一般・公共補償
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/14 21:05 UTC 版)
「飛騨川流域一貫開発計画」の記事における「一般・公共補償」の解説
飛騨川流域のダム開発において、住民の移転を伴う一般補償が実施されたのは川辺発電所・ダムの23戸が最初である。下表は発電所・ダム建設によって移転を余儀なくされた住民の戸数である。 各発電所建設に伴う移転戸数(単位:戸)発電所川辺朝日東上田久々野新小坂高根第一高根第二馬瀬川第一馬瀬川第二中呂移転戸数 23 66 10 11 0 69 15730 3 川辺ダムについては当時は東邦電力が施工しており、電力開発の国家的重要性を説いて最終的には円満解決されたと『飛騨川 流域の文化と電力』で述べられているが、詳細は不明である。戦後最初の補償案件となったのは朝日発電所と朝日ダム・秋神ダムにおける一般補償であり、両ダム合計で66戸水没することになった。当初は朝日村や久々野町といった関係自治体はダム建設を歓迎、朝日ダムに水没する地区住民も概ねダム建設は否定的ではなかったが、1951年に発電効率向上のため高さを一律12メートル高くすると発表したところ、当初の水没戸数24戸に加え42戸が新たに水没するため住民は挙って反発、当初融和的だった朝日村や久々野町もダム建設に否定的な姿勢を見せ、補償交渉は深夜に及んだ。最終的には日下部禮一高山市長や飛騨選出の前田義雄岐阜県議会議員、高山商工会議所が代替地を斡旋することで解決した。 東上田発電所・ダムでは当時田子倉ダム補償事件を始めダム補償交渉において高額の補償金妥結が報道されていたこともあり、住民は高額の補償金を要求。一時は事業者の中部電力が発電所建設を断念して大井川水系の開発に軸足を移そうとするなど決裂寸前に至った。この時期は水源地域対策特別措置法などの水没住民に対する法整備が未熟だったこともあり、岐阜県当局や周辺市町村の斡旋により解決が図られるケースが多かった。高根第一・第二発電所と高根第一・第二ダムの補償交渉では1963年に閣議決定された「電源開発等に伴う損失補償基準」が策定されたことから基準に沿った補償交渉が実施されたが、高根第一・第二については多額の補償金受け取りによる住民の生活基盤崩壊を防ぐため現金に代わり社債を提供して堅実な資金運用を提案、水没する69戸のうち64戸が応じている。 馬瀬川第一発電所・岩屋ダムでは水没戸数が157戸と多数に上り、補償交渉を担当した中部電力と地元住民の間で水没見舞金の支給を巡り当初は激しい対立があった。しかし岐阜県が水没見舞金の呈示に前向きな姿勢を示した段階から住民の態度も軟化。岐阜県・益田郡金山町(現在の下呂市)長の斡旋、また水没はしないがダム建設によって地域から地理的に孤立する少数残存者補償を受け入れるなど事業者側も譲歩したため、住民側も事業者側の提示する補償基準に合意。水没住民の移転を含め大規模なダムとしては異例の3年目で交渉が妥結している。ダム規模が同等で当時激しい反対運動により事業が長期化していた八ッ場ダム(吾妻川)、大滝ダム(紀の川)、川辺川ダム(川辺川)などと比べほぼ円満な解決であり、水没予定地にはダム反対運動によく見られる「ダム反対」の看板や幟が全くみられなかったという。 一般補償については水源地域対策特別措置法といった法整備がない状態であったが、基本的には流域自治体が電力開発に理解を示し交渉妥結のために様々な斡旋を行ったことが、頑強な反対運動にまで発展しなかった理由である。一方公共補償については報奨金という名目で学校や消防施設、医療機関の建設や道路・上下水道の整備などが中部電力の負担で実施され、特に道路については劣悪だった道路事情の改善に寄与している。またダムや発電所建設に伴う固定資産税収入は自治体の財政において無視できない位置を占め、1974年(昭和49年)には電源三法(電源開発促進税法・発電用施設周辺地域整備法・電源開発促進対策特別会計法)が施行され、特に発電用施設周辺地域整備法については完成して年月の経過した発電所も対象になることから自治体の公共事業整備に役立っている。 その反面、多くの住民が移転したことにより過疎化が進行、旧朝日村では60戸300名が高山市などに移転したため急激に人口が減少、旧高根村では人口の16.5パーセント、世帯数の16パーセントに当たる65戸350名がやはり高山市などに移転し過疎化に拍車を掛け、旧金山町では152戸836名、旧馬瀬村では特に下山地区が25戸155名の集落全体が関市などへ移転。これらの地域では深刻な過疎化を招いている。
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