光の描写
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中世ヨーロッパでは聖母マリア崇敬が盛んで、15世紀初頭にはマリアを主題とした美術作品が数多く制作された。マリアは『ヨハネによる福音書』(1-14) の「想いは肉体となった (Word was made flesh)」肖像として表現されることも多く、神の聖なる光 (en:divine light) を直接その身に受けた人物として描かれた。中世美術において光は、マリアの懐胎とキリストの誕生を意味する視覚的象徴として使用されていた。窓から射し込んだ神の聖なる光がマリアの身体を貫いたときに、キリストがマリアの胎内に宿ったと信じられていたのである。 『教会の聖母子』において光が聖なる存在として表現されていることは、マリアのドレスのすそに刺繍されているラテン語の文章や オリジナルの額装の銘からも明らかである。降り注ぐ光の光源は、太陽からの自然光ではなく聖なる存在が発しているかのように描かれ、マリアの表情を明るく照らし出している。マリアの背後の床に描かれた二つの光のスポットがこの作品に神秘的な雰囲気を与えるとともに、神が存在しているということを表現する効果をもたらしている。マリアはきらめく光を全身に浴び、その背後の壁龕にはキリストの顕現の象徴である二本のロウソクに照らし出された聖母子像がある。自然には存在しえない光の描写が教会内部に幻想的な表情を与えており、ペヒトはこの雰囲気を創り出したヤン・ファン・エイクの色彩感覚を高く評価している。 15世紀にはアルプス以北の北方ヨーロッパの画家たちにとって、キリストの顕現の秘跡を表現する手法として光を使用することが普通になっていった。窓ガラスを貫いた光が処女であるマリアにキリスト懐胎をもたらしたとする手法で、これは12世紀のフランス人神学者ベルナルドゥスの著書といわれる『説教集』の「さまざまな説教 (Sermones de diversis)」の一節から着想を得ている。「輝く陽光はいささかも色あせることなくガラス窓を貫き、何ら傷つけたり破壊することはない。このようにして、素晴らしき全能の父たる神のみ言葉が処女(聖母マリア)の寝室に入り込み、その胎内から人の姿となって顕現したのである」 初期フランドル派の台頭以前には、絵画における聖なる光の表現技法は十分とはいえず、天界からの輝きを表現する際にはきらめく黄金として描写されるだけだった。降りそそぐ光の動きに意味を持たせるのではなく、光そのものに重点を置いた描写がなされていたのである。ヤン・ファン・エイクは光の彩度を重視した最初の画家のひとりで、周囲を明るく照らし出す様子と、画面を満たす光の色調の変化を描いた。様々な明度の光によって照らし出された物体を精緻な色彩感覚で描き分けた。躍動する光が『教会の聖母子』にも表現されており、とくにマリアのドレス、宝冠、髪、外套に描きあげられている。
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光の描写
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「ルネサンス期のイタリア絵画」の記事における「光の描写」の解説
ジョットは色彩の階調を表現することによって対象物を描写した。ジョットのもとで修行したタッデオ・ガッディがサンタ・クローチェ聖堂バロンチェッリ礼拝堂に夜景を描いた作品に、光の表現が絵画に劇的な効果をもたらす例を見ることができる。さらにガッディからおよそ100年後の画家であるパオロ・ウッチェロが描いた、ほとんど単色で彩色されたフレスコ画からも、ウッチェロが光を効果的に絵画に表現できる優れた技量を有していたことが分かる。ウッチェロが描いた「緑なる大地」には、ヴァーミリオンで光の表現を加えることによって、作品に生き生きとした表情がもたらされている。ウッチェロの作品でもっとも有名な絵画の一つに、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の壁画『ジョン・ホークウッド騎馬像』(1436年)があげられる。この作品と、ウッチェロが聖堂内の時計文字盤に描いた4人の預言者の肖像には強い明暗法が使用されており、実際の聖堂の窓から射し込む自然光によって、それぞれの人物像が照らし出されているかのような光の表現がなされている。 ピエロ・デッラ・フランチェスカは、さらに光の描画を追求した画家といえる。『キリストの鞭打ち』(1455年 - 1460年頃、ドゥカーレ宮殿付属マルケ美術館(ウルビーノ))では、光がその光源からどのように拡散していくのかが描き出されている。この作品には屋内と屋外の二箇所の光源が設定されており、屋内の描写では光源のそのものは明確に描かれてはいないが、数学的な計算によって光源の場所を特定することが可能である。このデッラ・フランチェスカの光の描写手法は、後年になってからレオナルド・ダ・ヴィンチの作品によってさらなる発展を見た。
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