後装式への変換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 03:54 UTC 版)
1864年に起きた、第二次シュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争で、プロイセン王国が単発ボルトアクション後装式ライフルであるドライゼ銃を使って、ライフルマスケットで武装したデンマーク軍を撃破すると、エンフィールド銃はすぐさま時代遅れとなり、イギリスは、後装式ライフルの採用を検討する様になった。 しかし、ドライゼ銃はガス漏れがとても酷かった事、フランスの単発ボルトアクション後装式ライフルであるシャスポー銃は、わずか30発の発砲で、ボルト先端部にあるゴムリングが磨耗してしまった事や、新たにライフルを開発し製造すると、コストが大幅にかかる事などから、小火器委員会は他国が既に採用していたライフルをただコピーするという判断は取らなかった。 そのため、 1864年8月23日に、イギリスの国務長官は、「ガンメーカーなどのアイデアから最良のシステムを割り出し、それをエンフィールド銃を改造する様にして搭載する」ことを要望とし、戦争事務所は、5000ポンドの「報奨金」をかけたトライアルを開始した。このトライアルには主に二つの前提条件があり、一つは「 コストが1ポンドを超えない事」、二つ目は、「ライフルがそれまでのものより射撃において劣っていない事」であった。 イギリスのガンメーカー達の反応は素晴らしく、 たった1ヶ月で43丁のライフルが委員会によって受け取られ、 同年10月中旬までにはそれに加えて4丁が提出された。これらのうち、9丁がテスト用に選択され、再考のために11丁がマークされた。そして残りはまとめて拒否された。 これら8丁のライフルは、主に2種類の後装式に分類することができ、一つ目は雷管を用いて発火するパーカーションロックの後装式、2つ目は自己完結型の薬莢を使用する後装式ライフルであった。後者は雷管をニップルに着けるという動作を省き、銃の装填を速めた事から、委員会に好まれた。選択された8丁のライフルは、以下の通りである。左から、武器の名前、激発方式、そして特徴である。 選択された8丁のライフルの名称、激発方式、特徴武器撃発方式特徴モントストーム 雷管撃発 バレルとチャンバーの間のジョイントは、広い指貫型の形状であった。ボルトによって固定されたヒンジによってフロントヒンジで作動する。 シェパード(b) 雷管撃発 長いハンマーによってニップルに到達する。 ウェストリー・リチャーズ 雷管撃発 フックを利用している。 ウィルソンズ 雷管撃発 上部が開くバレルは、ボルトにプランジャーを使用している。ボルトはガス漏れを防ぐためにゴムで密封されている。 グリーンズ 雷管撃発 1863年の試験で注目された。骨盤位を安全にするために回転プランジャーを使用している。 スナイダー カートリッジ撃発 新しいシステム。 雷管抜きで非常に簡単に変換を行える。 ジョスリン カートリッジ撃発 1861年の試験で初めて注目された。蝶番が付けられたブリーチ部から空薬莢の排莢を行う。 シェパード カートリッジ撃発 1864年の試験で初めて注目された。ブリーチロックがストックの中心にある。 1865年2月6日にはトライアルがスタートしたが、トライアルでは不幸が続いた。7丁目のジョスリンライフル(英:Joslyn rifle)は、ニューヨークでの許可トラブルからイギリスに届く事はなく、トライアルで使われなかった。 そして、実際にイギリスに届いた7丁のライフルの内、2丁が安全に操作できずにそのまま落選した。この様な不幸の連続により、このトライアルで使用されたのは5丁だけで、カートリッジ激発を行うライフルはスナイダーだけとなった。どの武器が最も連射速度が速いか測定するために、最初のテストでは、5丁のライフルと、エンフィールド銃が100ヤード先にある中型のターゲットに20発発射された。各ライフルの装填時間は以下の通りである。 エンフィールド銃と、各ライフルの20発の射撃にかかった時間の比較武器20発の射撃にかかった時間グリーン 2分26秒 ウィルソン 2分44秒 スナイダー 2分46秒 モントストーム 3分1秒 ウェストリーリチャーズ 3分29秒 エンフィールド銃 6分52秒 5丁のライフルは、どれも3分以内で20発を射撃する事ができ、エンフィールド銃の連射速度の2分の1又は3分の1程度の射撃速度を持っていた。 しかし、次にライフルの精度を試したテストでは期待外れの結果が以下の様になった。 エンフィールド銃と、5丁のライフルの精度比較武器500ヤードにおける性能指数エンフィールド銃 1.64フィート(0.5メートル) ウェスリーリチャーズ 1.81フィート(0.55メートル) ウィルソン 2.10フィート(0.61メートル) モントストーム 2.58フィート(0.79メートル) グリーン 3.59フィート(1.09メートル) スナイダー 5.0フィート(1.52メートル) 委員会にとってとても残念なことに、どのライフルもエンフィールド銃を完全に打ち負かす事ができなかったのである。 しかし、スナイダーの酷い精度を改善するために、ボクサーは、スナイダーの弾薬をカバー付きの2つの真ちゅう製コイルと白紙で作られたカートリッジに変更した。この改変によってスナイダーは他のライフルを差し置いてエンフィールド銃に精度で勝る様になった。 スナイダーとエンフィールド銃の精度比較武器性能指数スナイダー 1.06フィート(0.32メートル) エンフィールド銃 1.57フィート(0.48メートル) 次に委員会は、各ライフルの信頼性を測定するために、各ライフルから270発発砲し、各ライフルの不発の可能性と、どれほどの耐久性があるかを調べた。このテストでスナイダーはまたもや最低の結果を露呈してしまった。 エンフィールド銃と、5丁のライフルの不発発生回数の比較武器270発を発砲した時の不発発生回数グリーン 0 モントストーム 0 ウェストリーリチャーズ 1 ウィルソン 1 エンフィールド銃 1 スナイダー 8 その後の更なるテストで、スナイダーは5500発発砲され、不発を一回しか起こさなかったため、この過失は補われたが、それでも初期のテストでの結果が悪かった事や、エンフィールド銃をスナイダーのシステムに変換する際に、銃身が赤熱に上げられたために製造プロセスで損傷した事などから、結局、トライアルに用いるライフルはモントストームとウェストリーリチャーズの二丁のみが残された。 この二丁のライフルにはそれぞれ認識可能な利点があり、ウェストリーリチャーズは、他のライフルの精度を凌ぐ高い精度があり、モントストームは既存の弾薬に加え、エンフィールド銃の弾薬も使用できる事からのシステムの安価さがあった。しかし、連射速度や、信頼性など、全体の評価として見ればモントストームの方が多く優っていたため、このトライアルで勝ったのはモントストームとなり、1865年初頭には、3000丁の モントストーム銃 が注文された。 モントストームシステムは、エンフィールド銃に施す変換としては比較的単純で、ブリーチ部は上部で切り取られ、前部の蝶番にチャンバーが取り付けられた。装填方法は、射手の方向に面したチャンバーに弾薬を挿入し、チャンバーを射手の方向に折り畳むようにしてブリーチ部に取り付けるというものであった。モントストームの弾薬は、動物の皮膚を利用した「スキンカートリッジ」と呼ばれるとても特徴的なもので、これは雷管の激発によって発火され、焼失する可燃性の弾薬であった。 しかし、すぐにこのモントストームライフルにも多くの問題が露呈するようになった。一つ目の問題は、遊動式のチャンバーの構造と、これによって大きく変わった装填方式によって、兵士達が混乱してしまった事であった。この問題は、弾薬の装填方向を間違えるなどして不発を招く恐れがあったが、厳密な訓練を行えばこの問題は解消された。 より深刻であったのは二つ目の問題で、それは、動物の皮膚を利用するスキンカートリッジが、非常に高価で調達が困難になってしまった事だった。最初に注文された3000丁の モントストーム銃 のための弾薬の在庫が不足していたのである。 そして、モントストームライフルの激発方式である雷管激発も、大きな欠陥とみなされた。 これらの様々な問題の露呈から、委員会は、理想的には弾薬に独自の激発方式を含むライフルを望んでいたので、より良いシステムが調達されるまで、注文された3000丁の モントストーム銃 の内の2000丁が、実際に製造されることとなった。そして、スナイダーがモントストームに代わって採用される事が決定された。 スナイダーを発明したジェイコブ・スナイダー(英:Jacob Snider)は、トライアルで用いられた弾薬より優れたカートリッジを設計するために、彼は紙またはキャラコで包まれた真ちゅう製の薄いプレートを使用して頑丈なカートリッジを提供しようとしたが、金銭的な問題のために、彼は荒くて不器用なものしか作る事ができなかった。 そのため、結局、多くの機械と資源があった戦争事務所のボクサーによって発明された「ボクサーカートリッジ」が使われた。スナイダーは再試行され、様々なテストで扱われた。このうちの銃身のストレス耐久テストでは、1000発程射撃されたが、スナイダーの精度と装填のし易さは全く変わらなかった。 こうして1866年5月23日、再試行のテストで良い結果を残したスナイダーは、公式に採用する事を提案され、8月までにはスナイダーの注文が確立されて製造され、1866年9月18日にはスナイダーライフルは採用された。リストには、「変更1327、ライフルドマスケット、エンフィールド、パターン53はスナイダーの原理(パターン1)に基づく後装式へと変換された」とマークされた。したがって、スナイダーエンフィールドMk1が誕生し、古い前装式のエンフィールド銃の改造が開始された。
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