市民の言語能力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/04 20:48 UTC 版)
以下の表は2005年11-12月に調査され、2006年2月に発表された"Europeans and their Languages"と題された欧州委員会による"Special Eurobarometer 243"に基づいて作成されている。なお本調査は2007年にブルガリアとルーマニアが加盟したEU拡大前に実施されており、部分調査であって全体的なものではない。当時の加盟全25か国と2007年に加盟するブルガリアとルーマニア、加盟候補国のクロアチア(当時)とトルコに住む15歳以上の市民28,694人を対象に聞き取り調査を実施した。なおこの数値に移民は含まれていない。 表1では普段の会話ではどの言語を母語として使っているか、または第2言語あるいは外国語として使っているかについて、市民の回答の割合を表している(ただしいずれの回答でも2%未満だった言語は除外している)。 表1 EU市民の言語使用状況言語主に使用している加盟国母語として使用する (%)母語以外として使用する (%)話すことができる (%)英語 13% 38% 51% ドイツ語 18% 14% 32% フランス語 12% 14% 26% イタリア語 13% 3% 16% スペイン語 9% 6% 15% ポーランド語 9% 1% 10% オランダ語 5% 1% 6% ロシア語 n/a 1% 6% 7% スウェーデン語 2% 1% 3% ギリシャ語 3% 0% 3% チェコ語 2% 1% 3% ポルトガル語 2% 0% 2% ハンガリー語 2% 0% 2% スロバキア語 1% 1% 2% カタルーニャ語 1% 1% 2% 全体の18%がドイツ語を母語としており、この数値はEUにおいてドイツ語を母語とする人が最も多いということを示す一方で、英語はEUにおいて最も広く話されている言語であることがわかる。また100%のハンガリー人、100%のポルトガル人、99%のギリシャ人がそれぞれの国語を母語としている。 表2では外国語の知識について各国でさまざまな様態があることを示している。EUにおいてとくに多く使われており、また日常話される第2言語あるいは外国語として使用できる3つの言語は英語、ドイツ語、フランス語である。割合が示されていないのは、その言語はその国において日常使用される第2言語あるいは外国語として使用される3つの言語ではないということを示している。青で表示されているのはその国において公用語として使用されているものであり、緑で表示されているのはその国において主要な言語として使用されていることを示している。一番右の列の平均値は3言語についての平均であり、その国の住民がどれだけ多言語的であるかを示す数値である。なおこの数値は正式な調査によるものではなく、ドイツ語、フランス語、英語を公用語とする国では多言語的であるかについては関連性が低い。これらの国については3つの言語の中で公用語としていない2つの言語での平均を取るほうが適切である。 表2 3言語の母語以外としての知識国英語を母語とせずに使用ドイツ語を母語とせずに使用フランス語を母語とせずに使用平均値 オーストリア 58% 4% 10% 24 ベルギー 59% 27% 48% 44.7 ブルガリア 23% 12% 9% 14.7 キプロス 76% 5% 12% 21.7 チェコ 24% 28% 2% 18 デンマーク 86% 58% 12% 52 エストニア 46% 22% 1% 23 フィンランド 63% 18% 3% 28 フランス 36% 8% 6% 16.7 ドイツ 56% 9% 15% 26.7 ギリシャ 48% 9% 8% 21.7 ハンガリー 23% 25% 2% 16.7 アイルランド 5% 7% 20% 10.7 イタリア 29% 5% 14% 16.0 ラトビア 32% 14% 2% 16.0 リトアニア 39% 19% 1% 19.7 ルクセンブルク 60% 88% 90% 79.3 マルタ 88% 3% 17% 36 オランダ 87% 70% 29% 62 ポーランド 29% 20% 3% 17 ポルトガル 32% 3% 24% 19.7 ルーマニア 29% 6% 24% 19.7 スロバキア 32% 32% 2% 22 スロベニア 57% 50% 4% 37 スペイン 27% 2% 12% 13.7 スウェーデン 89% 30% 11% 43.3 イギリス 7% 9% 23% 13.0 加盟候補国 クロアチア 49% 34% 4% 29 トルコ 17% 4% 1% 7.3 EU加盟国の市民の56%は日常の会話において自身の母語以外の言語を使用している。これは2001年、当時EU加盟国の数が15であったときに調査したときよりも9ポイント上回っている。また日常会話が十分にできる水準で2つの外国語を使用することができると回答したのは28%となった。ただ一方で回答者のほぼ半数にあたる44%が自身の母語以外の言語がわからないとしており、およそ5人1人のEU市民は言語学習者で、その時点で言語能力の向上に努めているか、12か月以内に学習を始めると回答した。 英語はヨーロッパにおいて最も広く使用されている外国語となっている。イギリス、アイルランドなど4か国を除くEUの市民の38%が会話をするのに十分な英語の能力を持っている。また14%の市民は母語のほかにフランス語かドイツ語を理解している。フランス語は南欧地域で最も学習され、あるいは使用されており、とくに地中海沿岸地域、ドイツ、ルーマニア、イギリス、アイルランドでは盛んである。その一方でドイツ語はベネルクス、スカンディナヴィア、最近EUに加盟した諸国において学習や使用がなされている。調査対象の29か国中19か国において英語は母語以外の言語として最も広く理解される言語であり、とくにスウェーデンの89%、旧英領のマルタで88%、オランダで87%などとなっている。またドイツ語やフランス語も3か国において同様の結果が示されている。さらにEU市民は英語の自身の水準について他の第2言語や外国語よりも高いと考えている。77%のEU市民は子どもに英語を学習させるべきであると考え、イギリス、アイルランド、ルクセンブルク以外の調査を実施したすべての国では、英語は最も重要な言語であると認識している。英語を母語、または第2言語・外国語として使用しているEU市民の割合は51%に上り、その後にドイツ語が32%、フランス語が28%と続く。 母語とは別に2つ以上の言語を話すことができる住民の割合を見ると、トルコでは5%、アイルランドでは13%、イタリアでは16%、スペインでは17%、イギリスでは18%にとどまっている。複数の言語を話すヨーロッパ市民は若い世代で、十分な教育を受けていたか、あるいは学生に多くみられ、また居住国以外の国に生まれ、外国語を職業上の理由で使うか、学習意欲があることが背景にあげられる。したがって、ヨーロッパ社会の大部分が多言語使用の恩恵を享受していないということが言える。 無料の語学レッスン(26%)や各人の都合に合わせられるような柔軟性のある学習コース(18%)、学習しようとする言語を母語としている国での修得の機会(17%)について、これらは言語を習得しようとする人がその意欲を強くするきっかけとなっている。1人の講師に対して複数の人数で受けるレッスン(20%)、学校での語学の授業(18%)、講師との1対1でのレッスンや学習する言語が使用されている国での長期滞在や頻繁に訪問することについては、言語習得のうえで最も適している方法であると考えられている。
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