石油と独裁
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1899年以降、アンデス山脈タチラ州出身の二人の独裁者によって35年近い独裁政治がなされたので、ベネスエラでは特に1908年から1935年をゴメス時代と呼ぶ。20世紀に入ってからもアルゼンチンのフアン・ペロンのように進歩的なカウディージョがポプリスモを気取るようなことはなく、19世紀以来の剥き出しの暴力の政治が続いた。ゴメスの死後政権を握った軍人もタチラ州の出身である。 1899年のアンドラーデ政権にて採択された中央集権憲法に対する地方の不満と、折からのコーヒー不況を背景にして1899から1903年に繰り広げられた内戦は、コロンビア国境付近のタチラ州のリャネーロの頭目だったシプリアーノ・カストロが権力を得る機会を作った。カストロは1899年に「レスタウラシオン」(維新革命)を掲げてカラカス入りすると、大統領任期を6年に延長し、普通選挙を撤廃して大統領職を形骸化させた。カストロ時代にはヨーロッパとの対立が顕在化し、1902年12月には内戦中に受けた被害の賠償を要求したイギリス、ドイツ、イタリアの艦隊が主要港のラ・グアイラ、プエルト・カベージョを襲撃する事件が起きた。アルゼンチンの外務大臣ルイス・ドラゴはドラゴ・ドクトリンを唱えてこの事件を批判し、米国の調停もあってカストロはこの事件を有利に解決し、基盤を磐石なものにした。 しかし、カストロの副官としてカラカス入りし、副大統領となっていたフアン・ビセンテ・ゴメスは、カストロがフランスに渡った隙を突いて1908年に米国の支持を得た上で軍内のカストロ派を排除し、大統領職に就任した。その強引な手法から「アンデスの暴君」と呼ばれたゴメスは、それでも対外政策では穏健策を採ってカストロ時代に発生した欧米との問題を解決し、財政を立て直すために外国資本を導入した。こうした政策は功を奏し、ゴメスは傀儡大統領を据えて権力を維持し、1929年の大恐慌をも切り抜けて1935年まで27年間に渡って政権を維持した。ゴメス時代には1914年にマラカイボ湖で世界最大級の油田が発見され、石油開発は外資優遇政策によって順調に進んだ。それまで内戦と独裁を繰り返す貧しい農業国だったベネスエラは、1930年にはメキシコを抜いて世界最大の石油輸出国となった。こうして突如として湧いた石油収入により公共事業や各種産業が興り、ハイウェイが建設されて都市化と都市間の交通整備が進み、石油産業の波及効果によってベネスエラではコロンビアと並んでアンデス諸国の中でも厚い中間層が形成された。ベタンクール以後のベネデモクラシアはこの中間層と富裕層によって成り立っていたと言っても過言ではない。他方このような体制に反対する勢力も多く、1928年の学生暴動ではロムロ・ベタンクールらが逮捕され、幾人かの活動家が死亡したが、ここで活躍した反体制派は後に「1928年の世代」と称されることになる。 1935年にゴメスが死ぬと、ゴメス派や家族への暴動が起き、私刑が行われたが、翌1936年に国内の混乱を収めたゴメス派のエレアサル・ロペス・コントレーラス将軍が実権を握り、軍事政権が継続した。しかし、政権の弾圧は弱くなり、亡命先のコロンビアから帰国したベタンクールが中心となってベネスエラ選挙革命組織が形成され、翌1937年には国民民主党として政党になった。1941年に成立したイサイアス・メディーナ・アンガリータ将軍の政権では労働者への懐柔が進み、同年7月には国民民主党は民主行動党 (AD)と改称し、当局からも合法化された。メディーナは文民政治と改革を志し、軍の青年将校もこの路線に従って政治から手を引くことを望んでいた。このような青年将校と民主行動党の連携によって1945年の10月革命が成功したのである。 1945年10月18日、民主行動党がマルコス・ペレス・ヒメネスをはじめとする軍政に反対する軍の青年将校と結んでクーデターを起こし、メディーナ政権が転覆した(10月革命)。これによりベタンクールが臨時大統領に就任したが、軍部との矛盾が次第に明らかになると1948年11月にクーデターが起き、同年2月に選挙での勝利により就任していた文学者のロムロ・ガジェーゴス政権は崩壊し、軍事評議会が政権を握って民主行動党は再び非合法化され、ベタンクールらの指導部も亡命した。軍内部の実力者だったマルコス・ペレス・ヒメネスは、この状況下で行われた1952年の大統領選挙での民主共和国連合の勝利を無視して自ら大統領に就任し、その後1958年まで再び軍事独裁政権が樹立された。また、1950年代の独裁時代にはポルトガル、ドミニカ共和国、チリなどのヨーロッパ諸国や、ラテンアメリカ内途上国からの移民の流入が進むことになった。
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