人柱
★1a.誰を人柱にしたらよいか、提案した人自身が人柱にされる。
『雉も鳴かずば』(昔話) 川の氾濫対策を、村人たちが話し合う。1人の男が「縦縞に横縞のつぎ当てをした着物の人を、人柱にすればよい」と提案する。ところがそう言った当人が、縦縞に横縞のつぎ当ての着物を着ていた。男は、余計なことを言ったばかりに人柱にされてしまう。後にその男の娘は、鉄砲で撃たれた雉を見て父の運命を思い合わせ、「雉も鳴かずば撃たれまい」と歌った(熊本県山鹿市)。
『神道集』巻7-39「橋姫明神の事」 長柄の橋は架けてもすぐ落ちるので、村人たちが人柱の必要を話し合う。1人の旅人が、「浅葱の袴をはき、膝の破れを白布で繕っている人をつかまえ、人柱にすれば良い」と言う。ところが、そう言った当人がその通りの服装をしていたので、人柱にされる。旅人の妻は、野で鳴く雉が射殺されたことを思い合わせて、「もの言へば長柄の橋の橋柱鳴かずば雉の取られざらまし」と詠じた。
*「異邦人を生贄にすべし」と提案した人物自身が異邦人だったので、生贄にされる→〔自縄自縛〕2aの『ギリシア神話』(アポロドロス)第2巻第5章。
お鶴・市太郎の伝説 井堰工事が順調に進まないので、土地の地頭7人の1人湯屋弾正が、「人柱を立てよう」と提案する。地頭7人が各自の袴を川に流し、真っ先に沈んだ袴の主を人柱にしよう、と取り決める。7人が袴を投ずると、湯屋弾正の袴が最初に沈んだ。彼は、提案者の自分が人柱になろうと、ひそかに袴に石を入れておいたのだった(大分県中津市相原八幡鶴市神社。*しかし結局、弾正の家来の娘お鶴と彼女の子市太郎が、志願して弾正の代わりに人柱になった)。
おとめ桜の伝説 寛永年間、白河の小峰城修築の際、人柱の必要が議せられ、その日最初に入城する者を人柱とすることになった。修築工事に従事する和知半三郎が見ていると、自分の娘おとめが歩いてくる。半三郎は「来るな」と手で合図したが、娘は「父が呼んでいる」と誤解して、急いで入城した(福島県白河市)。
★3.人柱にされる人の身代わりに、別の人物が人柱となることを志願する。
『築島』(幸若舞) 平清盛が福原に港を築こうとするが、工事が失敗する。「30人の人柱が必要」との占いがあり、往来の人々を捕える。清盛の童松王健児が志願して、30人の身代わりにただ1人で、1万部の法華経とともに人柱に立つ。
堤の人柱の伝説 築城のため、池を埋めて堤を築くが、洪水で破れたので人柱を立てることになる。くじ引きの結果、某村から人柱を1人出すことに決まり、村人たちは悲嘆する。城主の姫君が、「そのような人柱では城主に怨みを残すことになり、役に立たぬ」と言って、自身が志願し、村人の身代わりに人柱となる(宮崎県延岡市)。
乙女ヶ池の伝説 川の氾濫で田地が流されるので、堤防を修復しようとするが、ことごとく失敗する。工事責任者の庄屋は、自家の下女である乙女を人柱に立てようと考え、工事現場に弁当を持ってくるよう命じる。乙女は弁当を持って堤防まで来て、落とし穴を踏んで水中に落下し、そのまま人柱となる。おかげで堤防は修復できたが、後、明治19年(1886)の出水で田地はまた池水と化し、乙女ヶ池と呼ばれるようになった(鳥取県西伯郡名和町)。
『まつら長者』(説経)6段目 陸奥の国安達の郡の村里で、川に橋を架けようとするが成就しない。「美女を人柱にすればよい」と博士が占い、伊勢出身の娘が川へ沈められる。娘は怨んで長さ10丈の大蛇と化し、1年に1人ずついけにえを取る。やがて川は大池となって999年が経過する→〔九百九十九〕1。
『現代民話考』(松谷みよ子)7「学校ほか」第1章「怪談」の1 八王子でいちばん最初に建てられた、第一小学校での出来事。毎夜、誰もいないお手洗いから、女性の泣き声が聞こえる。調べてみると第一小学校の建設当時、隣村から女性を連れて来て、無理やり人柱にしたことがわかった。そこで学校の裏に小さなお墓を作り、女性の霊が安らかに眠るように供養をした。今もそのお墓は残っている(東京都)。
郡山城の人柱の伝説 毛利元就が高田郡吉田町の郡山城を増築した時、何度も石垣が崩れた。普請奉行が人柱をたてることを決め、1人の娘を指名した。毛利元就は人柱を禁じ、「百万一心」と記した紙を奉行に渡して、「この文字を石に彫り、代わりに埋めよ。心を合わせてことに当たれ」と命じた。人柱なしで、郡山城は立派に完成した(広島県高田郡吉田町)
『平家物語』巻6「築島」 平清盛は福原に島を築いて港とし、往来の船の便をはかろうとした。しかし風波のため島が崩れたので、公卿たちが「人柱を立てよう」と議論する。清盛は「それは罪業である」と言い、石の面に一切経を書いて人柱の代わりとし、島を完成させた。それゆえ「経の島」と名づけられた。
『イアラ』(楳図かずお) 東大寺の大仏を建立する折、熱銅とともに美女・小菜女(さなめ)が大仏の中に溶かしこまれた。最期の瞬間、小菜女は「イアラ」と絶叫した。小菜女を愛する男・土麻呂は1千年をはるかに超えて生き続け、小菜女の生まれ変わりの女を捜し求める。遠い未来、人類滅亡が間近に迫った時、土麻呂はようやく小菜女の生まれ変わりの女と出会い、「イアラ」の意味を悟る。それは、「再びあいましょう。いつかどこかで」との思いをこめた叫びだったのだ。
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