臓器の提供
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/14 23:45 UTC 版)
生体腎移植 腎臓はヒトにおいて左右一対に存在する臓器であり、正常な腎機能であれば片方の腎臓でも恒常性の維持が可能である。このため、ドナーの左右どちらかの腎臓を、腎不全患者のレシピエントに提供する生体腎移植が可能となる。生体腎移植のほとんどが遺伝的に関連のある親子・親族間での移植だが、拒絶反応の抑制や血漿交換術の発展により、遺伝的に関連のない夫婦間や血液型不適合間の腎移植も増加傾向にある。 「WHOヒト臓器移植に関する指導指針」によれば、生体ドナーは血縁関係があることを原則としているが、諸外国では匿名の寄付や知人間への生体腎臓の寄付が認められている例もある。 日本では、「日本移植学会倫理指針」により、生体ドナーを6親等内の親族間に限定するとともに、「望ましい臓器移植は死体からの移植であり、健常であるドナーに侵襲を及ぼすような医療行為は本来望ましくない」としているが、2011年には偽装養子縁組による臓器売買事件が発生するなど、営利目的による事件が発生している。 死体腎移植 脳死下あるいは心停止下の死体から臓器を摘出する死体腎移植は、生体腎移植における健康な人体を損なうリスクが無く、2008年に採択されたイスタンブール宣言においても「死体臓器提供による治療の潜在的な可能性は、腎臓のみならず他の臓器についても、各国の移植医療ニーズに応じて最大化されるべきである。また、死体ドナーによる臓器移植を開始あるいは拡大する努力は、生体ドナーの負担を最小化するために不可欠である。」とされている。 日本では、末期腎不全による透析患者約30万人のうち、献腎移植を希望し日本臓器移植ネットワークへ登録している腎不全患者が約1万2千人にのぼる。一方で、年間の死体腎移植件数は200件程度にとどまっている。このため、移植が実現するまでの待機年数は平均して約15年と、非常に長くなっている。 肝移植や心臓移植と異なり、腎移植は脳死下での摘出以外に心停止下での移植が可能であり、その保存期間は最長で48時間とされている。レシピエントの選択にあたってはHLAの適合度を最優先とし、年齢、透析歴、日本臓器移植ネットワークへの登録年数およびドナーとの地理的近接性などを考慮して優先順位を決定する。 日本では心臓停止後からの腎臓提供が多いため、提供腎臓の虚血による急性尿細管壊死のために腎機能の発現が遅れ、術後しばらくは透析治療が必要になる場合がある。また、手術の日程をあらかじめ決められないため、手術前に必要な合併症などの状態の検査などを事前に済ませておく必要がある。 病気腎移植 親族関係のない生体腎移植の一部であるが、 一部の医療機関において、疾患を持つドナーの腎臓を移植する病気腎移植(またはがん病巣部分を取り除いた腎臓を移植することを意味する修復腎移植)が行われてきた。宇和島徳洲会病院を舞台にした病気腎移植については、臓器移植法違反の初適用となった宇和島臓器売買事件(2006年)、保険適用対象外診療等の不正請求に対する戒告(宇和島徳洲会病院および市立宇和島病院)などの問題が起きている。 ドミノ腎移植 親族間の生体腎移植であっても遺伝型が適合しないことになどにより移植が不可能な組み合わせを、複数の生体ドナーとレシピエント間で最適化する移植方法として、ドミノ移植が用いられる場合がある。 組織工学に基づく人工腎臓 iPS細胞により臓器を作成する研究が行われている 2018年8月、東京慈恵会医科大学、熊本大学、明治大学は共同で、iPS細胞を用いての腎臓の再生医療について臨床研究を文部科学省に申請を行った。iPS細胞から肝臓の元となるネフロン前駆細胞を作成し腎臓へと育て、人工透析患者に移植することを目指すものである。これまで実験段階では腎臓の再生は実現していたが、臨床への応用は嚆矢である。
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