臓器不足
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/18 06:50 UTC 版)
臓器の需要は、世界中のドナーの数を遥かに上回っている。臓器提供待ちリストには臓器ドナーよりも多くの潜在的レシピエントがいる。特に、著しい透析技術の進歩のお陰で、末期腎臓病(ESRD)に罹っている患者は従来よりも長期存命が可能となっている。これら患者は以前ほどすぐに死亡することはなく、加齢および高血圧・糖尿病の蔓延に伴う腎不全が増加しているので、特に腎臓の必要性が毎年高まっている。 2014年3月時点で、アメリカには約121,600人が待機リストに掲載されているが、これら患者の約1/3は何の動きもなく臓器移植されずじまいだった。臓器の待ち時間と成功率は、需要と手術の難しさから臓器間でかなりの差異がある。2007年時点で、臓器移植を必要とする患者の3/4が腎臓を待っており、腎臓の待ち時間は以前よりはるかに長期間となった。 Gift of Life Donor Programというウェブサイトで述べられているように、最終的に臓器を受け取った患者の中央値は、心臓または肺で4ヶ月、腎臓で18ヶ月、膵臓で18-24ヶ月の待機期間であり、これらの原因は臓器需要が大幅に供給を上回っているためである。 オーストラリアでは人口100万人あたり10.8件の移植があり、スペインの比率の約1/3である。西オーストラリアのライオンズアイ研究所にはアイバンクがある。このバンクは1986年に設立され、移植を目的とした眼球組織の収集、処理、流通を調整している。同アイバンクは角膜移植手術を必要とする患者の待機リストも保有している。移植のために毎年約100個の角膜がこのバンクから提供されているものの、角膜の待機リストはまだ残っている。「経済学者からすると、これは悲劇的な結果を伴う根本的な需給ギャップ」 であり、 この不足への取り組みには以下のものがある。 法的な近親者による提供決定の負担を無くすための、ドナー登録および「最優先同意」法。 2006年にイリノイ州は「選択義務」の方針を採用し、運転免許証の取得者は「臓器ドナーになりたいですか?」の質問に回答する必要がある。 イリノイ州のドナー登録率は60%(全米では38%)になる。 ドナーになるための署名に対する金銭的な特典(インセンティブ)。一部の経済学者は臓器の販売を許可するよう提唱している。 近年の論文でゲイリー・ベッカーとジュリオ・ホルヘ・エリアスが主張した「金銭的インセンティブは移植用臓器の供給を十分に増やし、臓器市場にある長蛇の列やそこで待つ大勢の苦しみや死亡事案を無くすことにつながり、移植手術の総費用を12%以上増やすこともない」との内容をニューヨーク・タイムズ紙が報じた。イランでは腎臓の販売を許可しており、待機リストは無くなっている。提供を奨励するために直接的または間接的な補償を介した臓器先物が提案されている。そうした提案に反対する主な論拠は道徳的なもので、同記事にも書かれているように、多くの人がその提案に嫌悪感を示している。全米腎臓財団(National Kidney Foundation)が言うように「臓器提供と引き換えに直接的または間接的な経済的利益を差し出すのは、社会として我々の価値感と調和しない。人体または体の部分について、好き勝手に或いは市場の力を使って、金銭的価値を当てはめようとする試みは人間の尊厳を削ってしまう。」 オプトアウト方式(の不承諾解決策)で、潜在的ドナーやその親族は臓器提供を辞めたいのなら特定の行動を起こす必要があるというもの。このモデルは、オプトイン方式を使うドイツの8倍にもなる登録率のオーストリアなど、ヨーロッパの幾つかの国で採用されている。 社会的インセンティブ政策で、加入した会員は移植待機リストに載っている他の会員に自分の臓器を最初に割り当てる法的同意に署名する。このモデルを使う民間団体にLifeSharersがあり、無料で参加可能で同会員は臓器への優先アクセスを許可する文書への署名に同意している。この「臓器の相互保険プール」の目的を簡単に要約すると「死亡に際して自分の臓器が保険プールの他の会員に利用可能となることに同意する場合、個人は必要な移植の優先権を受け取ることになります...(この提案の)主な目的は、より多くの命を救ったり改善するための移植可能な臓器の供給を増やすことです。」 病院では、臓器ネットワークの担当者が定期的に患者記録を区分けして、死亡の少し前に潜在的ドナーを特定する。多くの場合、臓器調達担当者はそれら臓器が移植に適しているかどうかを判定して家族の同意を(必要なら)得られるまで、潜在的ドナーの臓器生存できる状態を維持するべく、区分検査(血液型判定など)や臓器保存薬(血圧の薬など)を要求する。 臓器ロス事案(いざ手術に踏み切ったら臓器が使えなかった)を減らすため、感染や他の原因から適さない潜在的ドナーは死亡前に候補から除外しておき、この実践は移植効率を向上させている。ドナーに適さない患者の家族は(移植関係者から)臓器提供の討論でアプローチされることが無くなるので、その家族への間接的な利益になっている場合もある。 アメリカの生命倫理シンクタンク (Center for Ethical Solutions) が「臓器不足の解決」と呼ばれるプロジェクトに現在取り組んでいる最中で、そこではアメリカでの臓器不足の解決をめぐる議論をより伝えるために、イランの腎臓調達システムを研究している。
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