人魚
★1a.男が人魚と結婚するが、後に人魚は夫と別れて海へ帰る。
『ウェイストネス島の男』(イギリスの昔話) ウェイストネス島の男が、引き潮の時に沖へ行き、人魚たちが遊んでいるのを見る。彼女たちが脱いだアザラシの皮を1枚、男は奪い取る。海の世界へ戻れなくなった人魚1人が、やむなく陸へ上がり、男の妻となる。人魚は、男児4人・女児3人を産んだ後、天井裏に隠されていたアザラシの皮を見つけ出す。彼女は皮を身にまとい、夫と7人の子供を捨て、歓喜の声をあげて海へ飛び込む。
『人魚』(巌谷小波) 男が海辺で人魚を釣り上げるが、かわいそうに思って放してやる。その日の夕方、美しい女が男の家を訪れて一夜の宿を請い、そのまま男の妻となる。女の作る魚料理はたいへん美味で、男は驚く。女は「私は1週間に1度、塩湯に入ります。けっして湯殿を見ないで下さい」と言う。男がのぞき見ると、人魚が塩湯の中を泳ぎまわっていた。女は別れを告げて去って行く。男はその後ずっと独身だったが、いつまでも年をとらず、何百歳も長生きをした〔*妻の下半身が蛇で、毎週土曜日に入浴するという→〔のぞき見〕1bの『メリュジーヌ物語』(クードレット)が、ヒントになっているのであろう〕。
『ジョニー・クロイと人魚』(イギリスの昔話) ジョニーが海辺へ行って人魚を見つける。彼は人魚に口づけし、彼女の櫛を奪い取って、「女房になれ」と要求する。人魚は「7年間、わたしはここであなたと暮らします。その代わり、7年たったら、わたしの一族に会いに行く、と誓って下さい」と言う。2人の間に、7人の子供が生まれる。7年が過ぎ、人魚とジョニーと6人の子供(*→〔十字架〕2a)は、小舟に乗って、誰にも行き先の知れぬ遠くへ去った。
『スプラッシュ』(ハワード) 青年アランは海に落ち、美しい人魚に助けられた。アランと人魚は恋仲になり、ニューヨークで一緒に暮らす。人魚の尾は地上では2本の脚に変じたが、海洋学者コーンブルースに水をかけられたため、脚は尾に戻ってしまう。人魚はアランに別れを告げ、海へ飛び込む。アランも後を追って海に入り、気を失う。人魚の接吻によりアランは意識を取り戻し、水中で自由に活動できるようになる。彼は地上の生活を捨て、人魚の世界で暮らすことを選択する。
『漁師とその魂』(ワイルド) 若い漁師が美しい人魚を愛し、結婚したいと願う。人魚には魂がないので、漁師も自分の影(=魂)をナイフで切り離し、海へ入って人魚と一緒に暮らす。3年後、漁師は魂の呼びかけに応じて陸へ上がり、また魂を身につける。しかし再び身につけた魂は、2度と切り離すことができず、漁師は人魚に逢えなくなる。ある夜、人魚の死体が海辺に打ち寄せられる。漁師は人魚を抱きしめ、そのまま波にのまれて溺死する。
『人魚姫』(アンデルセン) 海の人魚の王様には6人の美しい娘がいた。末娘(=人魚姫)がいちばんきれいで、彼女は人間の王子に恋をした(*→〔十五歳〕)。その恋は報われぬまま人魚姫は死ぬが、彼女は不死の魂を授かるべく、天へ昇っていった(*→〔泡〕5)。
★3.貴公子が人魚を買う。
『人魚の嘆き』(谷崎潤一郎) 清の時代。南京の貴公子が、阿蘭陀人から美しい人魚を買う。しかし人魚は人間を愛してはならない定めなので、貴公子は人魚に抱かれて凍死しそうになる。人魚は「私を海に放して下さい」と請い、小さな海蛇に変身する。貴公子は、香港からイギリス行きの船に乗り、海蛇を放す。海蛇は最後にもう1度人魚の姿を見せ、水中に沈む。
『赤いろうそくと人魚』(小川未明) 北の青い海に棲む人魚が、話し相手もなく、さびしく暮らしていた。「人間の住む町は美しく、人間は魚よりも獣物よりも人情があって優しい」と聞いていたので、人魚は「自分の産む子供が人間たちの町で育つならば、きっと幸福になるだろう」と考え、海岸近くに女児を産み落とす。ろうそく店の老夫婦が女児を拾い、大切に育てる〔*しかし女児は成長後、大金で香具師(やし)に売られてしまう〕。
『古今著聞集』巻20「魚虫禽獣」第30・通巻712話 伊勢の国・別保(べっぽ)という所で、浦人の網に人魚3匹がかかった。頭は人のようであるが、歯は細かくて魚のごとく、口は突き出て猿に似ていた。わめく声や、流す涙は、人間同様だった。浦人たちは人魚を切って食べたが、その後、変事などはなかった。味はたいへん良かったという。
八百比丘尼の伝説 別所谷の岩窟に狢(むじな)が住んでおり、ある時、村人たちが狢の家でもてなしを受けた。谷左衛門という男が料理の残りを家に持ち帰り、18歳の娘が「どのようなご馳走か」と思って食べた。それは人魚の肉だったので、娘は8百年以上も生きることになった(石川県輪島市縄又町)。
『人魚伝』(安部公房) 「ぼく」は海底で見つけた美しい人魚を、アパートの浴槽で飼う。人魚は魔力を持っており、夜眠る「ぼく」の身体を食べ、翌朝には再生させる。やがて「ぼく」は、知らないうちに自分が何度も食われていたことに気づき、人魚を殺す。「ぼく」は食肉用家畜として人魚に飼育されていたのであり、飼い主を失った家畜の悲しみを「ぼく」は味わう。
『子不語(続)』巻9「人変魚」 「私」の甥が公用で重慶を通りかかると、町中が大騒ぎをしていた。某村の人妻が朝起きたら、下半身が魚になっていたのだという。乳房から下は鱗におおわれていたが、顔は普通であり、口はまだ話すことができた。甥はすぐ出発せねばならなかったので、その女を川に放したのか、夫が家で養ったのか、わからずじまいだった。
『人魚コーラ』(イタリアの昔話) 母親が、海で泳いでばかりいる息子コーラを呪い(*→〔呪い〕1)、コーラは半人半魚の身体になった。王さまから「どこの海がいちばん深いか、海の底に何が見えるか、探って来い」と命じられ、コーラは方々の海へ潜る。最後に彼は危険をおかして、メッシーナの燈台岬下の底なし海へ潜った。そのまま、いつまで待っても浮かび上がって来なかった。
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