ST変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 01:53 UTC 版)
労作性狭心症ではST低下が認められ、異型狭心症、心筋梗塞ではST上昇が認められる。ST上昇を起こす疾患としては他にも心室瘤、心外膜炎、急性心筋炎が知られている。またジギタリス効果も有名である。労作性狭心症では心内膜下虚血が多く、異型狭心症は貫通性虚血が多いことが、心電図変化にあらわれていると考えられている。ST上昇の鏡像としてST下降が認められることは多いがST下降の鏡像としてST上昇が認められることは極めて稀である。またST下降によって病変血管を推定するのは極めて困難である。なぜなら、労作で虚血する心筋は殆ど下壁といった末梢領域であるためである。 労作性狭心症 負荷心電図でST変化をみることが多い。労作に一致したST低下が特徴的である。下降傾斜型(down-sloping type)や水平型(horizonal type)のST低下は虚血性心疾患に特徴的と考えられている。下降傾斜型は特に診断的な意味が強い、逆に心筋虚血と関係が薄いST低下が緩徐上行型(slowly upsloping type)のST低下である。 不安定狭心症 Wellens症候群では、胸痛のない時期に特にV2-V3においてT波の陰転化もしくは二相化がみられる。これはLAD近位部の高度狭窄を意味しており、未治療の場合には75%が1週間以内に前壁梗塞に進展するともされる。 異型狭心症 典型例の発作時はST上昇部とT波が融合した単相曲線型ST上昇(ST部分とT波が融合)を呈する。ST上昇はR波の頂点近くから始まり、QRS幅が増大して見える。ミラーイメージのST低下も認められる。冠動脈のスパズムによって起り、早朝に非常に多い。カルシウム拮抗薬が効果的であり発作時にニトログリセリンが有効であることは労作性狭心症と変わりはない。 ジギタリス効果 盆状ST低下が非常に有名である。しかし盆状ではなくdown-sloping型のST低下を示すことも多い。PQ時間の延長、QT時間の短縮、ST-T変化を示す。この心電図変化は中毒域ではなく有効治療域から認められる。また心電図のみで虚血性心疾患と鑑別するのは不可能である。 心室瘤 梗塞部位で上に凸のST上昇が発症後数週間持続し、典型的な心筋梗塞の心電図変化を示さない時に疑われる。心破裂に至る可能性がある重篤な虚血性心疾患の合併症である。 心膜炎 心外膜炎や心筋炎では自覚症状は感冒、胸痛といったものだが心電図は特徴的である。V1、aVR以外全ての誘導で下に凸なST上昇を示す。ミラーイメージのST低下は認められない。心筋梗塞とは異なり、T波の増高は伴わず、陰性T波出現したとしてもST部分が基線に戻ってから出現する。広範な誘導でPR部分の低下を認め、aVR誘導ではPR部分の上昇を認める。心嚢水が貯留すると低電位を示す。 非特異的ST-T変化 aVR誘導やV1誘導の陰性T波は正常である。それ以外にV2, V3誘導の陰性T波、III誘導の陰性T波、二相性T波、減高したT波といった所見は単独では病的な意義を持たない。また特に有名なのがTa波といわれる所見であり、運動負荷偽陽性の原因となる。これは心房再分極の過程を示していると考えられている。その他脚ブロックなど心室脱分極に異常がある場合も二次的にST-Tが変化することもある。
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