動によつて国体が明らかになり、軍は建軍の本義を回復するであらう〉と説いており、その時々の「政体」を守る警察と、永久不変の日本の「国体」を守る国軍の違いについて言及している。 また、〈改憲サボタージュ〉が自民党政権の体質となっている以上、〈改憲の可能性は右からのクーデターか、左からの暴力革命によるほかはないが、いずれもその可能性は薄い〉と指摘し、本来は〈祭政一致的な国家〉であった日本が、現代では国際強調主義と世界連邦の線上に繋がる〈遠心力的〉な〈統治的国家(行政権の主体)〉と、日本の歴史・文化という時間的連続性が継承される〈求心力〉的な〈祭祀的国家(国民精神の主体)〉の二極に分離し、〈後者が前者の背後に影のごとく揺曳してゐる〉状態にあるとしている。 そして様々な制約の中、アメリカの軍備に守られているという形で〈やうやく日本の自主防衛ですらも可能になるといふやうな〉情況では、もし日本が代理戦争のようなものに巻き込まれ自衛隊が出動し、あるいは〈国連警察軍の名目の下〉にアメリカが出動する事態が起った場合、自衛隊の最高指揮権が日本の内閣総理大臣でなく、最終的には〈アメリカ大統領ではないかといふ疑惑〉を禁じ得ないとしている。国防の本義としてもそれが〈日本のため〉であるか〈自由主義諸国の連帯感のため〉であるかという〈混迷〉が生ずる現態勢下では、〈我々は一体日本のために戦つてゐるのかどうか〉疑わしくなるとしている。 そうした疑念や矛盾を少しでも解決し、現憲法の制約下で統治的国家の〈遠心力〉と祭祀的国家の〈求心力〉による二元性の理想的な調和と緊張を実現するためには、日本国民がそのどちらかに忠誠を誓うかを明瞭にし、その選択に基づいて自衛隊を二分するべきだという以下のような「自衛隊二分論」を三島は説いている。 航空自衛隊の9割、海上自衛隊の7割、陸上自衛隊の1割で〈国連警察予備軍〉を編成し、対直接侵略を主任務とすること。この軍は統治国家としての日本に属し、安保条約によって集団安全保障体制にリンクする。根本理念は国際主義的であり、身分は国連事務局における日本人職員に準ずる。 陸上自衛隊の9割、海上自衛隊の3割、航空自衛隊の1割で〈国土防衛軍〉を編成し、絶対自立の軍隊としていかなる外国とも軍事条約を結ばない。その根本理念は祭祀国家の長としての天皇への忠誠である。対間接侵略を主任務とし、治安出動も行う。 2.の〈国土防衛軍〉には多数の民兵が含まれるとし、「楯の会」はそのパイオニアであるとしている。自衛隊法第三条において、間接侵略の対処や通常兵器による局地的な侵略に対する自衛隊の自主防衛や治安出動が認められているとする三島は、日本への直接侵略を最終目的とするソビエトや中共による間接侵略の醸成を阻止しなけらばならないとし、将来ソビエトが新潟方面に陽動作戦を伴いつつ北海道に直接侵攻してくる危険性に触れている。なお、三島は徴兵制には反対している。 三島は、自衛隊が単なる〈技術者集団〉や〈官僚化〉に陥らないためには、〈武士と武器〉、〈武士と魂〉を結びつける〈日本刀の原理〉を復活し、〈武士道精神〉を保持しなければならないとし、軍人に〈セルフ・サクリファイス〉(自己犠牲)が欠けた時、官僚機構の軍国主義に堕落すると説いている。 そして、戦後禁忌になってしまった、天皇陛下が自衛隊の儀仗を受けることと、連隊旗を直接下賜すること、文人のみの文化勲章だけでなく、自衛隊員への勲章も天皇から授与されることを現下の法律においても実行されるべきと提言し、隊員の忠誠の対象を明確にし、〈天皇と軍隊を栄誉の絆でつないでおくこと〉こそ、日本および日本文化の危機を救う防止策になると説いている。 栄誉大権は単に文化勲章や一般の文官の勲章のみでなく、軍事的栄誉として自衛隊を国民が認めて、天皇が直接に自衛隊を総攬するような体制ができなくちゃいかん。それがないと、日本の民主主義は真に土着的な民主主義にはなり得ない。 — 三島由紀夫「国家革新の原理――学生とのティーチ・イン その一」
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