基本的な測定値に関して
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 01:53 UTC 版)
典型的な正常波形を右に示す。心拍一回ごとに心電図に現れる波形は、大きくP、Q、R、S、T波の5つの波で構成され、中でも目立つQ、R、S波は一括してQRS波と呼ばれる。図にはないが、これ以外にもU波という波が存在する。横軸は、1mmの1目盛が 0.04秒であり、1秒は25目盛りにあたる。縦軸は電圧で、1mVのキャリブレーションの波が記録されているが、一般的には1目盛0.1mVが使用される。 (注)各波の正常値は教科書によって多少の相違がある。 P波 P波とは心房の興奮を示す波形と考えられている。P波が存在するのか、QRS波との対応がおかしくはないのか、P波自体に異常はないのかを調べる。正常では右心房・左心房ともほぼ同時に収縮するため単一の波として記録される。心房の興奮は洞房結節から始まる。洞房結節は解剖学的には上大静脈が右心房に開口する付近にあることが多いので、心房の興奮は右上から左下に向かうことになる。したがって、その進行方向に当たる誘導(四肢誘導ではI,II,aVF、胸部誘導では一般にV3-V6)ではP波は上向きに、進行方向と反対の誘導(aVR)では下向きとなる。実際的には洞調律のP波であるのかはI、II誘導で陽性であれば十分である。それ以外のP波の異常としては右房拡大と左房拡大が存在する。肺動脈圧が高まって右心房の負荷が高まっているときなど、均一な収縮ができないときはP波がいびつな形に変形する。右房拡大があるときはII、III、aVF誘導でP波の高さが2.5mm以上の肺性P波となったり、V1, V2誘導で先鋭が増高した2mm以上の右心性P波が見られたりすることがある。左房拡大のときはP波の幅がI、II誘導のいずれかで3mm以上の僧帽性P波となりV1誘導で前半陽性、後半陰性の二相性となる。よって正常のP波ではI、II誘導で陽性であり、II誘導で幅3mm未満、高さ2.5mm未満、V1で高さ2mm未満、P terminal force(morris指数)の絶対値が0.04mm・秒未満であればよい。 PQ時間 PQ時間の正常値は3mm(120msec)以上5mm(200msec)未満である。200msec以上の場合は1度の房室ブロックの可能性がある。PQ時間はP波の初めからQ波のはじめまでであり、房室伝導時間と考えられている。 QRS波 QRS波とは心室の電気的興奮を反映する波と考えられている。心室内の電気伝導は心室中隔に沿って左下方向に進むため、その進行方向に当たる下肢からの誘導(aVF)では上向きに、進行方向と反対の右上肢(aVR)などからの誘導では下向きになる。この向きが異なっているとき(軸偏位があるとき)は心室内での電気伝導路が正常ではないことを示唆する。心室内で電気的興奮が均一に伝わらなかったときには、すべての心筋が興奮し終わるまで時間がかかるため幅が広くなる。 QRS波の各々の波形は定義に従って命名される。最初の陰性波をQ波という。最初の陽性波をR波という。陽性波の後の陰性波をS波という。それ以上の陽性波や陰性波があった場合はR'波、S'波という。大きい波は大文字で小さい波は小文字で表す。II誘導でqRSというのが正常パターンである。陽性波がない場合のQSパターン、脚ブロックのrSR'パターンなど数多くの波形が定義されている。QRS波の以上には様々なパラメータを用いる。電気軸、移行帯、R progression、異常Q波などはQRS波のパラメータである。QRS波が正常であるとは肢誘導においてQRS平均電気軸が正常で、III、aVL以外に異常Q波が存在せず、QRS時間が2.5mm未満であること。かつ胸部誘導でR波の増高(r progression)が正常であり、V1誘導以外に異常Q波がなく、QRS電位が正常(SV1+RV5<35mm、SV1+RV6<35mm、RV5<26mm、RV6<26mm)であり低電位がなければ正常である。 QRS波形は下記で示すQRS時間とともに心室内伝導障害(右脚ブロック・左脚ブロック・左脚前枝ブロック・左脚後枝ブロック・両脚ブロック・三束ブロックなどがある)の診断で重要である。 QRS時間 QRS時間とは心室内伝導時間を示す。II誘導で計測するのがわかりやすい。正常値は1.5mm(60msec)以上3mm(120msec)未満である。延長している場合は脚ブロックを心室内伝導時間が延長している可能性がある。特に頻脈性不整脈の場合は重要な所見である。 STセグメント STセグメント(ST部分)とは心筋細胞の活動電位第二相、即ち心筋の再分極に相当する。等電位となるのが正常である。水平部分が正常よりも上がっていたり下がっていたりする状態をST変化と呼ぶ。これは虚血性心疾患の代表的な心電図所見である。一般的に狭心症ではSTが低下、心筋梗塞ではSTが上昇すると言われるが、ST上昇を示す異型狭心症、ST低下を示す非貫壁性心筋梗塞などといった病態もあり得る。このほか、ジギタリス常用者にみられるなだらかなカーブを描くST低下は盆状ST低下として知られる。STの判定基準はQRSの立ち上がる直前のPQ部分とするのがよいとされているが諸説ある。原法ではP波の立ち上がり部分を結んだ部分が等電位線であり、これでやるのが正しいのだが、早期再分極があるときに誤りやすいからである。III, aVL, aVF, V1など陰性T波がみられてもよい誘導においては軽度のST低下が単独で見られることもある。早期再分極例では正常でもSTの上昇がみられる。早期再分極は心房負荷があるときや頻脈のときにみられる。特に頻脈性不整脈の心電図はST下降が顕著にみられるが、この所見は心筋虚血を示さない。 T波 T波とは心室筋の再分極を示す波形である。T波はaVRで陰性であり、I、II、V2~V6で陽性であり、かつ高さは12mm未満、かつR波の1/10以上であるのが正常である。III, aVL, aVF, V1ではT波は陰性であることが多い。16歳以下の若年者ではV2, V3に陰性T波が見られても正常である。T波は通常低い上向きの波であるが、いくつかの要因によって形が変化する。よく知られるものは、虚血性心疾患における陰性T波(下向き)、高カリウム血症におけるテント状T波などである。 QT時間 QT時間とはQRS波のはじまりからT波の終わりまでの時間であり、心室の収縮時間を示している。RR時間の1/2を超えていればQT時間は明らかに延長している。I誘導かaVL誘導で測定するとわかりやすい。正常値は400msec以内である。QT時間の正常値は心拍数によって変化するため、補正のためこれを心拍数の平方根で割ったものをQTc時間(正常値0.36-0.44秒)と呼んで使用している。 U波 U波の成因は不明である。心室壁の中間にM細胞という細胞が存在し、これは活動電位持続時間が他の心筋細胞より長いために、再分極時にU波が出るというのが有力な説である。陽性でありT波の高さの5~50%の範囲内ならば正常である。T波より高いU波や陰性U波は異常である。高いU波の原因として低カリウム血症・QT延長症候群・ジギタリスなどがある。陰性U波の原因として心筋虚血、心肥大、高血圧がある。 電気軸 心室脱分極の際の垂直面での電気的変化のベクトルのことである。QRS波によって決定する。 誘導とその正負範囲角度I(+)II(+) 正常範囲 -30度~110度 I(+)II(-) 左軸偏位 -90度~-30度 I(-)aVF(+) 右軸偏位 110度~180度 I(-)aVF(-) 極度軸偏位 -180度~-90度 左軸偏位は左室の肥大や拡大、左脚ブロック、左脚前枝ブロック、下壁梗塞、WPW症候群(B型)、心内膜欠損症(ECD)を示唆する。右軸偏位は右室肥大、拡大、肺性心、左脚後枝ブロック、WPW症候群(A型)を示唆する。特に左軸偏位の下壁梗塞、心内膜床欠損症は重要である。 回転 回転とは水平面における電気軸の指標である。移行帯の向きによって評価する。CTと同様に足側からみて時計方向回転か反時計方向かを判断する。正常ではV3かV4になる。反時計方向回転とは移行帯がV1方向へ移動することで左室の圧負荷か容量負荷、時に正常の男性でもみられる。時計方向回転は右室の圧負荷、右室容量負荷、右室肥大、横隔膜低位、肺気腫などでみられる。
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