泉山の登拝行事

文化財選集

泉山の登拝行事 （青森県）

名称
泉山の登拝行事
区分
重要無形民俗文化財
所在地
青森県三戸郡三戸町泉山
保護団体
泉山七歳児初参り保存会
公開日
７月２５日

資料一覧
解説
泉山集落では，７歳から９歳までの男子が，集落内の月山神社を父親や村人たちと共に出発し，途中の泉山神社で女の子たちの見送りを受けて，集落の東側にそびえる名久井岳（標高615ｍ）に登り，月山神社奥殿など多数の堂社を参拝する行事が行われている。我が国の伝統的な通過儀礼である登拝行事を，地域社会で今なお行っているものとして貴重である。

国指定文化財等データベース

泉山の登拝行事

名称：	泉山の登拝行事
ふりがな：	いずみやまのとはいぎょうじ
種別1：	風俗習慣
保護団体名：	泉山七歳児初参り保存会
指定年月日：	1997.12.15(平成9.12.15)
都道府県(列記)：	青森県
市区町村(列記)：	三戸郡三戸町泉山
代表都道府県：	青森県
備考：	公開日：毎年７月２５日
解説文：	泉山の登拝行事は「泉山の月山【がつさん】参り」とか「泉山七歳児初参り」と呼ばれ、標高六一五メートルの名久井岳山頂近くにある月山神社の奥殿【おくでん】（奥の院ともいう）など、山中の数多くの神社や祠、堂を参拝する。この行事は旧暦六月十二日に行っていたが、昭和六十三年から新暦七月二十五日に行うようになった。 　この登拝行事に参加できるのは、泉山集落内の数え年七歳から九歳までの男の子と泉山出身の母親の子どもであったが、しだいに泉山出身の父親の子どもも参加するようになり、平成二年からは三戸町全体の子どもも対象とするようになった。行事には介添え役として父親も登拝する。 　行事の直前の日曜日、チリハライといって泉山の全戸から一人ずつ出て登拝順路である山道の草刈りをする。前日には、集落内の月山神社境内の清掃と幟立てを行い、午後五時からヨミヤの神事を執行し総代と世話役が出席する。登拝行事に参加する子どものいる家では、お祝いの餅搗【もちつ】きをするが、現在は当日の朝にすることも多いという。 　当日の早朝、ミソギ（禊ぎ）あるいはミズゴリ（水垢離）といって、登拝行事に参加する男の子は裸になって冷水を浴びて心身を清める。昭和三十年ころまでは、初めて登拝に参加する男の子は七日間、二年目と三年目の男の子は三日間、泉の冷水を浴びて心身を清め、ベツナベ（別鍋）といって家族とは別の火で炊事したものを食べて精進潔斎をした。この世話は父親などの男性がしたという。身内に不幸があった場合は一年間は登拝行事に参加できない。 　晒【さらし】の白衣に白鉢巻き、白足袋にワラジを履き、腰に替えのワラジを下げて登拝する。最近は白いズック靴を履く子どもも多い。午前六時半から、月山神社で登拝に参加する子どもたちの受付が始まる。参加する子どもたちは、境内に設けられた結界の中に並んで神職からお祓いを受ける。子どもたち、父親たちの順で神社に参拝し、付き添いの村人たちとともに七時過ぎに月山神社を出発する。 　集落を抜けると、泉山神社（旧地蔵堂）に立ち寄り、泉山集落の数え年七歳から一三歳までの女の子たちによる見送りを受ける。女の子たちは一週間前から放課後に毎日集まり、境内をきれいに掃き清め、周囲に張りめぐらした縄などに色紙で作った飾りをつり下げて準備し、境内の外周にゴザを敷いて正座して待っている。登拝行事に参加する男の子たちと父親、村人たちは、それぞれ女の子一人ずつにご祝儀のお金を渡してから泉山神社に参拝し、再び山道に向かう。この日だけは泉山神社から奥は女人禁制となる。 　八合目付近の石出【いしで】明神の社に参拝して小休止をする。社の前にはひっくり返した帽子が置いてあり、この中に賽銭を投げ入れる。この帽子は三回の登拝をすませたベットウ（別当）と呼ばれる小学校の男子児童たちで、朝早く山に登って社の傍らで待っている。彼らは名久井岳山中にある神社・祠・堂に数人ずつ待ち受けて賽銭を集めて下山し、大人の立ち合いのうえで均等に分配する。家族に不幸があって三回の登拝を完了していない少年は、ベットウたちとともに山に登り不足分の補いとする。 　名久井岳第二峰の月山山頂には月山神社の奥殿があり、到着した参加者たちがそれぞれ参拝する。子どもたちはワラジを履き替え、父親は履き古した子どものワラジを社殿前の木の枝に結びつける。社殿に御神酒と煮しめ（豆腐・ゴボウ・ニンジン・フキ）と餅（現在は白餅、昔は餡【あん】や胡麻をまぶしていた）を供えると、神職による祝詞奏上の後、参加者たちはオンコ（イチイ）の葉で作った玉串を神前に捧げる。その後、子どもたちは煮しめなどを食べ、大人たちは御神酒をいただく。 　下山の際は途中から別路を通って、名久井岳の北側中腹にある恵光院【けいこういん】（南部町長谷）に向かう。尾根道の傍らにある小堂参拝しながら恵光院近くの谷に降りると付近にある小祠などを参拝し、恵光院で休憩する。参加者は恵光院からバスに乗って泉山に戻る。 　泉山の月山神社で総代と父親たちが参加して登拝行事が無事終わったことを感謝する神事を行い、その後に直会【なおらい】を行う。 　人生の節目に名山・霊山に登拝する習俗は、全国各地に広く分布していたが、急激な社会変化に伴ってその多くは形骸化してしまっている。泉山の登拝行事は、出羽三山信仰を背景に、村落の公的行事として現在も行われ、伝統的な人生儀礼の一つを伝えるものとして重要である。

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