日本統治時代に日本に渡った文化財に関するもの
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「朝鮮半島から流出した文化財の返還問題」の記事における「日本統治時代に日本に渡った文化財に関するもの」の解説
日韓国交正常化交渉時の「文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」作成に向けての交渉において外務省は朝鮮文化財の返還を文部省に打診したが、日本の文化財保護委員会や朝鮮史学者らは反対した。 1950年8月に文化財保護法施行ともに発足した文化財保護委員会は文部省外局の機関であったが、当時韓国への文化財返還には一貫して反対していた。当時の文化財保護委員会委員は矢代幸雄、細川護立、一万田尚登、内田祥三、高橋誠一郎であった。1953年10月、同委員会は東京国立博物館所蔵の韓国関係文化財について「ほとんどすべて、旧帝室博物館当時、古代日鮮関係の文物を国民一般に周知させて、文化交流を試図する目的で収集したもの」で、「すべて購入、寄贈、交換などによる正規の手続きを踏んで得たものである」と答弁した。さらに1960年4月6日に文化財保護委員会は外務省で「文化財の大部分は、総督府時代に韓国の博物館にあり、終戦後もほとんどを残してきており、むしろ日本側で貰いたい位であると語った。第5次会談直前の1960年9月19日での日本外務省・文部省討議で文化財保護委員会は、韓国側が韓国併合条約無効論に立脚するならば正当に入手した文化財を返還するのは一考を要すること、東京国立博物館の朝鮮関係文化財を返還すれば将来的に日本には朝鮮関係文化財のすべてがなくなってしまう憂慮があること、などを指摘し、返還に応じるにしても一方的に日本だけが返還するのでなく韓国国立中央博物館にある大谷光瑞コレクションなどは日本に返還されねばならないのではないかと述べた。 1959年当時に奈良国立文化財研究所長で戦前には朝鮮半島での古蹟調査保存事業に参加し京城帝国大学教授であった藤田亮策も朝鮮での日本の文化財保護政策について「故意の宣伝や悪口が日本の半島統治に対して如何なることをいふにしても、文化事業のために払われた永年の努力とその功績に対して何人も一言を挟む余地はあるまいと信ずる」と述べ、また朝鮮の統治についての非難に対して「日本と日本人が全力を尽くした努力が、また、国の運命を賭して敢闘したことが、ただ単に日本人のためだけであったと限定されることなのか、朝鮮と朝鮮人の永遠の幸福はまったく度外視されることなのか、そうではないのかは百年後の歴史家が正確に解析してくれると考える」と述べ、「少なくとも朝鮮の古蹟調査保存事業だけは半島に残した日本人の最も自負しなければならない記念碑中の一つと断言しなければならない」として、総督府博物館における朝鮮古文化財の登録指定、保存、修理、収集、研究報告が、精密な方法によって朝鮮の文化を世界に紹介したことや、寺内総督が朝鮮の文化財は半島内で保存すべきであるという方針をとったことなどを指摘し、古蹟調査保存事業は「朝鮮と朝鮮人に対して永久に誇るにたる文化事業であった」と述べた。 このほか、田川孝三東京大学東洋文化研究所教授(当時)は、重複がある場合や、韓国側の言い分に筋が通っている場合には返還に応じてもいいとコメントした。梅原未治も朝鮮総督府の古蹟調査保存事業は、埋もれた文物を発掘したり、博物館で保存するなどしたことは「当然高く評価せらるべき」とした。 他方、森本和男は、文化財の略奪に関する規範が確立していた欧米に対して「日本では戦争から文化財を守る規範が乏しかった」とし、また戦後も「日本国内では、被害も加害もまるで何事もなかったかのように文化財は語られず、日本で道義的議論の機会が失われた」と日本の対応を非難している。森本によれば、朝鮮王室儀軌や利川五重石塔(大倉集古館所蔵)の持ち出しは「国際的に確立された文化財に関する倫理からすると不当とされるのであり、韓国の人たちから見れば略奪」であるし、取得方法が不正か正当だったのかの事案としてではなく、日本人の倫理そのものが問われていると述べている。 日本共産党の衆議院議員石井郁子は韓国の返還運動に答えるべきであるとして2007年4月6日の国会で、東京芸術大学の金錯狩猟文銅筒、東京根津美術館の高麗青磁陰刻浄瓶や李朝時代の石塔、豊臣秀吉の朝鮮出兵時に日本に持ち帰った文化財や、「日本が朝鮮併合や中国侵略によって朝鮮半島や中国大陸などから発掘や略奪によって日本に持ち帰ってそのまま所有している、所蔵している文化財」についての調査を要請した。また、日本の市民団体韓国朝鮮文化財返還問題連絡会議の荒井信一らは、日本にある朝鮮由来の文化財は返還すべきであると主張し、とりわけ民間の博物館が保管する文化財の返還については進展しないため、「植民地期に不法に流出した朝鮮半島由来の文化財」については返還されるべきと主張している。
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